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 作り出したアイスクリームはプリメラさまに大好評でした。

 あの愛らしい顔を見られるなら色んな味を試作しないといけませんね!!!

 でも牛乳と砂糖たっぷりのアイスは確かに美味しいですが、そればかり食べて太ったり虫歯も心配だなあ。


 そうだ、次はシャーベットなんかもいいですね!

 アイスがあるんだから、あまり甘くないホットケーキに添えるのもいいし!

 アフォガートもいいかもしれない!!

 エスプレッソマシンはさすがにないけど、コーヒーも紅茶もあるんだからできないことはないだろう!


 ああー、プリメラさまが喜んでくれると思うとウキウキしちゃうね!!



 ……なんて浮かれて街に来たのがいけなかったのかもしれません。

 出来る侍女を自称しておきながら、なんということでしょう。

 目当ての新作の小説を買いに来たというのに、売切れていました……地味にショックです。

 流石に落ち込んだ姿を衆目に晒すわけには参りませんので、取り寄せをお願いして店を後にいたしました。


 はぁ……あの推理小説、続きがすごく気になるのに……!!


「きゃっ!」


 とかぼんやりしていたせいでしょうか。

 曲がり角で人にぶつかってしまいました。

 これが道のど真ん中、馬車とかでなくて本当に良かったです。

 慰謝料も医療費も馬鹿にならない上に、前世のような高度医療なんてものはありませんからね!!

 え? 魔法?

 何言ってるんですか、いくら魔法使いがいるからっておいそれと誰もが看てもらえるわけじゃありません。


「す、すまない!! よそ見を……侍女殿?」


「えっ、あら……これは、ディーン・デインさま」


「本当に申し訳ない。鍛錬の帰り道で反省をしていたらぼうっとしてしまったようで……」


「いえいえ、私もぼんやりとしておりましたので。大変申し訳ございませんでした」


「そう言っていただけるとありがたい。お怪我はないだろうか」


「何も大事ございません」


「……ところで、眼鏡が落ちてしまったが見えているのか?」


「ああこれは……ただのガラスですので」


「え?」


 まさかのディーン・デインさまと遭遇。

 なんのイベントだこれ? ゲームにはなかった……っていうか私モブだった。


 私の眼鏡……瓶底眼鏡と言われているコレは、実は伊達メガネなのだ!!!

 理由はまあ、この世界イケメンだの美女だのが勢ぞろいしてるもんだからさ……モブ精神ど真ん中の私は目を見てお話しできないの。

 それにこの国の美女の条件っていうものがあってね。


 ひとつ、二重でまつげが長いこと。

 ひとつ、色白であること。

 ひとつ、細く儚げな体躯であること。

 ひとつ、金の髪が望ましい。色が淡く美しいものであればあるほど価値がある。


 これが美女の条件である。


 対する私はというと。


 一重で切れ長の目、まつげは普通。

 色白なのは認めるが、白皙かと言われるとそこまででは……日焼けしてないだけなので。

 太ってはいないが骨太な上、中肉中背だからゴツく見える。

 極めつきは黒髪だ。金色なんて掠ってもいません。


 どうだ、美女の条件を満たすのが難しかろう!!!

 特に一重で切れ長の目というのは逆に珍しくて、人によっては隠しもせず笑ってくるから始末に負えない。

 宮廷という場においては例え見習いだろうとご婦人方も容赦なく、私という道化を笑いものにして会話の種にしていることもあったくらいだ。

 いやになってくるっつーの。


 こちとらしがない子爵家の、前世もしがないOLですんで……あんまりメンタルは強くないんで……。


「……なんだかよくわからないが、つけていると安心するのか?」


「はい、左様でございます」


「そうか。俺もそういうのがあるから、なんとなくわかる気がする」


「……まあ、そうなんですか?」


 笑ってディーン・デインさまが眼鏡を拾ってくださった上に、私の手を取ってそっと渡してくれた。

 んまあ、この少年、紳士ですわあ……。お兄さんの教育が行き届いているんですかね?

 まあ、でもあの字の汚さはないけど。あれは確かに解読班が必要なレベルだわ。

 あっ、彼は成人していない子供なので名前を呼んでも許されるのだ。

 女性は成人していなくても、どこかもっと上に嫁ぐ可能性があるから貴人の名前を呼ぶのは禁止だけどね!

 ややこしいでしょう。うん、ややこしいでしょう!!


「子供っぽいと思われるかもしれないが、母上からいただいた栞を持っていると賢くなれる気がするんだ。だから家庭教師に会うときはポケットに入れている」


「まあ!」


「……正直効果のほどが出てないんだけどさ」


「そんなことはございません、きっといずれの時かに今まで学んだことが活かされることでしょう」


「侍女殿は貴族の子女なのだろう? やはり行儀見習いに出られる前は家庭教師がついて、それで苦労とかもしたのか?」


「ふふふ、そのようなこともございました」


 少年らしい真っ直ぐな態度に、私も少しだけ気分が良かった。

 丁度ディーン・デインさまは郷里が恋しくなった私にとって、弟を思わせたからだ。

 最近弟が反抗期なのか、お手紙書いても返事をくれないんだよね……。


 あ、お父様? お手紙なんてくれないし、宮廷で良い結婚相手を見つけろとか良いコネが出来たら紹介してねとか碌な事言ってきません。


「良ければ城門まで送りたいんだけれど」


「……ディーン・デインさまは宜しいのですか? お供の方などは……」


「いない、途中で撒いてしまったからな。……反省はしている」


「ならばよろしいですが。あまり褒められた行為とは思えません」


「うん……。少し、彼らと俺とでは考えが違っていて、ちょっと息苦しくなったんだ」


 (主に解読の意味で)お兄様を通じて手紙のやり取りをしている所為でしょうか。

 ディーン・デインさまは私に対して信頼を見せてくださっているようです。

 それはありがたいですが、これは……良い事なのでしょうか。

 今はまだ公認であっても非公式なプリメラさまのご婚約者という方とこのように並んで歩いている上に、かように親しくお声をいただくなんて!


 え? 王弟殿下とかいやですね、あれはあの方が寄ってくるんですよ。

 少しばかりぞんざいに扱ってもバチが当たらないくらいこちらは迷惑も被ってますからね!

 お菓子などでは案外的確な感想をいただけるので重宝はしておりますけども。


「考えの相違でございますか」


「うん……その、侍女殿は兄上と何度も会われていると聞く。あ! 兄上が俺のことを頼むのと、俺からの相談の手紙と両方にいつも応えてくれてありがとう! 礼をずっと言いたかったんだ!!」


「まあ、そのようなこと他愛もないことにございます」


「……侍女殿は、兄上のことをどう思われる?」


「アルダール・サウルさまですか? 大変優秀な方だと思います。あの若さで近衛隊に勤め、礼儀作法もしっかりなさっていますし、少々複雑な家庭環境でも今後をしっかり見据えておられる辺り尊敬できます」


「そ、そうか!! 俺もそう思う!! 兄上は凄いんだ」


 ぱあっと笑顔になったディーン・デインさま。天使か。

 プリメラさまとは違うタイプの天使だこれ。


 なんていうんだろう……柴犬? 柴の子犬?

 落ち込んでたり笑顔になったり忙しいなあ、そして微笑ましい。


「でも、やっぱり兄上を良く思わないやつらがいて……それが今の俺の侍従なんだけど……それも父上が姫のお相手になるなら侍従くらいいないとって無理矢理つけたから、親戚筋なんだ」


「なるほど。アルダール・サウルさまは優秀ですので、やっかみと伯爵家の跡目争いのことを外野が案じておりますのね」


「そうなんだ。父上も兄上も、俺が跡目だと明言してくれているし、その為に兄上は社交界デビューを果たしても決まった女性と縁を結ぶこともなく今でも暮らしている。俺としてはその期待に応えるためにも立派な騎士になりたいと思っているんだけど、あいつらは……すぐに俺が努力して成し遂げたことを褒めてくれるけど、褒めたそばから兄上を貶すんだ。そんな必要ないのに!」


「まあ……」


 褒めて伸ばすというよりはその侍従はディーン・デインさまが当主になった後に取り立ててもらおうとゴマすろうとして失敗してるパターンだなこりゃ。

 で、ディーン・デインさまもまた真面目な、しかも思春期の少年特有の潔癖な部分と正義感と、責任感からどうしていいかわかんないんだなこりゃ。


 それで騎士として立派になって周囲を黙らせようとした結果がドMなのか恋愛しらずの人間になるかなのか。

 まあ今の段階で姫に恋する少年騎士っていう耽美小説とかになりそうな状況だからそこまで心配することもないだろうけど。


 でも念には念を入れて、だ。


「大丈夫ですわ、ディーン・デインさま」


「えっ?」


「ディーン・デインさまの努力で剣技は腕を上げているとアルダール・サウルさまは仰っていました。その上で勉学にも励まれるとよろしいかと存じます。特に、礼儀作法と字の美しさを磨かれるのは必須です。勿論基礎学のいずれも大事でございますが、それは一生をかけて学んでいけます。しかし礼儀作法と文字は一生の中でも特に生涯影響を与えると言っても過言ではございません」


「そ、そんなにか?!」


「例えば、ディーン・デインさまに実感していただくとすると……そうですね、騎士団長である伯爵さまの右腕と呼ばれる剣豪の方がおいでですね。あの方に指導をお願いするにあたって、きちんとした礼儀作法を守った美しい文字の手紙が届くと致します。汚く読み辛く礼儀のなっていない手紙よりもずっと好感を持って頂けるはずですわ」


「う、うん……」


「好意を持った相手であれば、指導もやぶさかではないと仰っていただけるかもしれませんし、指導していただけなくとも良い印象には残るでしょう。そこから学びが広がることはあっても、閉ざされることはございません。また騎士になられた後もお礼状を書くのに自筆は欠かせぬものです。礼を尽くした美しい文字はそれだけで価値がございます」


「そんなに……」


「汚い文字は見る気が減っていきますし、礼儀がなっていない相手はできれば近づきたくないものですわ。ですからディーン・デインさまは武の才能があるのです、礼儀と美しい文字を得られればさらにその才を広げることが可能かと存じます」


「……あんまり、勉学は得意じゃないんだ。でも、頑張ってみようと思う。……いや、思います。ありがとうございます」


「あら、私ごときにそのような……」


「いや。侍女殿は俺にひとつの道を示してくださった。俺はその期待に応えて、兄上や父上をがっかりさせない男になりたいと思う。姫に、胸を張って会いに行ける男になりたい。だから、感謝の気持ちを身分だけで隠したりはしたくない」


「……ご立派です」


 うん、この子はやっぱり姫とは違うタイプの天使だわー。

 アルダール・サウルさまが可愛がる理由がよくわかるね。


 ……うちの弟はどうしてるだろう。


「そうだ、今度兄上と買い物に出かけるんだが侍女殿にも同行願えないだろうか!」


「え?」


「そ、その……姫に、姫の誕生日に、贈り物を……したくて」


「まあ」


 顔を赤らめる美少年。ごちそうさまでした!

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