647 自業自得と言われればそうなんだけどさあ!
今回はハンスさん側の話。
ハンス・エドワルド・フォン・レムレッドという男はレムレッド侯爵家の三男として生まれ、何事にも器用な分だけ損をする性格の主であった。
両親のことを尊敬しているし、兄二人のことも大好きだ。
妹に関してはもう面倒を見すぎて鬱陶しがられてしまって涙に暮れたのは今となっては懐かしい思い出である。
その要領の良さと情の厚さから〝適任〟であると見出され、特にこれといった夢を思い描いていたわけでもない少年は父親に言われるままに騎士の道に進み、貴族を見張る貴族の目となり耳となり動いていた。
基本的に軽い言動を取ることで特定の誰かと親しくなることを避けつつ、大勢とそれなりに上手くやってこられたわけだが、いい加減年数を重ねるとそれも辛くなってくるというもの。
そんな中で数少ない、本音で話せるようになった友人の婚約に伴いその柵から解き放たれたわけだが……。
(やらかしたなあ!)
本人も、自覚はしている。
これまでだったら気づかなかったふりで何もなかったように振る舞えた。
だが、そうしなくてよくなった以上、見過ごせなかったのだ。
大きな図体を丸めてグスグス泣く少年は、自分と同じ侯爵家の三男坊。
しかも同じ名前とくれば、顔見知りでかつ情に厚いハンスは見捨てられなかった。
甘いと言われればその通り。
事実、そのせいで余計な苦労をしているのだから。
同じ侯爵家であることから、レムレッド家とバルトチェッラ家はそこそこ交流があった。
お互いに立場もあるのでそこまで親しいかと問われればそうでもないのだが、まあ、子ども同士の交流に関して言えば〝ちょうどいい〟と言ったところだったと思われる。
ハンスも兄たちと一緒に、バルトチェッラ家の上の息子二人とは何度か遊んだ覚えがあった。
彼らの弟のハンスを紹介されたのは、ピジョット家に遊びに行った時だったか。
バルトチェッラ家は家族仲が良く、そういう意味で同じく家族仲の良いピジョット家とはレムレッド家よりも親しくしていたようにハンスには見えた。
おしゃまなスカーレットがその頃、随分と自分に懐いてくれていたことを懐かしく思いながら、ハンスは頭を抱える。
(あの頃の思い出があるからつい……そう、つい手を貸しちまったのが悪かったのか。下手に同情したところを見せたのが運のツキだな、親父にも言われたってのに)
そう思うが、予想外が生じたんだからしょうがないだろ、とハンスは誰かに文句の一つも言いたい気分でもあった。
何故なら、スカーレットの価値を感じてバルトチェッラ侯爵家が縁談を申し込もうとした。
それを末息子が良く思わず、身代わりになると申し出た。
まあ、それだけなら美談の一つだろうし、やらかしたこともまだ社交界に出る前の少年のしでかしたこと……として、それこそユリアが侯爵に苦言を呈したことで後は保護者がなんとかすべき問題、にまで落ち着いたのだ。
ところが、である。
当事者であるヘンリー・エルロレム・フォン・バルトチェッラ。
つまりスカーレットと縁談を組ませようと思っていたバルトチェッラ侯爵家の次男にして、末のハンスがダメにしてしまったわけだが、そのヘンリーはなんとスカーレットを好ましく思っていたという事実がここに来て判明したのである。
そう、ややこしいことこの上ない事態になったのだ。
ヘンリーがスカーレットにアプローチをしなかったのは、スカーレットが友人でもあるレムレッド家のハンスに片思いしていたから。
そして当のハンスはスカーレットに想いを寄せられても、お役目上誰かと親しくなるつもりもなければ、個人的にも可愛い妹分としてしか見られなかった。
(くっそ……)
そのため、この縁談はヘンリーにとっては大変喜ばしいものだったのだ。
きっとバルトチェッラ侯爵はそれを知っていたからこそ、ちょうどいいと思ってのことだったのだろうが……。
当然、今回末息子がやらかしたことを考えれば縁談を申し込むことは難しくなり、バルトチェッラ侯爵も引き下がるしかないだろうとハンスは考える。
ヘンリーにはすでに話を通し、申し込みをして見合いの形で席を設け、そこから……となる予定が完全にご破算である。
とはいえ、少なくともこの段階でハンスは何も悪くない。
騒ぎが大きくなる前にバルトチェッラ家の末息子を王城から連れ出して、王女宮の侍女に対する無礼に関して小さな取りなしをお願いした上で王都内にあるバルトチェッラ侯爵家のタウンハウスに送り届けただけである。
「あ、あにうえ、が……」
しかしながら弟の行動で長年の片思いがとんでもない形でご破算してしまったヘンリーの気持ちを思うと、怒ってもしょうがないと思う。
弟の行動がたとえ善意であっても、やっちゃいけないことはあるのだ。
でもだからって、兄に怒られた、嫌われたかもしれないと泣き付かれるなど想定外である。
あの日、送り届ける時に『何かあったら相談くらいは乗るから!』なんて言ってしまった自分をハンスは殴りたい。
アルダールにも言われてしまった。
知り合いだからって甘い顔をしていると、苦労するのは自分だぞ……と。
(まさにそうだな!)
厳めしい少年に泣きつかれ、途方に暮れるハンスであった。
今年も一年、転生侍女を楽しんでくださりありがとうございます。
今年最後の話は苦労人ハンスさんでした笑
まだ物語が続いておりますので、来年も引き続き楽しんでいただけたら幸いです!




