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クリストファを見送って、私はホッと一息つきました。
(それにしても……)
あの人たちのことを知らせて私が安心するとビアンカさまは思ってらっしゃるんですよね?
ということは、きっと他にもそう思われてそうですよね?
なんかそういう雰囲気は前々から感じておりましたが……えっ、私どれだけ甘い人間だと思われているのでしょう!
いえ、自他共に認める甘ちゃんだとここはあえて受け入れましょう。
ええ、ええ、私は大人ですからね。
自分を客観視できる程度には冷静ですよ。はい。
とはいえそこまで気にしていたかって問われると、そうでもないんですよね……これが。
言われるまで思い出してもいませんでしたよ。
え……だって、接点ないですしね……?
そりゃまあ出会うかもって思うような時には思い出しますよ、対策するために。
いつまでも気にして『困ってたら援助しなきゃ!』とか考えるイイヒトだとでも思われている……?
いや、まさかねえ!
でもあの人たち、私のことをすごく良い人間だと思ってる節があるから……。
(いやいやいや……考えないでおこ)
とりあえず安心して(?)結婚式に臨めるというのは良い情報ですよ。
私はどうでもいいけど、アルダールの安心材料になるかもしれませんしね!
……いや、アルダールはなんだったら脳筋公爵が突撃してこないか、そっちの方を心配していそうな気もしますが……。
むしろそっちの方が私も心配だな!?
よその国の公爵さまとか飛び込みでやってきたら本当に目も当てられない大惨事!
普通なら光栄と思うところですが、諸々周囲に気を配っている私たちの努力がパァ!
あっちこっちからクレームが来かねませんよ。
いやですよおめでたい結婚式でクレーム対応なんて。
(気をつけよう……本当に気をつけよう……!!)
ようやくここまで漕ぎ着けたんですから、結婚式くらい平和に挙げさせていただきたいじゃないですか。
まあ勿論大急ぎな段階で普通〝じゃない〟わけですし、国王陛下が私たちの婚約を結んだことを考えれば特殊としか言いようがありません。
それでも!
平和が!
一番なんだったら!!
(……ってことはこのリジル商会の新作発表展、私は不参加の方がいいか)
大きな商会が時々お得意様だけに送る招待状。
リジル商会も最近ではプリメラさまが社交デビューしたことで、よりいっそう買い物をしてくれる顧客としてみているのでしょう。
この新作発表展というものには私も参加したことはございません。
ただ、王子宮筆頭から話は聞いておりますので内容は存じております。
新進気鋭のデザイナーの新作を一挙に紹介し、シリーズとして売り出す戦略ですね。
大体が高級志向のものなので、上得意様だけに送られるってわけです。
ちなみに後宮筆頭は? って思ったでしょう。
王妃さまクラスになりますと、『お前が来い』と店舗に言う側なので……。
ならなんで王子と王女には? となりますでしょう?
そこはですね、王子と王女がお忍びで出られる王家公認の息抜きってやつです。
まだプリメラさまには確認を取っておりませんが、私ではなくセバスチャンさんについていってもらいましょう。
もし王太子殿下が行くのであればきっとニコラスさんもいるでしょうし。
ライアンと裏で喧嘩されてもアレですし、セバスチャンさんならなんとでもしてくれること間違いなしです。
メッタボン?
だめですよ、また調理器具が増えたら困りますから!!
(しかしクリストファの言う『静か』って逆に気になる話だったかも)
脳裏に浮かぶのは、憔悴したミュリエッタさん。
初めて会った頃はあんなに溌剌としていたのに、思えば不思議なものですね……。
(それとなく、セバスチャンさんに見てきてもらおうかな)
接触する気はありませんが、なんかやばそうな雰囲気だとかそういうのは知っておいて損はないですからね!
あくまで自衛ですよ、自衛!!