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結局その日もプリメラさまは全部を決めることができず、オーダーシートとのにらみ合いはまだまだ続くようです。
可愛いですね!
私も今年……というか新年祭なので来年ですけど、その次はどうすんだって今から思い悩む未来が見えているんですよね実は。
今回だって実は結構心配しているんですよ、ええ。
生誕祭から新年祭にかけて、あっちこっちでおめでたいことを前にお祝いムードになるじゃないですか。
で、ちょっとしたパーティーとかお裾分けとか、振る舞い酒とか……まあとにかくそういうことが豪勢になりますよね?
でもって家族や親しい友人・知人と過ごす時もパーティーだから普段よりもちょびっと豪勢な料理を作ってみんなで舌鼓を打つじゃありませんか。
そう……いわゆる、年末年始の食べ過ぎ事案が懸念されるのです。
普段ならばいいですよ。
私も勤め人ですし?
侍女としてあちこち走り回っていれば、パーティーに参加もしないでプリメラさま含めた王族の祭事に付き添い、気を張り続けますしね?
それなりに重労働ですから! ええ!
でも今年からはパーティーが増えるんですよ。
しょうがありません、ミスルトゥ子爵家が始動するんですからしっかりと社交しなくては。
でもまあそこもね?
多少は……うん、まあ、多少はドレスに手を加えて緩やかに、なんて方法がなくもないですからね? あんまりやっちゃいけないことですけど!!
(しかしそれはあくまで、一般的なドレスに限っての話)
私は! 新年祭の後に結婚式を控えている身なので!!
ありとあらゆるご馳走と、美味しいお酒、デザートの誘惑に勝たねばならないなんて……ああ、なんてことでしょうか。
絶対生誕祭のパーティーとか美味しいお酒とおつまみが揃ってますよ!
アルダールのことだから、生誕祭と新年祭における〝家族でのお祝い〟も張り切って美味しいお店とか探しているに違いありません!
そこに私自身がチョコレートのパイっていうカロリーをぶっ込んでいくわけですからね!!
ウェディングドレスのためにスタイルは絶対に維持しろって針子のおばあちゃんからも注意されているのにこの結婚式前の誘惑は悪魔か!!
「ユリアさま」
「あらクリストファ」
そんな風に書類を確認しながら打ちひしがれていると、クリストファがやって来ました。
なんだか会うのは久しぶりです。
そういえば最近はビアンカさまが公爵領に戻る際にもクリストファを連れて行っているという話をしてくださったので、以前はそれについても『微笑ましい』としか思わなかったんですけど……。
(ビアンカさまのことだから大丈夫だと思うけど)
それってやっぱり有能な〝影〟であるクリストファには、そういうお役目があったりとか……?
ってちょっぴり怖いことを考えちゃいますね!
ほら、ゲーム内では暗殺者扱いでしたから!!
「奥方さまから、お手紙……」
「ありがとう。お返事はいるのかしら」
「うん。口頭で、大丈夫、です」
「そう。あ、クッキー食べる?」
「食べる」
相変わらず言葉少なめで表情も乏しいですが、私には懐いてくれているんだよね。
これって演技じゃないと私は信じていますが……そう考えると〝影〟の人って私に新設だよなって思わずにはいられません。
(あれか、モブだから敵にならないので気にすることもないってことなのかな……)
だとしたらそれはそれでなんかちょっと悔しいですけど。
そんなことを思いながらビアンカさまからのお手紙を見ると、社交界の噂話で押さえておくポイントなどを今度詳しく教えたいから、領地に戻る前に気軽なお茶をしましょうねっていうお誘いでした!
相変わらず私のタイミングを見つつお誘いをくださるこの優しさあ!
ビアンカさまも筆頭公爵家の夫人として、社交界の華としてお忙しいのに……いつもお世話になっておりますありがとうございます感謝してもしきれません!!
すっかりビアンカさまはプリメラさまの先生と言うだけでなく、私にとっても貴族としての先生ですね……。
「それとね」
「何かしら?」
「……ユナ・ユディタは頑張っているみたい。あの時とは別人みたいで、あっちの国の人が気味悪がってたって」
真面目に働いて気味悪がられるなんて、ユナさん……。
思わず突然の報告なのに遠い目をしてしまいましたが、しようがないでしょう!
「それから、ミュリエッタ・フォン・ウィナーもすごく……落ち込んでる? 静か」
「そ、そう……」
「だから心配せず、結婚式を楽しんでって奥方さまが」
「……そう」
過保護だなあと思いつつ、私はそっとビアンカさまのお気遣いに感謝いたしました。
別に気にしちゃおりませんでしたが、誰かが彼女たちのことを気にかけている……それでいいじゃありませんか。
ただまあ、それが親切とは限りませんが。
(そこは突っ込んじゃいけないわよね!)




