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茶会のお誘いが一通も来ない。
普通に考えて、おかしな話である。
わかってた。わかっていましたとも。
でも人間、自分にとって都合良く解釈したい時ってあるじゃない?
今がまさにそうだったってだけの話でですね……っていう言い訳は通用しないことも理解しております。
淑女として活動するのはちょっぴり面倒くさいなって思っていたのでちょうどいいとか考えてましたごめんなさい!
(送り先を実家のファンディッド家にしているから届かない……って可能性はある)
けれど私が王城の、王女宮の筆頭侍女であることはすでに知られている話。
なのでわざわざ実家に送る人はいないだろうし、いたらいたでそういう人はお相手するに値するかどうかって判断材料の一つだとは思います。
それに、もう一つ有名なのは私があのアルダール・サウル・フォン・バウムと婚約しているってこと。
アルダールはただでさえバウム家の長子。
それだけじゃなくてバウム伯爵さまのせいであれこれ噂の的だったし、それ以外にも剣聖候補だったり本人の格好良さだったりと、何かと注目の的だったわけで……。
彼はこれまで恋人といった存在を作っていなかったってこともあって、正直なところクーラウムの貴族令嬢や富豪のお嬢さんたちが彼の隣をずっと狙っていた。
そこに私が現れて、今度は叙爵だものね?
王都に居を構えたって話はすでに知られているし、そこに私が出入りしていることを知っている人も少なくない。
というかむしろ暮らしているんだし、貴族街ってこともあって王都に出入りするような貴族家はほぼ知っていると考えるのが普通だ。
(だから招待状がアルダールと一緒に暮らすあの家に届いていないってのは、不自然すぎる)
ついでに言えばアルダールにサロンのお誘いが届いていないこともね!
二人して面倒だからその現実に目を背けていたってことは否めない。うん。
いやだって本当にね、そういうお茶会やサロンっていわゆる貴族の社交は園遊会の前からちょくちょく始まっているんだけど……正直私たちは忙しかったんです。
おそらくこの忙しいからお仕事に専念させて欲しいって気持ちは、宮勤めの人たちなら共感してくれるはずです!!
そしてその園遊会が終わり、後始末も終わってようやく一息つけた状態で……やっぱり社交とか疲れることしたくないじゃないですかー、やーだー。
そもそも私、これから結婚式に向けて体調の調整とかスタイルキープとかまだドレスの調整や結局お客様を招かないぶんだけミスルトゥ子爵家のお披露目どうすんだとか、考えなきゃいけないことが山のようにあるんですよ……!
「でもさすがにだめよねえ……」
「そうですわね……事前にある程度の挨拶が済んでいれば、やはり何事も後が楽ですから……」
私の言葉にデボラさんも頷きました。
送っても来ないだろうなってのも含めてパーティーは招待状を手広く送るもの……私はそのように学んでおります。
話題の人が自分のパーティーに来てくれたらラッキーくらいの感覚で。
高位貴族の方をお招きする場合もありますが、それはあくまで自分のところの派閥繋がりとかですでに知人レベルでいいからお互い顔を知っていることが前提です。
そうじゃないと失礼にあたりますからね! ここ試験に出ますよ!!
これが下級貴族のパーティーでの心構えですね。
高位貴族になると、自分の派閥や他の派閥、そういった人々をどう繋ぐか……ってことに頭を悩ませるそうですが、自分より目下の家に興味本位で招待状を送る人も少なくないってビアンカさまが以前仰ってましたね……。
(身勝手に呼びつけるのは品位に欠けるからそういう貴族家には注意しなさいって言われたけど)
うーん、本当に面倒くさいことこの上ありません。
しかしながら、このままでいいことでもありません。
正直放っておけるなら放っておきたいですが、ちょうど手も空いたこの隙にやらねばならぬことを片付けると致しましょう。
「問題はどこで止められたか、ですね……」
そう、一通も来ないなんておかしいでしょ。
アルダールにも、私にもだなんてそんなことある? いいえ、ありません(反語)。
かといって嫌がらせか? というとそうでもないと思うんですよね。
だとしたら、誰なのか。
正直言えば私はそれなりに大きな貴族家と付き合いがありますし?
興味本位で誘ってくる人って絶対にいると思うんですよね。
勿論、アルダールとお近づきになりたいだとかその他諸々虎視眈々と繋がりを求めた人たちとかね。
じゃあそれを抑え込めるのは誰か?
かなり絞られると思うんですよ。ええ、そりゃもうね。
「……仕方ありませんね。デボラさん、お伺いを立てに行ってくれますか」
「はい、かしこまりました。どちらに?」
「王太后さまのところに」
こういう時こそ頼るべき相手、遠回りせずに直でいっちゃいましょう!!