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園遊会が終わったら少しは落ち着くのか――と問われれば、そうでもありません。
プリメラさまが正式に社交デビューしてからというもの、大きな茶会やサロン、夜会などのお誘いはちょくちょく届くようになりました。
いずれ降嫁なさることを考えれば、人脈として……というよりも箔付け的な意味合いの方が強いかもしれませんね。
やはり陛下や王太子殿下に溺愛されているっていうのは強いですからね、インパクトが。
そうなると我々としては重要度別に招待状を選別、スケジュールと合わせてご確認いただいた上で参加・不参加問わずお返事をしていただかねばなりません。
とはいえ全部にプリメラさまが対応していては手も足りませんので、今後も私的にお付き合いしていきたいかどうかで代筆対応にするかどうかってのを決めていくようになります。
まあね、代筆はデボラさんとスカーレットの二人態勢になったことですしどんと来いって感じで二人もむしろ燃えていたので……。
なんだかんだデボラさんもすっかり王女宮に馴染んでますよ! いいことですね!!
そうそう、スカーレットと言えば、園遊会で魔法使いだという彼女の兄に会うこともできましたよ。
二言目には『塔に戻りたい』と言って、上司の方に叱られている姿でしたけど。
スカーレットは特に表情を変えることなく『ああ、アレがワタクシの兄ですわ!』と言っていたのでわかったことですが。
いえ、あれは表情を変えることがなかったというよりも無でしたね。
スカーレットの無表情、ちょっとレアでした。
表情豊かな彼女もそんな無になることがあるんですね……。
「園遊会も無事終わり、プリメラさまの社交も王太后さまよりお褒めのお言葉を賜ったと統括侍女さまより通達がありました。みんな、よく頑張りました」
プリメラさまが社交をなさるにあたって、ライアンとデボラさんにその補佐を頼みはしましたが……それまでの下準備、その他諸々王女宮一丸となっての準備でしたからね!
上司として全員に労いの言葉をかけてから、普段の生活に戻ったわけですが……。
「ユリアさまは次は生誕祭に向けて個人の準備もおありなのでは?」
「そうですよねえ、初の婚約者としての貴族社交をなさるんですよね?」
「こちらの業務はセバスチャンさんに指示していただければワタクシたちも精一杯努力いたしますわ! どうにもならなかったらユリアさまにお願いしますけど!」
そこはしっかりやりますって言ってくれてもいいのよスカーレット!
でもできない時は報・連・相って普段から私が口を酸っぱくして言っていますからね!
教育が行き届いていると思えば素晴らしい!
「……でも私も貴族年鑑もこの園遊会前にチェックし終わっていますし、ドレスはすでに仕上げ段階。装飾品も準備済み。ダンスの練習もある程度は終わっているんですけど……」
事前社交でお茶会などに行くってのも一つの方法ではあるんですが、知人を増やしておくってのは大事ですからね?
おそらくみんなが心配してくれているのは、仕事してないでそっちに行っていいですよって意味だと私もわかっちゃいるんですよ、うん。
でもそれより何より大前提としてですね?
「……実はね、そういうお便りは私に一つも届いていないの……」
気まずさに私が目を逸らしながらそう言えば、私の執務室内がしんと静まりかえりました。
そしてそのままみんな驚きに大きな声を上げるのでした。
みんな! 淑女としての嗜みお忘れ無く!!