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「はじめまして、レディー」
「……はじめまして」
レディー!?
まさか麗しい女性からそんな呼びかけをされるなんて思いもよらず、返事が僅かに遅れてしまいました。
くっ……失態です。
しかし、私の前に立つ女性はなんとも……なんともかっこいい!
王太后さまやビアンカさまの、淑女の頂点として凜と咲く大輪の花とはまた違うのです。
そう……系統的にはレジーナさんたちのような、強い女性タイプ……!
いえ、アドリアーナさまは元々剣を手になさる女性とのことでしたので、そういう点でも淑女というよりは騎士に近しい雰囲気を持っていてもなんら不思議ではありません。
でもなんと申しましょうか、そのような美しくもかっこいい女性に『レディ』なんて微笑みながら呼びかけられてドキッとしてしまうのはもうしょうがないじゃないですか!!
「すでに知っているとは思うけれど、私の名前はアドリアーナ。そこにいるギルデロック・ジュード・フォン・バルムンクの妻です」
「……クーラウム王国、王女宮筆頭を務めておりますユリア・フォン・ファンディッドと申します。バルムンク公爵夫人におかれましてはごきげんうるわしゅう、園遊会をおたのしみいただけているでしょうか」
「ええ、勿論。とても見事な薔薇の数々に圧倒されているわ」
にこりと微笑むアドリアーナさま。
ここがもし劇場で、この方が役者だったなら場内はもう黄色い声援がそれこそ老若男女問わず上がりそうだなって思いましたよ。
美形を見慣れているはずの私でさえドキドキしちゃう!!
アドリアーナさまは貴族夫人としては珍しく短髪で、両サイドの髪からリボンを編み込むようにして襟足から後ろに流しておられます。
リボンの中心には大きな宝石が遇われていることもあって、リボンを使っているのに可愛らしいというよりも艶やかな印象を受けました。
「以前夫が失礼な態度をとったとのこと、こうしてお詫び申し上げる機会を得られて嬉しいわ。私からも謝罪をさせてもらいたいのだけれど、受け取っていただけるかしら」
「私こそ、バルムンク公爵さまには窮地を救っていただきました。過日はお世話になりまして……」
「ふふっ、貴女を愛人に迎えたかっただなんて抜かしたこの男をいくらぶん殴ったところでどうにもならないと思ったけれど……そう、貴女の助けになったことがあるのならよかったわ。この国ではあまり役に立たないでしょうけれど、シャグランにお越しの際は是非当家を頼ってくださいね。お力になると約束いたしましょう」
「ありがとうございます」
なんかいろいろ物騒な言葉が交じってましたが、アドリアーナさまの言葉はすんなりと私の中に入ってきました。
私……かっこいい女性に弱いんですね! わかりました!!
「後ほど、夫の兄弟弟子だというバウム卿にもご挨拶したいのだけれど……間に入っていただけるかしら?」
「承知いたしました」
「ありがとう。それではお仕事の邪魔をこれ以上しては悪いから、私たちは行くわね。また後ほど」
「はい。どうぞ園遊会をお楽しみくださいませ」
勢いでアルダールとの挨拶も約束してしまいましたが、まあ今の脳筋公爵となら大丈夫でしょう。
そもそもアドリアーナさまが勝負を挑むのを止めてくださるでしょうし!
他国の高位貴族が挨拶したいって言ってくれているんですから、今後の社交を考えたら断りづらいですよね。
……今後は、もっとこういうのが増えるんだろうなあと思うと気が重くなるのでした。
(それにしてもアドリアーナさま、かっこよかったなあ……!)