表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
628/640

625

 その後、ジェンダ夫妻はプリメラさまを前に涙をこらえつつご挨拶をすることができました。

 なんでもナシャンダ侯爵さまによると、お二人の中にはかなり複雑な感情が生まれていて言葉にできないのだろうとのこと。


 プリメラさまはオリビアさまの面影を強く残しておられるとはいえ、本来は言葉を自由に交わすことも許されない尊い御方。

 孫を思う気持ちも、こんな可愛いプリメラさまを残して天上へと行ったオリビアさまへの気持ちも……諸々、思うところはあるはずです。


「それでも、ユリア嬢がいてくれて本当に彼らの心は救われたと私は思っているよ」


「私ですか」


「ああ、君だとも。君以上にジェンダ夫妻の心を慰めた人はいないさ」


 私がしたことは王女宮に所属する人間として、王女殿下が健やかで優しくお育ちであるということを世間話の一端としてお伝えしただけです。

 勿論、業務上の倫理規定に反しない程度の内容なので本当に「私が仕えている方はとても可愛い」とか「今日も優しく声をかけてくれた」とかその程度でしかないです。


 それでも、それがお二人にとって生まれてから育っていくその姿さえ見守ることのできなかったプリメラさまを思う手助けになっていたのならやっぱり嬉しいですし、ナシャンダ侯爵さまがそれをお認めくださっていることもやはり照れくさいよりも嬉しい気持ちが勝るのです。


「……プリメラさまも、とてもお喜びでした。やはり来ていただいて良かったです」


「だろう? まあ今日はあの二人ももう胸いっぱいだろうからね、私たちは端の方で静かに過ごしつつ、折を見て下がることにしよう。目的であるご挨拶はできたからね」


 ふわりと微笑むナシャンダ侯爵さま。

 その目は、今も話をしているプリメラさまとディーン・デインさま、そしてジェンダご夫妻を優しく見つめています。


「ロベルトもさすがに今日は仕事の話をせずに思い出話に花を咲かせてくれるだろうし」


「そんなことばかり仰ると叱られてしまいますよ」


 半ば本気の発言だと思いますが、もう半分はジェンダご夫妻を気遣ってのことだと思います。

 本当に良いご友人関係を築いておられるのだなあと、まぶしく思いました。


 そうしてしばらくご歓談なさっていたプリメラさまですが、当然ほかにも挨拶をしたい人たちが大勢いらっしゃるので交代となり、ナシャンダ侯爵さまと共にご夫妻は私に頭を下げて去って行きました。


 後ほど、もう一度ゆっくりご挨拶をすることにいたしましょう。

 きっと今は胸いっぱいでしょうからね!


(……今回は本当に何事もなく終わってくれそうだわ)


 みんながこの美しい庭園を眺めつつ、時に難しい話をし、時に楽しい話に花を咲かせる中で私たち使用人たちは慌ただしく料理が不足していないか、飲み物は温くなっていないかとチェックして回っていました。


 それでも本来の仕事に専念できるということはとてもありがたいことであると知る私たちは、笑顔で乗り切ることができるでしょう。


(去年のモンスター騒ぎは本当に、本当に怖かったものね……!!)


 視線を向ければメイナもスカーレットも大忙しではあるようですが、笑みも綺麗ですし姿勢も安定しています。

 私がサポートに入らなくても彼女たちは大丈夫ですね。


 むしろすっかり立派な姿に、見慣れない顔の侍女たち……外宮所属でしょうか、まだ新人らしさの残る少女たちが尊敬のまなざしを向けていることにうちの子たちは気づいているでしょうか?


(……こうしてみんな成長していくのねえ)


 なんだか微笑ましいですよね!

 私も昔は先輩侍女さんたちの立ち居振る舞いに憧れたものです。

 今はほかの筆頭侍女たちや統括侍女さまというさらに上のところにいる先輩方という目標がありますが……。


 侍女の道はまだまだ続きますよ。

 精進あるのみです!


「おおっ、こんなところにいたのかユリア・フォン・ファンディッド! 探したではないか!!」


「……これはバルムンク公爵さま。園遊会はお楽しみいただけているでしょうか、私を探しておられたようですが何か問題が?」


「何も問題はない! 良い会だ」


「それはようございました」


 はははと高らかに笑う脳筋公爵。

 まあ彼にとっても昨年の園遊会は良い思い出のないものなので、思い出の上書きをしていただけたら幸いです。


 そんな風に思ったところで、脳筋公爵が襟首を掴まれるような形でぐいっと後ろに引っ張られたものだから私はギョッとしてしまいました。


「ぐぅっ、何をするアドリアーナ!」


「あなたいい加減になさい。異性に対してもぐいぐい近づいて、暑苦しくて迷惑でしょう」


 凜とした声はやや低めで、鋭い視線に高い身長、女性にしてはがっしりしていると言われるかもしれない体格に沿ったドレスが逆により美しく思わせる――そこには一言で表すならば〝かっこいい〟女性がいたのです。


 そしてその人が誰かは、すでに脳筋公爵が教えてくれました。


 バルムンク公爵夫人、アドリアーナさま。

 脳筋公爵の奥さまです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもよろしくお願いします!

魔法使いの名付け親完結済
天涯孤独になったと思ったら、名付け親だと名乗る魔法使いが現れた。
魔法使いに吸血鬼、果てには片思いの彼まで実はあやかしで……!?

悪役令嬢、拾いました!~しかも可愛いので、妹として大事にしたいと思います~完結済
転生者である主人公が拾ったのは、前世見た漫画の『悪役令嬢』だった……!?
しかし、その悪役令嬢はまったくもって可愛くって仕方がないので、全力で甘やかしたいと思います!

あなたと、恋がしたいです。完結済
現代恋愛、高校生男児のちょっと不思議な恋模様。
優しい気持ちになれる作品を目指しております!

ゴブリンさんは助けて欲しい!完結済

最弱モンスターがまさかの男前!? 濃ゆいキャラが当たり前!?
ファンタジーコメディです。
― 新着の感想 ―
妻に首根っこつかまれる脳筋公爵w これはアルダール様に報告しないと!
なぜだろう、とある漫画みたいに関節ぎめされてる公爵様が浮かぶんですが。。。。
ほらー、フラグさんが張り切っちゃうようなことを言うから脳筋が来ちゃったじゃないの とはいえ今の脳筋は難易度イージーだろうけどね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ