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そうして迎えた園遊会当日。
天気は快晴! お庭の薔薇は最高の輝きを以てお客様をお出迎えです。
庭師のみなさまのやりきった感、すごかったですからね……!
去年はあのモンスター騒ぎでこの見事な庭園は見るも無惨な状態になり、庭師さんたちが膝から崩れ落ちていたって話を聞いていましたから……。
いえ、前の花をそのまま植えているわけではなく、薔薇の木そのものを植え替えたりいろいろと試行錯誤をしていたと聞きます。
私は詳しくないのでわかりませんが、薔薇の中にはとても気難しく慎重な扱いを求められる品種があるそうで、そうした品種が多く咲いているのを楽しめるのもこの園遊会ならでは……らしいんですよ。
(さすが王城の庭師さんだわ)
見事な薔薇の数々に、来賓の方々からも感嘆の声が上がるほどです。
昨年もいらしていたお客様も多いですからね!
私としても昨年のことを華やかな思い出で書き換えてしまいたいと思うので、今日という日を無事に迎えられて良かったと思います。
あとは最後まで気を抜かず、問題なく終わってくれれば最高ですね。
予定通り陛下方の挨拶があって、今回はプリメラさまも最初からディーン・デインさまとご一緒です。
アー可愛い!
二人とも婚約者って堂々と名乗れて一緒にいられることが嬉しいってすっごくもうね、雰囲気から感じられるんですよ!!
そんな二人の様子に心和まされるのは私だけでなく、他の王女宮のみんなは勿論のこと来賓の方々も微笑ましいといったご様子です。
「おお、王女宮筆頭殿、ご機嫌麗しゅう」
「そなたも結婚が決まったのだったな、めでたいことだ」
「ありがとうございます」
来賓の方々に私事で声をかけられることには緊張してしまいますが、そこは優雅に笑みを浮かべて対処してみせますよ!
途中大司教さまともお会いすることができたので、教会を紹介していただいたことに改めてお礼申し上げておきました。
「貴女も大きゅうなられたものですなあ……」
「今後も王城で勤めてまいりますので、よろしくお願いいたします」
「ほっほっ、礼拝にはきちんとくるのですぞ」
「はい」
大司教さまには幼い頃からお世話になりっぱなしですからね!
とはいえ私は問題児側ではなく、誰のせいかって言ったら王弟殿下のせいですけど。
やれ王弟殿下が執務から逃げ出した、礼拝から逃げ出した、ご令嬢を泣かせた……ってなった時に何故か私のところへ問い合わせが来たりすることが多くなったんですよね。
あれはすべてオリビアさまが『ユリアならきっと殿下のことを見つけられますわ』なんて仰ったせいです。
そのおかげで見習いの頃にそんな印象がついたせいか、プリメラさまの侍女になってからも呼び出しを受けて、それで目立ったってのもありましたね……ふふ。
その後、王女宮筆頭になってからはさすがに呼び出されなくなりましたが。
今となってはいい思い出です。
そう考えると大司教さまとも長い付き合いですよ本当に。
プリメラさまの神学勉強では私も一緒に学ぶように言われたりしたこともありましたしね!
い、居眠りはしておりません! 本当に!!
「おう嬢ちゃん……じゃなかった、王女宮筆頭さま、いいところに」
「まあジェンダ商会長さまご夫妻にナシャンダ侯爵さまではございませんか。いかがなさいましたか?」
「この御方がねえ、王女殿下のところへ挨拶をしに行くのに我々もついてこいって仰るんだよ」
「あら……」
それはプリメラさまも喜ばれるのでは?
そう思ってチラリとナシャンダ侯爵さまを見上げれば『だろう?』と言わんばかりの目を向けられてしまいました。
やだ、その流し目色っぽいですね!
「この場に招かれるほどの商人なのだし、そもそも王女殿下は幾度も君の商店の品を使ってくださっている。ご挨拶するのが筋だろう?」
「それは、そうなんですがねえ……どうにも我々も年を取りまして。感動のあまり泣いてしまいそうですから」
困ったように微笑むジェンダ夫妻。
婚約をして、社交界デビュー……つまり大人としてまた一つ階段を上ったプリメラさまのご成長に感動しておられるのですね。
わかる、わかりますよ……。
子供の成長って早いですよね……!!
(でもだからこそ)
私はナシャンダ侯爵さまが彼らを連れて行きたいという気持ちも、理解できました。
だって遠目に見て、それでお二人は満足しちゃいそうですもの。
プリメラさまは今後もお忙しくなるでしょうし、ジェンダ夫妻の前に自由に足を運べるわけでもありませんから……こういう機会でもない限り、直接お言葉を交わすのは難しいとわかっていてもお二人は遠慮するのでしょうね。
「王女殿下はお二人と言葉を交わすこと、とても楽しみにしておられましたので、是非に」
私は王女宮筆頭として、三人をご案内させていただくことにしました。
こういう! お仕事が! いいんですよ!!