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ニコラスさんへの返事を保留にしたまま、私たちはとにかくまずは園遊会の準備に集中することにしました。
やっぱりね、気になるっちゃ気になるものではありますが、あくまで興味って程度ですから……。
(普通に生きていく上で、過去の人たちの考えは知って損はないだろうけど……未来を脅かすかって言ったらそうじゃなさそうな感じだし)
ゲームの記憶に振り回された人たちってだけだと思うんですよ。
そもそもあのゲームだって恋愛がメインでヒロインの育成をするにあたって冒険があって攻略対象とのイベントが……って程度でしたからね。
あくまでクリア時のパラメータや行動でどういうエンディングを迎えるかってだけの話で、世界の滅亡がどうとか、魔王の復活を防ぐ……みたいな壮大な話は一切ない。
エンディングが多数あることとイベントのスチルが綺麗なことが売りなゲームでしたが……あくまでそれはゲームとしての話。
現実としては、これからの展開? というか続編的なのか、ファンディスクなのか、あるいは何かしらの展開があったとして、それが私たちに与える影響ってそんなにないんじゃないかなと思うわけです。
そもそも前回拝見した日記も、ミッチェランという名前にした、ゲームの記憶があってわくわくした……そんな人たちの話だったわけですし。
そうなんだ、わあびっくり……とは思いましたが、今を生きる私としてはその程度の感想だったとも言えるのです。
まあ、ミュリエッタさんは違ったわけですが。
(……もし、他にも転生者がいてプレイヤーだったと仮定して)
ヒロインは登場し、物語は始まった。
ストーリーを知っているからって改変というか、その座に成り代わろうっていう人が現れたわけでもないし、その知識で最強の冒険者になるっていう人が現れたわけでもありません。
つまり……特に気にする必要はないんじゃないか? ってことです。
「ユリアさま、ドレスの仮縫いが終わって一度合わせの時間を取りたいとの連絡が届きました」
「ユリアさま、当日王家の方々の食器が予定の変更をするとのことですわ!」
「いやはや、この時期が来ましたなあ」
「どうしてこう日々小さな仕様変更が行われるんでしょうねえ」
次から次に舞い込む変更と連絡の嵐に私とセバスチャンさんはなんとも言えない遠い目をしてしまいましたが、まあそれもこれもこの国の大きなイベントですからしょうがありませんね!
やっぱり日記のことなんて気にしちゃいられないですよ。
ちょっとは気になりますけど!
それに釣られて余計なものを背負い込んでいる暇は今ないのです。
本当にないのです……。
去年もそうですが今年もお歴々が集まる中を給仕して回る、この緊張感よ……失態は許されません! プリメラさまの名誉にも関わります!!
今年は公務の日程もあるので調整のし甲斐がありますよ……!!
「とにかく順にやっていくしかないわ。メイナ、セバスチャンさんと一緒に一日まるっとプリメラさまのスケジュールで余裕を作れるよう調整して。授業に関しての交渉はセバスチャンさんにお願いしたらいいわ。それで調整ができたらブティックに来てもらえるよう連絡をして。あちらが何か言ってくるようなら私に回してちょうだい」
「は、はい!」
「スカーレットは変更のカトラリー見本一式を預かってきてちょうだい、こちらの区画で使うものに類似品が混じらないように再確認を行います。ライアン、そちらは任せていいかしら」
「かしこまりました」
「デボラさん、工房の方からアクセサリーについての連絡は?」
「今はまだ届いておりませんが、確認に人を送りましょうか」
「ええ、そうして。そろそろ進捗を送ってくれないと困るわ」
王女宮一丸、乗り越えて見せますよ。
我々の持てる力を持って、プリメラさまを園遊会でもっとも輝けるプリンセスにするために!
でもやりすぎると王妃さまから睨まれちゃうので、ほどほどに、ですけどね!!