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 っていうかなんかすごいことになってない?

 改めて巻き込まれて残念なユリアです。


「……弄ぶ、とは一体どのようなことでしょうか? 穏やかではございませんね、それが事実であれば統括侍女さまにご報告申し上げねばなりませんが……個人的にはアルダール・サウルさまがそのようなことをなさるとは思えません」


「ありがとうございます、ええ、勿論そのような事はないと神々に誓わせていただきます」


 私の言葉にアルダール・サウルさまも少しほっとしたような顔を見せて力強く頷いてた。まあそうだよね、弄ぶ男だとか烙印押されたらたまったもんじゃないでしょ。

 とはいえ、そう言われるって理由があるんだと思うんだよね。というわけで話を聞いてみることにした。


「エディさん、どういうことかしら。侍女に関することがあるというならば、王女宮の筆頭侍女として私もお話を伺いたいと思うのですが」


「良いでしょう、自分もきちんとしていただきたいと思っていたところだ!」


「エディ、もういいのよ、ねえもうやめましょうよ! 園遊会を控えてみんなピリピリしているしお忙しい筆頭侍女様を引き留めるだなんてよくないわ!」


「だがな、エーレン。こういうことはきちんとしておかねば……」


 エーレン。そう彼女はエーレンというのね。外宮の侍女ということで覚えておきましょう。

 一生懸命エディさんの腕を引っ張ってなかったことにしようとしてるけど、肝心のエディさんが鼻息荒いから無理じゃないかなー。あーこれ顛末が想像できたわ。


「アルダール・サウルさま?」


「……なんでしょう?」


 小声でお名前を呼べば、向こうも小声で返してくれる。

 うん、まあこういう阿吽の呼吸は正直要らないけど。


「貴方、あの女性に言い寄られたことは?」


「……さて」


「正直に」


「ありますがお断りいたしました」


「だと思いました」


 これは溜息ものだわー。

 スカーレット嬢の証言によれば、あの女性、エーレンさんはエディさんと親しい仲のご様子。でもエーレンさんは同時進行でアルダール・サウルさまにも言い寄った。結果として断られたけど、誰かがそれを見咎めてエディさんに伝えたんだろう。まさか付き合ってる人がいるのに他の男にモーションかけたなんて馬鹿正直に告白するわけもなく、逆に言い寄られた、迷惑してたとか言っちゃったんじゃない?

 そこで甘えて男の心を捕まえて事なきを得ようとしたら、男の方が暴走しちゃった……大体こんなとこじゃないかな! 実はこういうパターン、珍しくはないんだよね。私が筆頭侍女になる前に何度か目撃したことがあったし、王女宮所属になってからはよその宮でちらほらそんな話を筆頭侍女たちが愚痴混じりに「気をつけろ」とお互いに警告を出していたからね。

 文官武官、貴族であれ一般庶民であれ、タチが悪い人はタチが悪くて……さらにその立ち回りが上手ければ問題にならないけど大体そういう問題を起こす系は立ち回りが下手な人なんだよね。そういう人に限って面倒な性格の人とかそれなりの地位の人とかを巻き込むから事後処理する方はたまったもんじゃないんだよね!


 ……この場合、外宮の筆頭侍女と護衛騎士団長と私が巻き込まれることになるのかしらね?

 おそらく、私の推察は間違ってないとすれば外宮の筆頭侍女はエーレンさんの行動に対して方々謝罪行脚だろうし……護衛騎士団長はエディさんが事実を確認せずに近衛騎士に対して無礼を働いたことを謝罪しないといけない。そしてこの現場に立ち会ってしまった以上、私もなにかしら協力しろと言われるに違いない!

 ぐああああ、園遊会準備に加えて教育が必要な要注意侍女を新たに迎えるというこの現状でなんたることでしょう! なんたる……ことでしょう……!!


「侍女エーレン。確か貴女は外宮の侍女でしたね。本日のご予定は?」


「……今日は、非番にございます」


「その割には仕事着のようですが。もうすでにギャラリーもできるほどの騒ぎです、外宮の筆頭侍女に自ら報告なさいますか? それとも私が伝えておきましょうか」


「……。私が、自分で。今すぐ。ええ、今すぐ参ります。色々と誤解があるようですので、きちんと釈明させていただきたく存じます!」


「わかりました」


 おお、……エーレンさんダッシュで行きましたね。まあここに居てもいいことないしね。

 上手いこと外宮の筆頭侍女に誤解であることを言えるといいですね……。

 多分ここがこんな騒ぎになった後じゃもしかしたら話がすでにいってるかもしれませんが。


 まあこっちはこっちで話を済ませて解散に持ち込もう。

 色々片付けるべき内容は話を聞いて必要ならそれぞれの上司に持って行ってもらおうじゃないか!


「ではエディさん。貴方は護衛騎士団としての任は?」


「自分は夜勤であった故午後は非番で……」


 私も忙しいんだよね。わかってるよね? 秋の園遊会が控えてるんだよ。

 王族のメンツがかかってる、園遊会だよ。私だって不機嫌になって何が悪い!

 まあ、あんまり表情は変わってない……というか真面目な顔というのが不愛想と言われがちな私だからね、ちょっと向こうが緊張した面持ちになってしまってヤバいと思った。深呼吸深呼吸!


「アルダール・サウルさまも! どこに行かれようというのですか?」


「あ、あー……。ユリア殿、だめですか……?」


「だ・め・で・す。元々は貴方にかけられた疑惑でしょう!」


 何をひとりでこっそり逃げようとしているのか! 勿論逃がしませんよ?!

 人に面倒ごとを押し付けて簡単にはいそうですかと行かせてたまるものですか!! イケメンだからってなんでも許されると思うなよ!


 睨むようになってしまうのは申し訳ないと思うけれども、私はしっかりと話を聞いて統括侍女さまにご報告申し上げるかどうか決めないといけないのだ。これもお仕事です。面倒だと思ってるけど、お仕事なんだもん!


「それで、エディさんからまずお話を伺いましょうか。まずはあの外宮の侍女エーレンとはどのようなご関係で?」


「婚約者だ。私の婚約者だと公言してあるにも関わらず、そこのアルダール・サウルさまが地位に物を言わせ我が婚約者に言い寄っていると聞いている。事実私が今日この場でこの男が彼女に言い寄る現場に遭遇している! 他にも多くの侍女たちがこの男の甘言に惑わされていると……」


「ちょっと待ってください、とんでもないことです!」


 流石にそんな言われようには焦りよりもむっとするものがあったのだろう、ここぞとばかりに言い始めたエディさんを遮ってアルダール・サウルさまも口を開いた。


「騎士の名誉に誓って、そのような真似はひとつもしていません。そもそも、貴方の婚約者であるというあの侍女は私に何度も手紙をくれていましたがその都度お断りをしておりました。だが彼女は何度となく私に声を掛け続けた! 今日もそうです! 私は自分に非がないことを証明するために人の多い場所を選んだ! 隠れてどうこうしようというならばこの場所は似つかわしくないでしょう」


「私の婚約者がそのような真似をすると?! それこそ侮辱ではないか!」


「はっきり申し上げましょう、私には意中の方がいるのでどなたとも懇意にするつもりはありません!」


 おお……高らかに宣言した爆弾発言。アルダール・サウルさまがそんなこと言うから周囲の女性使用人から悲鳴があがったぞ?! わあ、人気者!!

 なんて現実逃避している場合ではありませんね。

 どうもこのエディさん、前々から何度か顔を見て感じてはいましたが熱血漢の暴走タイプですね。このままでは剣を抜くようなことになってしまわないでしょうか? そこが心配です。


「なんだと! ではその女性を連れてきて身の潔白を証明するがよかろう!」


「意中の方がいると申し上げただけで、その方と恋仲だなんて言っていません」


 エディさんの言葉にアルダール・サウルさまも鼻で笑わない。

 どうしてこう喧嘩腰なの二人とも! 今は話し合いが必要だっていうのに。


 いやー周囲の女性陣も、なんだか男性陣までも興味津々で耳大きくしてらっしゃいますよ。

 っていうかお二方、主軸から離れていません?

 恋しい人がいたって浮気する人は浮気すると思うんですよね私。ほら、時々聞いた話によれば妻にする条件と恋人にする条件は似て異なるものだとか。男女の仲は前世と同じで複雑です。

 まあ私は一般論として浮気する男なんて要りませんがね! いや、相手いないけど。


「では貴公の潔白を証明できるものは何一つないということだな!」


「それは逆にいえば私が侍女たちを甘言で惑わせたなどというくだらないことも証明できないのでは?」


「……完全に水掛け論ですわね」


 どっちもどっちだろこれと思うけど、本人たちは至って本気だ。頭に血が上っているのかもしれない。

 これじゃあ冷静に話をするとかじゃないね。


 まったく……私としては早く戻ってプリメラさまに癒されたいというのに!

 あ、でもアルダール・サウルさまの意中の方ってどなたなのかしら。今までいろいろお話ししてきたつもりだけれど、初めて聞いた。コイバナの予感かな?!


 王女宮に戻ったらこの噂でしばらくメイナたちも賑わうわね!!

意外とこの喪女、コイバナとかしたい普通の人である。

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