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そして迎えたお茶会の日、プリメラさまは手土産を片手に少し遅れる形で会場へと足を踏み入れました。
これがね、ちょっとややこしい話なんですが……プリメラさまはこの国の王族じゃないですか。
フィライラ=ディルネさまも他国の王族ですし、王太子殿下の婚約者ですし、なにより今回の主催者。
立場的には似たようなものですが、主催者と招待客とでは立ち居振る舞いが違って当たり前ってやつですね。
加えてあくまでここはクーラウム国であり、そして会場は王城内にある庭園の一つ。
あまり早くに足を運んでしまうと、プリメラさまより後に来たご令嬢が王族を待たせた……なんて噂を立てられちゃう可能性もあるわけですよ。
そのため、プリメラさまは焦ることなくゆっくりと足を運び、ほぼみなさまが揃ってらっしゃるところに登場して『遅れてごめんなさい』と優雅に微笑むことで気遣いとするっていう面倒くさ……じゃなかった、細やかな配慮が求められるってわけですね!
正直面倒くさいなと思いますが、早く行きすぎても張り切っているみたいですし下位の立場の者への考えが足りないなんて言われても癪ですから。
あまり遅れていくと今度はフィライラ=ディルネさまのお茶会に参加したくなかったとか、不満をお持ちなのでは……なんて勘繰られるんで困ったものです。
気を使って笑顔を保つのはプリメラさまですが、タイミングを計るのは私とライアンのお仕事です!
王子宮の侍女たちに連携お願いしてしっかりばっちり入場ですよ!!
私とライアンは少し下がったところからお茶会の様子を見守っているわけですが、幸いにもプリメラさまに対して馴れ馴れしい振る舞いをするようなご令嬢はいないようです。
(これなら安心して途中退場もできそうね)
ついでにと言ってはなんですが、ミュリエッタさんとリード・マルクくんの存在は確認しましたよ!
例のお坊ちゃまについてもその顔拝んでおこうかと思ったんですが、いないようです。
念のためライアンにも確認を取りましたが、いないとのことでしたので間違いありません。
(……やっぱり処分は難しくても来られないようにはしたのね)
普通ならまあある程度関係性のある高位貴族の子息とはいえ、あくまで子息ですから……王太子殿下の婚約者に対して茶会の参加者を決める権利などありませんし、それを求められるほど親しくもないでしょう?
それなのに何故好き勝手させていたのかと言えば、そりゃまあ、そのお坊ちゃまのご両親に対しての配慮もあったのでしょうが……なにより、これでフィライラ=ディルネさまがどのような対応をするのか国王陛下と王妃殿下が見ていたんじゃないかなと思います。
(お茶会や人付き合い一つとってもそうやって見られているって本当に大変そうだわあ……)
私には無理ですね!!
とりあえずはプリメラさまが最後に登場ってことで和やかに始まったお茶会ですが、結構な人数のために小さなテーブルがいくつもあるスタイルです。
そのため少人数ずつで、なんとフィライラ=ディルネさまが御自ら各テーブルを回りお話をするようですね……。
あれはマリンナル王国のスタイルっていうよりは、おそらくフィライラ=ディルネさまが個人個人を見定めるために考えたことなんでしょうけども。
(他のテーブルにいる時はなんの会話しているのかちょっと気になるな……!)
プリメラさまのテーブルは、軍閥のご令嬢方でした。
おそらくバウム伯爵家との繋がりを考えての席次と思われます。
和やかに会話をしていらっしゃるので、それはそれで安心ですが……私はそっとライアンに目配せしました。
なんたって、ライアンは〝影〟ですからね!
きっとよそのテーブルのこともなんとなく調べられるんじゃないでしょうか!!
私の目配せに気づいたライアンがにこりと微笑んだけど、ええと、それはどういう意味かな!
こういう時のアイコンタクト、まだ通じきっていないとは……不覚!!
(まあいいわ、後で話せば。とにかく私たちはプリメラさまが一番大事なのだから)