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 疲れた……正直もう疲れた。明日のプリメラさまとスカーレット嬢の面会とかもう今から嫌な感じなんだけど。その後から本格的に指導とかもうやれるのかな私。まあやらないわけにはいきません、私は筆頭侍女です。筆頭侍女としてちゃんと教育しなければ!

 プリメラさまにお仕えする以上、あの方に恥をかかせるなんて私が許しませんよ!!


 でもあの子すごい気が強そうな上にあの声量……なんとかなりませんかね……気圧されちゃいますよ。

 もうちょっと物静かに生きれませんかね……? 私みたいに日陰に生きろとは申しませんから。

 まったく、みんながみんな私みたいに平和に生きようと日陰にいったら生活が成り立たないんでしょうけれどあえて寄り添わねばならないのも集団生活の弊害ですかね。まあ要するになんで私が、ってやつです。


 大人だからちゃんとやることはやりますよ?!


「……あら?」


 侍女の宿舎を出たところで庭がある。これは庭が宿舎を隠しているとも言える王城の作りなんだけど(勿論お客さまが来られないような位置なんだけど、万が一迷われた時に使用人の家が見えたら見栄えが悪いってことらしい)そこに人がいる。いやまあ、基本的にそこの庭は解放されているから使用人たちが好きにピクニックみたいにしたり花を愛でたりしているからいいんだけど。時々女性使用人と男性使用人がデートの場所にもしているみたいだし。

 私は最初の二年間だけこっちにお世話になったけど、すぐに王宮内の筆頭侍女執務室に行ったからなあ……とかちょっと懐かしむ暇もないわ。あれアルダール・サウルさまと……王子宮の警護騎士じゃない? あれだよ、ナシャンダ侯爵邸に向かう馬車の中で王女宮の騎士ローレンさんを睨んでた騎士だ。エディさんだったっけか。見た目脳筋、中身も脳筋だった気がします!

 それに……名前はちょっと覚えてないけど、彼の向こうに見えるのは外宮の侍女……?


 このくっそ忙しい時期になにやってんだあの人たち。油売ってるわけじゃなさそうだけど。

 おっと私としたことが口が悪くなってしまいました。反省反省。


 どうしましょう、また面倒ごとの気配しかしませんがこれ気が付いてスルーしたとか知られたらまた統括侍女さまにお叱りをいただいてしまうのでしょうか。でもなあ、なんか行くととんでもないことになりそうだしな……しかしどうせあそこの横を通っていくからな……他の野次馬に紛れたところで私の存在バレるか野次馬に見つかるかで最終的に結局統括侍女さまのお耳に入りそうだしな……。

 しっかし近衛騎士のアルダール・サウルさまと護衛騎士団のエディさんって顔見知りだったのかしら?


 うーん。近づくにつれて……ただ顔見知りがお話しているって雰囲気じゃない。

 何か物々しい雰囲気ですね……。今にも喧嘩始めます、みたいな……?


「なによあれ?」


「あらスカーレット嬢……書類は終わったのですか?」


「終わったわ、ワタクシにかかればちょちょいのちょいよ!!」


 あれ、なんだろうこの子……実は優秀なのかしら。いやその前に言動がなんだかちょっと庶民的っていうか……急に親近感湧いた。ちょちょいのちょいって。

 豪奢で強気な顔立ちの美少女がちょちょいのちょいって。しかもちょっと得意げとか。あれ、この子バカだけどデキる系の子なのかな。そう思ったらちょっと可愛いかもしれない……?


 見せつけるように突きつけられた書類をちらっと見たけどなかなか綺麗な字を書くのね。

 でも……うん、まあ内宮ではこれで通ったんだろう。

 よし、これからまずは礼儀作法と書類の書き方をみっちり仕込もう。うん、方針が決まるだけで大分気持ちが前向きに変わるね! うんうん、やはり噂を鵜呑みにしてはならないです。私が他の人に言ったことですが私自身にも当てはまりますね。反省反省。


「それで、あれはなんなの?」


「スカーレット、言葉遣いに気をつけなさい。明日からとはいえ私は貴女の上司ですよ」


「……なんなのですか」


「そう、その調子です。呑み込みが早くて助かります」


 意外と素直なのか? いやまあ不満そうな表情は隠してないし一応侍女をクビになったら困るって本人も自覚はしてるのかも。じゃあ案外教育も上手くいくかしら? いやいや、甘い考えは捨てるべきよね。こういうのは大体甘えた考えを持って臨むから失敗するんだから!


「それで質問の答えだけど、わからないわ。私が出てきたところであの状態。あの女性……外宮の侍女だったと思うけれど貴女は知っているかしら」


「知らないわ。でもあの男と一緒にいる姿は何回か見たことがあるわよ……あります」


「そう、なんにせよあそこを通らないといけないわね……スカーレットもそうでしょう」


「ええ、勿論よ。べ、別に貴女と一緒じゃなくてもワタクシは通れるわ! 子供じゃないんだから!!」


 あ、やっぱりこの子悪い子じゃないのかも。ちょっと癖があるけどね……いやいやだから楽観視はだめだってさっき思ったばっかりじゃん。そうよ、彼女の精神年齢がたとえ低いのだとしても実年齢で考えれば大人扱いしなきゃいけないんだから。

 ずんずん先を進む彼女の背を見て思わず笑ってしまった自分を自戒して、私もここで立ち止まっていたって仕事が終わるわけではないので進もう。いやあ、プリメラさまの園遊会ドレスのデザインはお針子おばあちゃんが喜んで受けてくれたし王太后さまも今回はご参加くださるし、色々楽しみではあるんだけどね。

 布の選定は済んでるけど宝飾品とかはこれからだし、今回参加する侍女と召使とかの勤務表の変化とかお休みをあげるのとかボーナスの関係とかそういった計算もまだこれからだし、スカーレット嬢の教育方針は今さっき決めたけど、計画はこれから立てなきゃいけないし。

 今回園遊会に参加するゲストの顔ぶれと嗜好品を頭に叩き込んで……それを教えて……あーもうだめだ、頭パンクしないかな大丈夫かな。メイナもスカーレット嬢も、勿論私も。


 色々やること多すぎだよね……いやいやこれさえ終わっちゃえば。

 そうしたら次は冬の王太子殿下生誕祭まで穏やかなはずだ! まあ生誕祭の後は新年会か。

 ちょっとは余裕があるからまだマシよね……。お祭り騒ぎの中心じゃないから忙しさだって違うわけだし。そう考えれば冬なら実家に帰れるはずだからお義母さまとメレクにもお土産を……


「おやユリア殿、奇遇ですね!」


「……ええ、本当に。珍しいところでお会いしますのねアルダール・サウルさま」


 おおおおおおい、何故に声をかけてきた!!


 あえて考え事に没頭することでここを上手くスルーするつもりだったのに!

 そんな蕩けるような笑顔で挨拶とか……挨拶とか……っ、くっ、甘ぁぁぁぁぁあああい!!

 見ろ! 周囲の女中たちが頬を染めちゃってんじゃないか!

 その後睨まれるのは私なんだけど!!


 ……いやいや、アルダール・サウルさまが悪いわけではないだろう。この人がイケメンでモテるのはもう周知の事実。しかも由緒正しいバウム伯家で分家を立ち上げることが決まっている上に真面目で女遊びもしないとくれば優良物件間違いなしだしね。

 そんな人に親し気に声をかけられる女がいれば、狙っている人からすればライバルもいいとこだろうしね。

 

 やめて! 私はイケメン耐性のないただのしがない侍女なのよ!!

 そう言えちゃえばどんだけ楽なんだか。


「何かお取込み中のご様子ですので、また今度お話しいたしましょう!」


「まあそうおっしゃらず!! 是非ともお力をお貸しいただけたらと思うのですよ!」


 ……うわあ。遠慮ない。

 あの言い様と笑顔、アルダール・サウルさまったら超面倒くさくて巻き込みやがりましたね。

 というか力を貸せとはどういう意味なのか。

 私が小首を傾げたことで、彼はまたにっこりと笑って見せた。


「こちらのエディ・マッケイル護衛騎士団員のことはご存知かと思いますが、彼が私のことを侍女たちを弄ぶ悪人であると言うものですから……」


「えっ、弄ぶ……ですか?」


 それはまた穏やかじゃないね!!

 見れば外宮の侍女を庇うようにして立つエディさんの顔は鬼瓦のようだし、その彼の背に隠れるようにして縮こまる侍女はなんだか泣いているような……訳ないですね。あれは面倒なことになったという顔です。しかも上手いこと男性陣に見えないように振る舞っているところを見るとなかなか慣れてらっしゃいますね!


 ……どこからどう見ても面倒ごとですね!

 巻き込んでくださってこんちくしょう後で統括侍女さまにボーナス弾んでもらえるように直談判だ!!!

ブクマ8000件越えありがとうございます!

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