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とりあえず日記も無事に返せましたし、疑問は……解消されないまでもちょっぴり納得できる話というか、ミュリエッタさんの変化については私も思うところがあったという形で落ち着きました。
ビアンカさまのところから自宅に戻ったのは夕暮れ時。
今日はアルダールも夕餉前には帰れると言っていたので、のんびりと考え事をしながら待つにはちょうどいいでしょう。
(私の親世代くらいだったなら、失踪したという例の〝恋人さん〟を探してみるってのも一つの案として出てきたかもしれなかったのよね……)
なんだかんだ予知……とは違いますが、ミュリエッタさんが予知だの予言だのってすでにやらかした後での発覚ですからね!
もう少し時期が被っていたら、王家や公爵家から秘密裏に捜索されて事情を聞かれていた可能性もあるんじゃないでしょうか?
私としてもいろいろとね、話は伺ってみたい気もするし……いや、やっぱり聞かない方がいいかな。
結局のところ私も含めて、例の恋人さんも、ミッチェランの創始者さんも、ミュリエッタさんも……ゲームの設定に踊らされたって感が拭えません。
とはいえ、私はゲームを知っていたからこそ、プリメラさまの寂しさやその後誰とどうなるのか、ディーン・デインさまの性癖……というか歪みを正す? ことができたわけなので、知識はまるで無駄ではなかったと思いますが。
(それでも私もゲームはゲーム、現実は現実って割り切れるようになるまでは結構ぐだぐだ悩んだものね……)
どんなに努力したところでゲーム通りになる、いわゆる強制力みたいなものがあったらどうしよう、プリメラさまが不幸になったら……!
なんて少し心配していた時期もありました。
逆にミュリエッタさんは早くゲーム時期にならないかなと指折り数えていたに違いありません。
恋人さんはゲームの到来を恐れたのか、それとも……わかりませんね。
ミッチェランの創始者さんは、まあ巻き込まれたとしか言いようがないのでしょうか。
こうしてみるとみんなそれなりにゲームという存在に振り回されているような気がしないでもありませんが……結局のところ、それっぽいだけで実際はゲームと何もかも違う世界ですよね……。
(今度、ミッチェランのボンボンショコラでも買おうかな)
行方不明になった恋人への思いを諦めることもなく、ゲームに抗い続けたショコラティエさんが作り上げたお店のチョコレート。
それを思いながら食べたら、また格別な……勇気を与えてくれるお菓子のように思えるのは少々感傷的でしょうか。
「ユリアさま、旦那様がお帰りに……」
「ありがとう」
マーニャさんの声に私はハッとして、慌てて姿見の前でチェック。
こうして彼を出迎えることにも慣れましたよ!
「おかえりなさい、アルダー……ル?」
「やあ、ただいまユリア。今日はお茶会楽しかったかい」
「え、ええ……でも、それ……どうしたの?」
いつもと変わらないアルダール。
でも彼の腕には――なんだか、立派な花束が。
「これは気にしないでいい。……マーニャ、適当に家中の花瓶に分けて飾ってくれ」
「かしこまりました旦那様」
「ユリアに贈る花束は、ちゃんとそのうち用意するよ。……説明は夕飯の時に」
「え、ええ」
あれえ、また何か面倒くさいことの気配ですかね……!?