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とりあえず現状で確定しているお仕事は、プリメラさまの誕生パーティー、秋の園遊会、年末の生誕祭、そして新年祭です。
それ以外に公務が割り振られる内容としては秋の園遊会後、少なくとも来年のお誕生日を迎えられるまでの間にプリメラさま主催で大規模なお茶会を開き国内の貴族令嬢たちとの縁を作るべきであると王太后さまは仰いました。
確かに今のところ社交界デビューをしていないプリメラさまですが、今回の婚約発表でディーン・デインさまと共にデビューという扱いになるそうです。
王太子殿下が正式にフィライラ・ディルネ姫との婚約を整えたことで、王太子としての立場を盤石なものにしたから……ということにはなっておりますが、せっかく婚約発表の場なのだから盛大に祝うためにもやっちゃおう! みたいな感じのことを陛下が仰っているそうですよ。
だからか!
だからあんなにも会場のことに口出すのか!!
確かにめでたいことですし?
プリメラさまのデビューを華々しいものにしたいというお気持ちは痛いほど分かります。
ええ、ええ、このユリア・フォン・ファンディッドがプリメラさまのことに対して思わないはずがございません。
デビューという扱いであるのならば、最高の思い出にして差し上げたいじゃあございませんか。
常々天使で可愛くて清廉でこの世で一番可愛いプリメラさまであることは私も重々承知しておりますが、それでもより輝いた思い出とするためにも努力を重ねたいと思います。
陛下が言っているからじゃございませんよ。
私が!
大事な将来の義妹で、娘のように大切な!
プリメラさまのことにできる限りのことをしてあげたいんですからね!!
この件に関してはたとえ陛下であっても譲れません。
といっても粗方方針も定まっている今、特に何か変更を加えるなんてことはできませんが……そうですね、パーティーの翌朝はプリメラさまの大好きなお茶を準備することにいたしましょう。
(それからお昼もお好きなもので揃えて、久しぶりにシフォンケーキをお茶の時間にお出ししようかしら?)
勿論私もプリメラさまの誕生パーティーに令嬢として参加するので、日中から夜半にかけて大忙しなので翌日はゆっくり休みたいところですが……しかし、しかしですよ。
誕生日の翌日という特別な日の後、そのお世話をするってのは侍女にとってみても最高の話なんですよ!
直前までお世話をして最高の瞬間を迎え、翌日に幸せに浸るお姿……それを間近で見守れる、まさにベストポジションなんですからね!!
「……そうよねえ、パーティーかあ……」
着実に進む準備、リストアップされていく招待客。
使われる食器に関しては王宮所蔵の一級品を用いるのは当然ですので、その在庫の確認や破損・欠損の確認。
これは別に手入れを怠っているとか保管に問題があるとかではなく、単純に常々使う際には確認する決まりごとです。
そもそも片付ける段階で欠損と在庫に不備がないか確認の上、必ず決まった数が倉庫内に収められるよう定められておりますので……もし傷が見つかった場合は速やかに破棄、その食器を作った工房に追加で同じものを注文し、その旨を記した書類と共に引き継がれるのです。
そうしてまた使う際にその書類と照らし合わせて確認を……という細かいチェックがされているのです。
王族の催事に使う食器ですからね、チェックも厳しくなろうというものです。
(……ダンスの練習した方がいいのかしら)
一部の騎士たちは壁の花となる女性や望まれた場合に踊ることがたまにあるので、ダンスの練習が義務づけられていると聞いたことがあります。
ですが侍女はそういったことはないので、当然ながらセルフレッスンあるのみですとも!
仕事の合間を縫って、ダンスの練習……!?
以前デビュー前にセバスチャンさんたちがくれたレッスン本を本棚から引っ張り出して学び直すべきなのでしょうか。
いえ、知識だけ有ったって足がもつれたら終わりなんだから、実践せざるを得ませんが……。
なんたって私は初歩的なステップしか踊れません。
だって必要ないって思ってたんだもの!!
実家に戻ればメレクやお父さまにお願いできますが、やはりここは婚約者であるアルダールにお願いすべきだとはわかっているんですよ。
でも練習できる場所あるかな?
デビューの時は下手でも基礎的なダンスでも誤魔化せましたが、さすがに今度はもっと注目を浴びていると考えると無理ですよねえ。
「よし、まあ……相談しよう」
ミュリエッタさんのことはハンスさんが請け負ってくれたし、ニコラスさんも最近は姿を見せないことを考えれば平穏そのものな王女宮。
これこそ私が望んでいた状況なのです。
こういう時こそお仕事に邁進して、ボーナスを確実なものとするべく努力を重ねるべきでしょう!!
今日来ている手紙をチェックして、上がってきているパーティー関連の書類を確認して、ああそういえば今日からもう招待状リストの上から順に書いていく作業がありました。
ある程度こちらで書いて、リスト上位……つまりプリメラさまが今後も関係を築いていくべき家門の長や夫人方へは別に避け、そのほか大多数の貴族への招待状を着々書き上げては間違いがないか、汚れはないか、チェックを重ねて郵便部門に預けなければなりません。
量が量だけにいっぺんに送るにしても相当な数ですからね。
これはそういう部署にも頼りますが、そのリスト上位に関してはプリメラさまから一筆いただくことになっておりますので最終チェックはこちらでも行いますよ!
これが地味に大変な作業なんだよなあ……。
今年は執事見習いのライアンも加わっているので、大分楽になったというか……セバスチャンさんが相変わらずスパルタにライアンを働かせているというか……。
うん、まあ大丈夫でしょう!
(そういえばフィライラ・ディルネさまが王妃になったらライアンは執事として後宮に移るのよね……顔合わせとかしたのかしら)
いずれは専属執事になるのだとライアンもわかってのことですが、それでも主従関係って時間をかけて築いていかなくていいのでしょうか?
いや、もともと〝影〟出身なのでライアンの忠誠そのものは王家に捧げられているんですけども。
教育担当であるセバスチャンさんが何も言っていないので問題ないのでしょうが、うーん気になるから後で少し聞いてみましょう。
話せる範囲でならきっと話してくださるでしょうからね!
あと我が家の頼れる未来の執事さんとして、今後ミスルトゥ家が親しくすべき家についても今回のリストの中からちょろっと教えていただけたらいいなーなんて思っちゃったり……だめですかね?
「ああー……」
そういえばドレスも仮縫いができるから一度見に来てくれって連絡が来ていましたっけ……。
アルダールにも都合を聞いて行かなくてはいけません。
プリメラさまへの贈り物の靴についても相談があるって……。
悩める内容的には楽しむべき、なのかもしれませんが。
いっぺんには! こないで!!




