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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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573 自分のものがたり

今回はミュリエッタさん視点です!

(やった……やったわ、変じゃなかったよね? 気にしてもらえるようにできたよね?)


 あの人に会った路地から二つ先の道に入って、足を止めて振り返る。

 当たり前だけど姿は見えないし、あの人の傍にいた怖い人が追っかけてくる様子もないし、他に見張っている人だっていない。


 それはそうだ、だってもう、あたしは……あたしは、あの人と関わりがない人間だもの。

 今でもアルダールさまがあの人と、ユリアさんと結婚するって信じられない……ううん、信じたくないけど、これが現実なんだっていい加減理解している。


 あたしが恋していたアルダールさまとあのアルダールさまは違うし、現実ではあたしの知っていた人たちはみんな……みんな、ゲームとは違った。

 それは当然だとようやく理解して、今のあたしは不幸せだって気づいてしまったのだ。


 だから、人から見て馬鹿だと思われてもいいから、この状況を変えたかった。

 もうよく思われようとか、誰かになんとかしてもらおうとは思わない。


(……ごめんね、お父さん)


 迷惑をかけちゃうと思うけど、それでもお父さんは〝英雄〟だから。

 騎士団で下っ端から頑張っていてみんなと笑い合える、そんなお父さんだからきっとあたしみたいな子を『馬鹿だなあ』って笑って許してくれると信じている。


 相談しようと思ったけど、きっとお父さんはあたしのこの気持ちを理解してくれないと思うんだ。

 それに、お父さんはあたしのこと……今でも神童だって信じているんだもんね。


(全部、全部、嘘から始まってしまった)


 あたしはヒロインなんかじゃなかったし、ヒロインがすべきことを知っていただけでそれを先取りして、失敗しただけだ。

 これから先のことなんて知らないし、治癒師として搾取されるのもうんざりだ。


 だから、あたしは馬鹿なこと(・・・・・)をして追い出される道を選んだ。

 バッドエンドにはこんな方法ないけど、現実ならあり得る話。


 だってあたしは男爵令嬢だけど、あたし自身は一代貴族の娘……つまりほとんど平民と同じだって、勉強して知っているんだ。

 これまでの行動は注意されても〝英雄の娘〟で治癒能力やそのほか、いろいろ使い道があるから大目に見てもらえていたんだって、いい加減わかれって、これまでのことで理解した。


 だから、あたしはまたユリアさんに近づいた。

 近づくなって言われている人に近づいた。

 そして今でもアルダールさまのことを想っている風を装った。


(……ううん、今でも、好きだな)


 ゲームの、だけど。

 でもあの姿も声も、振る舞いも、一途に想った人を大事に大事にするところも。

 あたしが好きで好きでたまらなかった、あの人だ。


(いけない、こんなところで立ち止まってたら疑われる)


 あたしはリード・マルク・リジルの婚約者になってしまった。

 それを覆すにはどうしたらいいのか、ずっとずっと考えていた。


 この婚約はお父さんとリジル商会の人が決めたとかじゃないから、そう簡単には覆せない。

 リードがいやだって言ってくれたら楽なんだけど……今のところそんなことを言う雰囲気はない。


 決して甘い空気なんてものはないし、どっちかっていうとあたしのこと馬鹿にしているんじゃないかなって思う。


(あたしは幸せになりたい)


 この婚約は、いつかの結婚は、人から見たら幸せだろう。

 お金持ちの平民と結婚して、治癒師で、学園だって卒業できて……貴族のご令嬢だってそう上手くいかない人生だと思う。


 でもそうじゃないの。

 あたしが望むのは、そうじゃないの。


(……あたしの幸せは)


 あたしが好きな人に、好いてもらって。

 お互い幸せだねって笑い合える、そんな未来がほしいの。


 人に用意された幸せじゃなくて、自分で幸せを作るの。

 意地悪なリードなんかじゃなくて、あたしのことを一番に考えて、優しくしてくれる……そんな人とあたしは幸せになりたいの。

 

 それってそんなにだめなこと?

 いいえ、そんなはずはない。


 あの人だって、アルダールさまとそうなっている。

 王太子殿下だって、婚約者だっていうお姫様と仲が良さそうだって城で耳にした。

 あの王女殿下だってとても仲睦まじくて微笑ましいって評判で。


 みんな、ゲームとは違うの。違ったの。

 でもそれが当たり前。

 ここは、現実なのだから。


 なら、あたしだってそんな風に想い想われる相手に巡り会ったっていいじゃない。


 あたしは貴族になりたかったわけじゃない。

 そうなったら憧れの人に会えるからそうしただけ。

 結果としてお父さんは幸せになったし、やりがい在る仕事にも就けた。

 王様だって英雄を手に入れたんだから付属品のあたしのことなんて、見逃してくれたっていいじゃない。


 勿論、このやり方は間違っているんでしょうね。

 そのくらい、今のあたしにだってよくわかってる。


 でも他に方法を知らないの。

 婚約破棄を告げる力もない一代貴族のそのまた娘、嫌われて婚約を破棄されて、放り出されてしまえばいい……だなんて。


(ばかみたい)


 これまであたしは何をしてきたんだろう。

 何を見てきたんだろう。

 

 わからない。

 わからない、どうして。


 その繰り返しだけど、あたしはあたしの(・・・・)物語を手に入れたい。


「おかえり、ミュリエッタ」


「……お父さん」


 家に帰ると、お父さんがいた。

 いつものようにあたしに向けてくれる、その優しい笑顔。


 その笑顔を見ると、良心が痛む。

 でもあたしは逃げ出したい。


(ここから逃げたいって言っても、きっとお父さんは反対するよね)


 人が羨む人生を手に入れて、どうしてそれを手放したいのかって。

 でもあたしはあたしのしたいように生きたい。

 失敗しても、挫けても、いつか笑い話にできるような人生を送りたい。


「お父さん」


「ん? どうした?」


「……ううん、なんでもない。今日は帰りが早かったのね?」


「ああ、今日は訓練だけだったからなあ。はは、冒険者だった頃はがむしゃらに剣を振ってればなんとかなったのが懐かしいよ」


 楽しげに笑うお父さん。

 あたしのことが大好きなお父さん。


「夢のようだよなあ。王都の一等地に住めて、騎士になって、貴族になって……食うに困らない生活で、親子で暮らせる。母さんもここにいてくれたらどれだけ喜んでくれたことか」


「ええ……」


 そうよね。

 父さんと母さんは駆け落ちだったから、苦労したんだもんね。


 あたしはそれを知らなかったけど。

 愛し愛された二人だけど、周りの祝福は得られないまま。


(……あたしは、同じようなことをしようとしている?)


 それって本当にあたしが望んだ幸せなのか。

 でもあたしは……決められた相手と結婚なんて。


 心が揺れる。

 お父さんの笑顔を見る度、胸が痛む。


(相談できる人が、いてくれたら……)


 あたしがやろうとしていることは、きっと間違いだ。

 でもお父さんたちへの罪悪感だけで、自分の人生を棒に振りたくない。


 けどこの選択こそが大きな間違いである可能性だって大きいわけで。


(あたしはどうしたらいいの?)


 誰かに聞けたらいいのに。

 誰に聞いたらいいのかも、わからないなんて。


 あたしはみんなを幸せにしたかった。

 でもあたしは、あたしは……気がついたらヒロインになることばっかり気にして、本当に大事な人たちを偽ってきたから、本音を語ることができずにいる。


 愛があれば大丈夫?

 そんなわけない。

 嘘がばれたら……この笑顔は、消えてなくなるかもしれないなんて、これまで考えてこなかったけど。


(あたしだったら、きっと許せない)


 お父さんになんて言って部屋に戻ったか分からない。

 

 今、誰かに無性に話を聞いてほしかった。

 誰でもいいわけじゃない。だけど聞いてもらわなきゃ頭がパンクしそうだ。


 何故か頭に浮かんだのは、ユリアさんと……リードの顔だった。

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