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さて、いろいろと考えることも増えて参りましたが基本的に大事なのはプリメラさまです。
プリメラさまファーストですからね、王女宮ですもの!!
お小さい頃でしたら誕生日のパーティーとなれば『プリメラの好きなものいーっぱいにして!』って可愛らしいおねだりをされたものですが、今となっては誰が見ても憧れの素敵な王女さまですからね。
「ルイスおじいさまの薔薇も楽しみね!」
「はい。それと、ドレスのデザイン画を何点かご用意させていただきました。気になるものがこの中にあると良いのですが……」
デザイナーたちには日頃から季節の折々にカードを送ったりと気遣いをしていたこともあって、彼らも王女宮とは良い関係を続けていきたいと思ってくれているようです。
勿論、王女殿下のドレスっていうのは大口のお仕事ですし、そんな顧客を逃がしてなるものか! っていう思いはあるんでしょうが……それでもね、お仕事として付き合っていきたい相手と思ってもらえるかどうかはまた別問題でしょう?
なので、適切な関係を築きつつお互いに疎遠にもならず……といった感じで幾人かのデザイナーと連絡を取り続けております。
同じデザイナーだけを頼るというのもありなんですが、やはりいずれは淑女の頂点に立つプリメラさまですもの。
いろいろな角度からデザイナーたちがそのアイデアを尽くした様々なドレスを身にまとう権利があると思うんです!
というか、私が見たい。
様々なドレスを着こなすプリメラさまのお姿を、私が見たいのです!
(絶対どれも似合っちゃうもの~~~!!)
我らが大天使プリメラさまですもの!
艶やかな衣装も、清廉な衣装も絶対に着こなして周囲を魅了すること間違いなしだと思いませんか?
「アクセサリーに関しては特に指定もないのよね」
「はい。統括侍女さまにも、当日の行事責任者にも確認いたしましたが、多くの方々に祝ってもらえる席となるよう陛下がお心を砕かれたようです」
「そう」
王族の婚約発表やそれに類する行事となると、なかなかにきっちりとしたものが多いのですが……これまでもプリメラさまの誕生パーティーに関しては、プリメラさまが楽しめるようにすることを一番に重く見るよう言われておりました。
それは婚約発表をするという今年も変わらないようで、やはり陛下にとって一番大事なのはプリメラさまが喜ぶこと、好きなようにさせることなのだそうです。
とはいえドレスコードくらい決めてくれても……と現場責任者と統括侍女さまが嘆いておられたことは内緒ですけどね!
(フランクすぎるのも王家の人間として軽く扱われていると誤解を招きかねないのも事実なのよね……)
王太子殿下の時は国家行事扱いなのに対して、プリメラさまは自由度高めの楽しいパーティーですから。
勿論、同じ王の子とはいえあちらは〝王太子〟という地位があるわけですから当然と言えば当然でもあります。
けれど、婚約が決まったからといってプリメラさまが王家唯一の姫として公務に対し責任を持って臨む御方だと思えばある程度こうして節目ではきっちりした方がいいのでは……と思います。
ですので今回、デザイナーたちには『婚約発表の場なので! よろしくお願いします!』と念を押しておきましたとも!!
(前世の記憶を頼りにするなら、サムシング・オールド的なものを用意できればよかったんですが……)
祖母や母親から子へと大事な宝石を引き継いでいくことで幸せも続いていくよ、みたいな感じでしたかね。
あれっ、富の象徴だっけな……まあとにかく、そういう良い物が続いていきますようにって願掛けの一種です。
あれって素敵だと思うんですよね……!
(でも結婚式だったような気もするので、そうすると婚約式だと変かしら)
とはいえ、ここは前世とは別世界ですし……。
デザインだけならリメイクしてもらうとかもありだとは思いますが、オリビアさまの物を持ち出すと陛下から何か言われるかもしれないので、この場合は……王太后さまを頼るようですけども。
そもそも王太后さまの持ち物を譲ってもらうなら、デザインも洗練されているので一切問題ない気がします!
「どのドレスも素敵ね! そうね、ドレスは……このデザインがいいかしら」
「では後日デザイナーを招き、改めて説明をさせる形でよろしいでしょうか?」
「ええ! 布地やレースの見本もあったら是非持ってきてもらって」
「かしこまりました」
プリメラさまが気になったのは、淡いブルーのシンプルなドレスの上に繊細なレースとチュール生地をふんだんに用いたデザインでした。
愛らしくもどこか大人の雰囲気を漂わせるスタイル、とても似合うと思います!!
「アクセサリーはどうしようかな……おばあさまに相談しようかしら」
「それがよろしいかと」
きっと王太后さまも喜んで協力してくださいますとも!
プリメラさまは私の言葉ににっこりと微笑んでから、手元のデザイン画をじっと見つめていました。
「……? どうかなさいましたか、プリメラさま」
「ううん。ねえ、ユリアとお揃いにはできないかしら」
「えっ」
「わたしの婚約式で、ユリアとお揃いのデザインのドレスが着られたら素敵かなと思って……」
「そ、それは……少々、難しい、かと……」
思わずたどたどしい答えになったことを許していただきたい。
だって、だってですよ?
いろんな意味で難しくないですか!?
まず王女殿下の晴れの日に、お揃いのドレスなんて着ちゃったらそりゃもう注目を集めるどころの騒ぎではございません。
なんだったら国王陛下からめちゃくちゃ睨まれる未来しか見えません!!
確かに将来的に身分差は多少出てしまいますが、夫を挟んで義理の姉妹になる間柄ですし……私たちが良い関係を築いている主従であることは周知の事実。
まるっと同じデザインではなく、似たデザインを用いて関係性を強調する……というのはありだと思います。
(単純に、プリメラさまは私とお揃いがしたいっていう無邪気な願いを口にしているだけなわけだし)
将来の義姉妹でお揃い! 嬉しい!
その程度の思いつきだということは分かっておりますとも。
なんとも可愛らしいじゃありませんか!
私に難しいって言われてしょぼんとしちゃうその姿、もう抱きしめてあげたい!!
「そっかあ……」
「……ただ、レースなど微細な部分で揃えることならば問題にならないかと存じます」
「ほんと!?」
「はい」
「じゃあ、そうしましょうね! レースはたくさん注文して、ユリアに渡すから! それを使ったドレスを作ってね!」
うきうきになっちゃうプリメラさま、可愛いなあ。本当に可愛い。
いくつになってもこの愛らしい笑顔を向けてくれたらなって思っております。
……でも、あの可愛らしいデザインのドレスは回避できました!
あれはプリメラさまのように可愛らしさと美しさを兼ね備えた女性が纏うべきドレスであって、私の年齢では少々可愛らしすぎると申しましょうか……。
まあ要するに絶対に似合わないってわかっているデザインですからね!
自分を卑下しているわけではなく、自分に似合わないものくらいは理解しているんですよこれでも!!
(レースをどう使ってもらうか、私も相談してみよう……)
素材の持ち込みオッケーなのかも、手紙で問い合わせておかなければ。
多分ダメとは言われませんけど……追加料金かかるのかしら。
(そういえば、アルダールの目の色のドレスって決めてはいるけれど……デザインに何かアルダールから意見ってあるのかな?)
当日は近衛騎士隊の礼服なのか、貴族としての礼服なのか、それで上層部があれこれ言っているとは聞きましたが。
あーあ、まだまだバタバタするんだなあ!
5/11にコミックス8巻が発売されています。
新年祭の初々しい二人、是非お楽しみいただければ幸いです!