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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 侍女としての朝は早く、私は特に筆頭侍女として朝礼で何を話すかとか注意事項とかを前日のうちから確認をしておくのが大事です。

 本来ならその後、宮の報告書などを読んでそれにサインをして業務日誌を書いてという一連の流れなどもありますが、現在の私は夕方で帰宅させていただいております。


 偏に、結婚式の準備のためにね!

 自宅に戻って準備のあれこれをしなくちゃいけませんからね!!


 ほんの少し前までは執務室の隣にある私室で暮らしていたので、ギリギリまで仕事をしてから寝る……なんてのが当たり前でしたが、今では婚約も正式に成立しましたので自宅からここに通いになるわけです。

 勿論、我が家という響きには何物にも代えがたいものがあるのですが……失ったものもあるのです。

 

 そう!

 出退勤の時間がゼロ分じゃなくなったってことですよ!!


 くっ……こんなところに伏兵が。

 とか冗談を言っている場合ではないのです。


 しかもなんというか、これは全面的に私が悪いのですが……朝のスキンケアはこれまでもきちんとしておりましたが、化粧に関しては適当にまあ見苦しくない程度でいいかって感じだったんですよね。

 ええ、まだ私も若いですからお化粧ののりだってそこまで悪くないですし? 若いですから、若いですからね!!

 ここは譲れません。

 寝る時だってパパパッと落として終わり。はい楽ちん。


 でも私も貴族家の女主人(予定)のため、家に帰ると侍女がいるわけですよ。

 帰るとマーニャさんが笑顔で「おかえりなさいませ」って出迎えてくださってお茶だの髪や化粧を落とすところから手伝ってくれてっていうね、実家にいた頃は当たり前だったあの生活に戻ってきて……。


 うわめっちゃ楽ゥ~……って思うのと同時に、普段の自分がかなりそういう意味で自身に対し手を抜いていたなと反省する次第です。


 マーニャさんが手がけてくださって最近めちゃくちゃ肌と髪の調子が良くってですね……結婚式まで頑張りましょうねって楽しそうにしてくださっているのが幸いです。


「ユリアさま、お風呂の支度が調いましたが今日もお手伝いは必要ないのですか?」


「え、ええ! お風呂上がりの髪のケアだけお願いするわ」


「かしこまりました。お風呂上がりに果実水を用意させていただきますね」


 私も貴族令嬢の端くれ、世話されることにも慣れておりますし、なにより現役の侍女ですからね。

 化粧、お着替え、ヘアケアそのほか諸々行うことは自分もよーっくわかっております。

 その業務の中に入浴ですとかマッサージですとか、そういったことも含まれているのです。


 ですがまあ私は正直前世の記憶のせいもあるのでしょう、お風呂だけは一人で入りたいのです……!!


(これは実家でも侍女たちを困らせたって自覚はあるのよねえ)


 幼い頃はまあ溺れちゃわないかとかそういう心配もあったから仕方ないとは思うことで耐え忍びましたが、一人で入れるだけの背丈になった頃から『髪も体も自分で洗う!』と言い張ったものです。


 幸い、ファンディッド邸は田舎の方でしたから侍女たちも『自立心の高いお嬢さまですね~』って微笑ましい感じでじゃあ衝立(ついたて)の向こうで見守りますスタンスになってくれていたので助かりました。

 彼女たちからしたら『どうせ子供だしすぐにでもべそをかいて手伝えって言ってくるに違いない』とか思っていたんだと思いますけど。

 ふふっ、そうは問屋が卸さないんだ……!!


 その後、王城に来て侍女見習いになると貴族令嬢であろうと見習いは見習い、自分のことは自分でやりなさいって言われるので、みんな大浴場などで互いの髪を洗うとかそういうこともありましたね……。

 私は一人でできるので特に問題はありませんでしたが、よく考えたらあれも一種のコミュニケーションだったのではないでしょうか。

 自分でできないことを他人に頼み、会話のきっかけとし、仲良くなる……。

 そして互いの髪を洗ったりケアし合うことで友情を育むと同時に侍女としてのスキルを磨くことにも繋がっていたのではと思います。


 そう考えると知識だけ詰め込ませて実践はお互いにやらせるんだからなんて合理的なのでしょう!


 まあそれはともかくとして。


「うーん、やっぱりあと四、五人は王女宮に侍女がほしいなあ」


 少数精鋭だけどやっぱりそこはもう少し分担作業をしたいと思う今日この頃です。

 

 勿論我らがプリメラさまは我が儘放題で意地が悪い……なんてことはなく、むしろ私たち侍女を労るパーフェクトな女主人となっているわけです。


 ですがやはりね、こう……。

 今は人手が! 足りないんですよ!!


 そこはビアンカ先生も嘆いておられましたとも。


 今もまだ社交界デビューには至っていないプリメラさまですので、淑女としてなお一層勉強を続けておられるわけですが……やはりあちこちからチラホラと社交界デビュー前でも茶会のご招待などが届くようになってきております。


 それもこれも公務を始めたからで、一般の貴族家ですとデビュー前の子供を誘うのは親を通じてってことになるのですが、王族の場合は公務に参加し始めると各貴族家と繋がりを持つことは大切なこととして直接お誘いのお手紙を出すことが許されているのです。


 とはいえオリビアさまがご存命であれば、オリビアさまを通じて……というのが殆どだったとは思いますが。


(プリメラさまも積極的に参加したいと仰っていたし……)


 親しくなったお家の関係で、侍女を王女宮付きにすることだって考えれば私たちにとってもメリットがないわけではありませんしね。

 プリメラさまは国王陛下に愛されている王女殿下である以上、蔑ろにするような貴族はいないと思いますが……それでも、後ろ盾となってくれる貴族家がナシャンダ侯爵家とバウム家以外にもいてくださることに越したことはございません。


 ファンディッド子爵家?

 うん、うちも勿論プリメラさまに対して好意的ですけど、なんといっても存在感の薄さがね……!

 セレッセ家と縁続きになる家でしょ? 名前なんだっけ……とか言われるレベルの存在感の薄さが売りですから!!


(メレク、頑張りすぎちゃわないといいけれど。……ファンディッド家の未来を気負わずに、ほどほどに頑張ってくれたらいいなあ……)


 まあそれはともかくとして、茶会についていく侍女、お手紙を代筆する侍女、そのほかお土産を準備したりリサーチしたりといろいろと私たちにもやるべきことがあるわけです。

 そうなると今までの人数でもまあなんとかなりますよ? なんとかしますとも。

 だけどさ、やっぱりね?


「はあ、人手がほしい……」


 統括侍女さまにもお願いはしているし、増やすことは許可いただいているんですけどね。むしろ推奨されています。

 現在は他の宮の侍女たちが助っ人としてきてはくれていますけども。

 そうじゃなくて専任の侍女がほしいんですってば。


(陛下がお許しにならないらしく、統括侍女さまも困った顔をしていらしたんだよなあ)


 やっぱりそろそろ、王太后さまに頼るしかないのかしら!?

 あの方の口添えがあれば陛下だって否やとは仰いませんでしょう。


 淑女には淑女のいろいろあれこれあるんですよ。

 殿方にもあるでしょうし、陛下の傍には何人の執事と侍従がついていると思ってんですかね。


 プリメラさまに不自由な思いをさせたくないのと同時に貴族家からの干渉をほぼさせずって思っているんでしょうが、こちとらいい加減しわ寄せがきつくてきつくてプリメラさま可愛いってそれを心の支えにやってますけどそれなら結婚式焦らせないでくださいますかねって毎日考えちゃっている次第です。


「ユリアさま、そろそろ旦那さまがお帰りになるお時間です」


「えっ、もうそんな!?」


「はい。あらいやだもうお帰りでした」


「ええ!?」


 やだ急いで着替えないといけません。

 婚約者とはいえ一緒に住んでいる以上、できる限りアルダールの望んでいた『いってらっしゃい』『おかえりなさい』ができる家にしていたいんです。

 私が先に帰っている時は、彼が帰ってきて一番最初に『おかえりなさい』を言うのが楽しみでもあるんですから!


 大慌てで私は寝間着に袖を通し、髪を拭くのもそこそこに玄関に向かえばアルダールがカルムさんと何かを話しているところでした。


「おかえりなさい、アルダール!」


「ユリア」


 私の声にパッと笑みを浮かべてくれたアルダールがそのまま手を伸ばして、私の髪に触れました。

 そして困ったように笑って、私の後ろの方へと視線を向けます。


「マーニャ、タオルを居間に持ってきてくれ。ユリアの髪は私が乾かすから」


「えっ! いえ、自分で……」


「いいんだ。やらせて? 妻を甘やかすのは夫の特権だからね」


 にっこり笑顔でとんでもないこと言うやつ~~~~~!!

 なんでしょう、アルダールったらご機嫌ですね。


「ま、まだ結婚してないから妻じゃないです……」


 私の精一杯の抗議は、なんにも力を持っていない気がしました。

 くそう、また負けた!!


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[一言] 通勤時間という伏兵がww でもそんな遅くまで仕事してるってことは人員不足ってことだし、陛下はホント何考えてるんだろうねえ。プリメラさまもいずれはバウム家に降嫁して伯爵夫人として社交に出るんだ…
[一言] > なんでしょう、アルダールったらご機嫌ですね。 ご機嫌でよかったですね。 下手したら「濡れた髪なんかででてきたら殿方を誘惑しているのか、自分の魅力の自覚が足りないよ」とか説教モードになって…
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