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 さて、婚約が整って両家で楽しくお食事をしたり今後について話に花を咲かせる……という楽しい時間を過ごしたら、次ですよ、次!

 そう、余裕がないんですよ本当にもう。


 婚約式だって普通に考えたらものすごくスピード婚約式だったんですからね!?

 でも陛下が認めたってのにいつまでも式を執り行わないなんてことは許されるはずもなし……。


 そして婚約式をしたなら次は結婚式の準備を決めてその日取りで公式に『ミスルトゥ家』を名乗らなくてはなりませんのでそちらの準備も並行して行うわけですよ。


 やっぱり陛下。すべての元凶は陛下。


 ……そう、何故私がこのように尊き御方に対して恨み節……とまでは言いませんが、ちょっとした不平不満を口に出しそうになっているかというと、勿論その準備期間の短さに今悲鳴を上げたい気持ちだからですよ!

 八つ当たりだってしたいじゃないですか!!


 大人だからしませんけど!!


 業務に戻っても結婚式の準備に大忙しな私たちですが、まあね、暮らす家は決まっているしそちらの家紋とかを入れた馬車、紋を刻む、そういったものは着々と進んでいるのでそこは大丈夫です。


(けど……花嫁衣装を選ぶってのがこんなに大変だったなんて……!!)


 ドレスを選ぶのはお手の物! だけどそれはプリメラさまのだからこそですよ。

 私自身はどうせ人生で一回だし、そこまで結婚式ってものに夢を描いていたわけでもありません。

 恋愛結婚できるだけで幸せだなあって思っていたくらいですからね。


 なので、当初はお義母さまが嫁いできた時のドレスを譲っていただこうかと思ったんです。

 ほら、よく聞くでしょう? 母から子へと受け継ぐ……みたいな!

 前世ではそういう話もチラホラ耳にしたもんです。

 ええ、ええ、同級生からの招待状とかそういうので結婚式に足を運ぶことも幾度かありましたのでね。

 今世でもそういうのはよく聞く話で、特に貴族家なんだかと由緒ある花嫁衣装があると聞きます。


(それに当初は騎士爵の結婚だったんだもの……)


 母親から譲ってもらった花嫁衣装で好きな人とこぢんまりとした、ささやかな結婚式を挙げて……って考えるのは普通でしょう!?

 まあファンディッド夫人の花嫁衣装、ってんならオルタンス嬢に譲られて当然とは思いますが、メレクたちは自分たちでドレスを新しくするって張り切っていましたのでね。

 なんでもセレッセ領の布地を使って、ファンディッド領の伝統文様なんかを刺繍した新しいデザインのウェディングドレスを作って流行を生み出そうとしているそうですよ。


 逞しいなあ、未来の義妹。


 まあそんなこんなで円満にウェディングドレスが私のところに……って思うじゃないですか。

 ところがどっこい。


『ご、ごめんなさいねユリア。そう言ってくれるのはとても嬉しいのだけれどとても……とても私のは譲れないわ。その、私は後妻だからってことであり合わせのドレスだったものだから……』


 申し訳なさそうにそう謝罪されてしまった私のこの気持ち。

 あのくそったれ妖怪爺め……!!

 おっと、口が悪くなってしまった。反省。


 じゃあ実母のは? と思ってお父さまに尋ねると、こちらも申し訳なさそうに首を横に振られてしまった。

 実は、きちんといつかは娘に譲ろうって気持ちで保管していたらしいのだけれど、後妻を迎えるにあたってお義母さまの気持ちを考え、母方の実家で保管してもらっていたらしいのです。

 ところが、そちらのご家族はなんと! 夜逃げしちゃってドレスも持ってっちゃったんだってさ!! コノヤロウ!!


「……中古じゃ……だめかしら……」


「だめでしょうねえ」


「ですよねえ!!」


 これがただの騎士爵の結婚なら中古品のウェディングドレスを買ってきて、身内の女性たちに手伝ってもらって手直しをして祝福を受けたとかなんとか言って式を挙げるところですが……。


「国王陛下が直々に爵位を与えた近衛騎士サマの結婚式だものねえ」


 にんまりと笑うビアンカさま、面白がっておられますねそりゃそうですね私だって自分のことじゃなかったら興味深く話を聞いていたと思いますよ!


 せっかくなので針子のおばあちゃんが作ってくれることになりまして、ただね、持ち込まれた生地のサンプルがものすごい量でして……。

 あとレースのサンプルもね、分厚いバインダーが十冊以上あってですね……。


 うん? プリメラさまのドレスを決める時でもこんな量見たことないな? って感じの。


「……うう」


 とても張り切っていた針子のおばあちゃんがとっても可愛くて、そして頼もしくて、まあそのウェディングドレスを私も楽しみにしているわけですが!

 だってデザインがとっても素敵だったんです!!


「あとは参加してくださる方への感謝状と小さな贈り物ね、そちらの手配は?」


「済んでおります……」


「参加日程の方、神殿でお勧めの日を提示されているかしら?」


「そちらは返答待ちです……」


「ブーケの手配は?」


「終わりました」


「そう、それじゃあ結婚式は大体大丈夫かしら。その後のパーティーはどういうスタイルにするか決めたの?」


「立食が良いのではと」


「ああ、いいわねえ」


 ビアンカさまは結婚式を迎える私の、この準備期間が少ない上に貴族としてやっていく上で必要なあれこれをサポートしてくださっているのです。

 持つべきものは頼れるオトモダチ……!!


 とはいえあれこれ足りない部分を補うのに良い品や芸術家などがみんな一流すぎて私たちにはちょっと身の丈が……って思うところも多々ありまして、これが真の貴族……なんて心の中で吐血してしまいそうでした。

 うん、普段私もそういったものに触れているとはいえあくまで国の予算だから気にしないでいられたけど、自分が……ってなるとまた別なんですよ、ええ。


「……結婚式を挙げた後は当面、パーティーとかは無縁でいいんですよね……?」


「そうね、けれど夜会には定期的に顔を出した方がいいわね。国王陛下のお気に入りだからってお高くとまっている、なんて言い出す連中はどこにでもいるわよ?」


「うう……」


 まあそうですよねそうですよね!

 わかっちゃいるんですよ、ええ……私も王城勤めの長い侍女。

 そういった感じのことをグチグチ言っている出世できないタイプの方々があちこちにいらっしゃることくらい、侍女仲間から耳にしておりますとも。


 統括侍女さまからはそういう手合いを相手にしないようにって、役職がなかった頃にはみんな注意されたもんです。

 役職持ちになってからは、パーティーでそういう輩に絡まれた侍女がいたら助けてあげなさいって言われるんですけどね!


(これまではプリメラさまがパーティーに参加することなどほとんどなかったし、参加しても私はその傍にずっといたから……でもこれからはそうもいかないのよね)


 いずれプリメラさまの降嫁のことまで考えれば、専属侍女となる予定のスカーレットにはそういう場に立ってもらわないといけませんし……。

 しっかり〝侍女として〟成長を遂げたとはいえ、まだカッとなりやすいところもあることを考えれば、経験を積んでもらうためにも私ではなくスカーレットをつける場面も増やさなければいけません。


 その場合は私もパーティー会場を歩き、給仕とトラブル対処に出向くべきであって……。


(それはいやじゃないけど、可愛いプリメラさまのお姿を間近で見る時間が減っちゃうのが辛い……!!)


 子離れできない親の気持ちってこういうのを言うんですかね?


 かつては『ゆりあ、ゆりあ』と私が傍にいないと不機嫌になっていたプリメラさまも今や王女としてご立派な姿を見せてくださっているので、少しだけ寂しい今日この頃……。


「まあ貴女の結婚式にはプリメラさまもわたくしもこっそり参加するつもりだから、招待状をよろしくね!」


「ええっ!?」


 ほほほと軽やかに微笑むビアンカ様に、今日一番驚かされたのでした……。


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― 新着の感想 ―
[一言] _:(´ཀ`」 ∠): ↑ユリアちゃんの心中姿勢が正にコレ。
[一言] こっそりできるんですか?
[気になる点] ・とても張り切っていた針子のおばあちゃんが ・とっても可愛くて、そして頼もしくて 相変わらず、癒し系のおばあさんですね。
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