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 侯爵令嬢スカーレット。ピジョット侯爵家のなんと七女である。

 いわゆる、婚活するために侍女になった、をまさに体現したような女性なのだ。


 ピジョット侯爵家は大変子だくさんで有名なご家庭だ。

 長男・次男・三男とまず三つ子で誕生したかと思えばその翌年長女・次女の双子が誕生、更に翌々年四男・三女・四女の三つ子が生まれている。そしてその次にまたまた双子(五女・六女)でその後双子(七女と五男)。おいおい、どんだけだよと思うだろう。私も思った。

 すごくね? これご正妻おひとりだからね? 出産したの。

 奥方超頑張ったね。乳母の数もすごそうだ。


 で、ピジョット侯爵家の資産はそこまで多くない。

 ので長男が跡継ぎとして次男が分家筋に、それ以降は各々で道を見つけておくれという態度である。

 つまり婚活とか紹介もここまで人数が多いとね、縁戚になるだけのメリットがあるかって問われると侯爵家の方には家名くらいしかないし、是非にと持参金を積んでもらえるほど自分の子供が血が有能であるとは思ってはいないらしく彼ら個人の資質でお願いしますと言う訳なのだ。


 女性陣はやはり長女と次女は懇意にしている貴族の方と縁談があったようで、三女以降は勤めに出て縁があれば……という形になるのだけれども。実はピジョット家の三女が私と同期。だから結構話は聞いている。末妹のスカーレット嬢が侍女になると話が決まった時は彼女が心配して手紙を書いてきたものだ。

 あっちなみに三女の彼女は城内の食堂で働いていた料理人と結婚しました。

 今は結婚したことで身分も平民になっていますが、とても幸せそうです。お子さんもいらっしゃるんですよ。

 でも貴族と結婚できなかったから負け組とスカーレット嬢はお姉さんのことを見下しているらしく、まあそういう妹なのできっと苦労するからよろしく頼む、とそういう内容のお手紙でした。

 結局のところ、王女宮に配属にはならなかったので接点が殆どないわけですが。


 で、このスカーレット嬢。

 たくさんいる内宮の侍女のうちの一人として頑張っているならあれなんですが、……なんていうか間違った方向に意識が高い系? らしいのです。

 己が侯爵令嬢であることに誇りを持っている。これはわかるんですが、だからって侍女に就職した以上まずは侍女ですからね。そこんとこは変わりません。『職業:侍女』です。

 ですので筆頭侍女や次席侍女などの序列は守ってもらわねばならないのですが彼女はそれを良しとせず何度叱責されたことでしょう。

 そもそもが振り分けの時に統括侍女さまに対し『私は侯爵令嬢だし、年齢も若いから王太子殿下とつり合いもとれる。見た目だって美しい。だから私は王子宮に相応しい!』とやらかした経緯がある人です。勿論そんな王太子殿下の御手付き狙いとか王子宮の侍女にできるわけないじゃないですかー。


 そもそも王太子殿下の婚約者候補に入っていたら就職なんてしませんよ……王妃教育を幼いうちから施さねばならないんですから……余程求められたとかすごいことが起こったとかじゃない限りそういう資質のある令嬢が幾人かすでに内々に定められているんですが、国王陛下が決断を下されるような決定打がないらしく今のところ保留のままです。私もどなたかまでは存じませんが、聞くところによると候補として教育も最低限進められているのは3人いるとか?

 スカーレット嬢でないことは統括侍女さまが御自らご否定なさってます。


「アルダール・サウルさま、奇遇ですわね!」


「これはピジョット殿、お仕事ですか。頑張ってください」


「そうなんですよ、筆頭侍女のあの方ったらワタクシが侯爵令嬢なことを妬んでこんな地味なことばかりさせるんですのよ?! どう思われます?!」


「基本の事柄を学ぶことはどのような身分であれ大事だと思いますよ。与えられた職務を是非真面目にこなしてくださいね。さ、ユリア殿行きましょうか」


「え、ええ……スカーレットさん、アルダール・サウルさまの仰るように仕事なのだから真面目に……」


「あらいらっしゃったの!」


 明らかに敵対的なまなざし向けてきたよー。もうやだこの子!

 職業が侍女である以上、宮が違うとはいえ私の方が立場は上ですし……ましてや他所属のアルダール・サウルさまに自分の上司の愚痴を言うなんて。親しい間柄ならともかく私もいる場所で、親しくもなさそうだし、往来だし、もう色々あかん。思わず素が出てしまいます。

 違う宮だからあまり指導というわけにもいかないけれど、これを聞いたら内宮の筆頭侍女が顔色無くしちゃうよ? それくらい品位のない行動だってことなんだけどさ。

 いいんだよ、これが親しい友達同士で侍女同士で人気もないとこで話に花を咲かせるとかなら。

 時と場合と相手を考えろって話なの。T.P.Oが大事って言うじゃん?!

 ちなみに超余談だけど、T.P.Oって和製英語なんだよね。前世で当然のようにドヤ顔して喋ってた禿げ営業のお偉いさんが口にして、海外からのお客さんに首を傾げられていたのはざまぁ……じゃなかった勉強になりました!


「ワタクシ、アルダール・サウルさまにお話ししているの。おさがりくださる?」


 オ・バ・サ・ン。


 そう声に出さずに言う彼女に、そういうのはアルダール・サウルさまが見えてない時にやらないと意味が無いんだよ、と残念な気持ちを抱きました。本人が見ている前で声に出さずともはっきりわかるように口パクしたら意味ないじゃん……ほら、アルダール・サウルさますっごい引いてるからね……。

 このくらいの嫌味を言って噛みついてくる子は実は何気に多いから私は気にしないけど、でも侍女の姿で平服の私たちに喧嘩を売るのとか本当に品位が疑われるのでやめてもらいたい。っていうかスカーレット嬢も行儀見習いから即侍女になったクチなんだから、18歳の今ちょっと行き遅れと呼ばれつつあるので最近焦りが見えるから余計に……うん、その攻撃的な行動が男性をドン引きさせてるんだって気付いたらいいと思う。

 多分周りが何言っても聞かないとかこの言葉の苛烈さから友達がいないかどっちかなんだけど……正直他の宮の子なのでそこまで詳しくはなかったんだけどね。


「……行きましょう、ユリア殿」


 にっこりと。

 ええ、本当ににっこりとした笑顔でアルダール・サウルさまが仰った。


 あ、これもう見えないものとしてる表情ですねわかります。

 でもいいのかしらとちょっとお返事ができずにいると、そんな彼の対応がやっぱり納得できなかったらしいスカーレット嬢も目を吊り上げている。やだ修羅場?


「アルダール・サウルさま、何故ファンディッド子爵令嬢とご一緒ですの? ワタクシがあんなにお誘いしているのに一度も応じてくださらなかった。なのに何故このような方と」


「このような方、と貴女が彼女を侮って良いとは到底思えませんが。私は私のお付き合いしたい方とご一緒させていただくだけです」


「ワタクシは侯爵令嬢ですのよ?!」


「そうですね、それがなにか?」


「アナタはたかが(・・・)伯爵子息でしょう、それも跡を継げない! 分家を立ち上げる噂を聞いています、その時ワタクシの実家の援助があればどれだけバウム家の助けになるかおわかりにならなくて?」


「スカーレット!」


 流石に私は彼女の言葉を咎めなければならない。

 例えそれが、他の宮の侍女であったとしても。筆頭侍女の一人として、今のは見過ごしてはならない言葉だ。


 私が鋭く彼女の名前を呼んだからか、一瞬怯んだ様子のスカーレット嬢だったけれどすぐさま不満そうな顔をした。

 アルダール・サウルさまは彼女の言い様に不快感を隠さなかったので、もしかすれば彼女のこの態度はいつもなのだろうか。そうだとしたら大変まずい。


「たかが子爵令嬢がワタクシを呼び捨てにして良いと思っているの? 無礼だわ!」


「無礼はそちらでしょう、スカーレット。貴女の立場は内宮の侍女。アルダール・サウルさまのお立場に口を出して良い身分ではありません。立場を弁えなさい、侯爵令嬢の権威を振りかざす資格は今勤務中の貴女にはないのです」


 そう、彼女の悪かった点はたくさんある。

 勿論『侯爵令嬢』としての権威を振りかざしたこと。これをまずピジョット侯爵家が認めていない。寧ろ貴族というものの地位を勘違いしている娘を叩き直してやってくれとまで連絡が来ているのが実情だ。

 次に彼女が今、『侍女としてお使いに来ている』ことだ。仕事放り出して意中の男性がいたからって付きまとってちゃいけないでしょう、常識的に。

 さらにそこで意中の男性が同伴していた相手を貶す。これは純粋にマナー違反だけど、それが直接じゃないにしろ上司なんだから態度の悪さは最悪だよね。

 

 そして何よりいけないのがバウム家の子息に対して上から目線、これだ。

 そりゃぁ貴族としての位は侯爵の方が伯爵より上。それは明白な事実だ。だからって“たかが”呼ばわりが許されると思ったら大間違いだ。名誉を重んじる貴族社会においてそのような態度は喧嘩を通り越して決闘沙汰にだってなってもおかしくない。

 建国当時からある名家であるバウム家は、まあぶっちゃけると宮中伯のおひとりなのだ。宮中伯とはなんぞやと問われればもしも王家が跡目争いなんぞしたときに国内が分裂したら困っちゃうわけで、その際に活躍するとだけわかってればいいかな。私も正直そのくらいしか知らないしそれで良いとお父さまは言っていたし……いや待て、お父さまは結構抜けてるからな、今更だけどそんな適当でいいのか不安になってきた。


 まあこれは貴族の中で暗黙の了解的に知られている公然の秘密なので改めて教える人もいないけど。

 たかがというのは大間違いなのだ。しかも資産的にはピジョット家を大きく上回るわけだし。


 それなのにこのスカーレット嬢、あっさりと破って偉そうに侯爵家の後ろ盾が云々、実際の権力など何もないのに言っちゃってるわけなのだ。侍女のお仕着せのままで。

 跡が継げない子息、という言葉もNGだ。事実だとしても近衛として立派にお勤めでいらっしゃる方にたいしそういう言い方は大変失礼であることも……ああもう、ダメな部分が多すぎる。


 超、頭痛い。

 他の部署だからあんまり接点なかったけど、こりゃ内宮の筆頭侍女も頭が痛い事だろう。

 あっちは王女宮に比べてものすごい数の侍女とメイドがいるから直接教えているとは思えないけど。

なかなかダメな方向で有能な新キャラ登場です!

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