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さて、軽く調べてみたところわかりましたよ!
例のお嬢さん……お嬢さん?
ミシェル・シェルラーニ嬢について!
年齢はアルダールと同じ。
彼と破談騒動になって父親と共に外国へ渡り、そこで縁あった商家の男性と結婚。
それがどうも良くないご縁? というかまあ、ぶっちゃけ金持ちの後妻に入って旦那さんが天寿を全うした後に継子たちに追い出されたそうな……。
(絵に描いたような転落人生……)
継子と上手く行かないケースは多々あれど、彼女の場合は最初から後妻として嫁ぐこともプライドが許さなかったようで打ち解けるつもりははなっからなかったようです。
そのため関係は築くどころか最初からぶち壊し。
しかもその旦那さんが豪商だったとかで散財しまくりと来たら継子たちは面白くなかったようです。
なので籍を抜かれて元の姓であるシェルラーニを名乗り、クーラウムに戻ってきたそうです。
ただまあ、窯工房の方では迷惑なので戻ってきても受け入れなかったそうですが。
どんだけ家族間でも仲が悪いんだって思ってしまうのはいけないことでしょうか。
「……すごいわね、ここまでどこかの物語に出てきそうな女性って滅多にいない気がするわ……!!」
「そうですね、その通りだと思います」
報告をしてくれたライアンも苦笑するくらいてんこもりですよね……。
どうやら窯工房側の方でもミシェルさんの行動に危険を察知したのか、ウィナー男爵家とリジル商会、そしてバウム家と私のところに弁明の人を寄越してきたのです。
代替わりして彼女たちとは縁を切っているとはいえ、身内は身内。
あくまで縁切りしたとはいってもそれは先代とその子息であるミシェルさんの父親との間の話。
クーラウム内で彼とその家族はシェルラーニ窯工房との関係が悪化したことで職を失い、また関係あるところには働きに出られない。
二人とも老舗の商家ということを鼻にかけていたタイプらしく、救いの手はどこからも差し伸べられなかったというから国外に出るしかなかったということらしいです。
そういうわけでシェルラーニ窯工房としてはクレームが来る前に先んじて行動することで周囲に誠意を見せて、味方につけようって腹なのでしょうね。
ちょうどその使いが来た際に私は手が離せなかったので、代わりにライアンが話を聞いてくれたわけですが。
ライアンはしっかりと話を聞いた上でその裏まで取ってくれたので結局のところ調査した扱いになったわけです。
ちなみにファンディッド家は元々シェルラーニ窯工房関係との取り引きはなかったようで、地元の窯工房に頼っているから気にしないで良いとのことでした。
まあ関係なかったから問題ないけどね!!
バウム家の方は……まあなんか、いろいろアリッサさまが、うん。
アルダールが取りなしの手紙を出したっていうからきっと大丈夫でしょう、うん。
(……王女宮としてもファンディッド家としても、これでシェルラーニ窯工房との関係は丸く収まった……ということはやはりミシェル・シェルラーニという女性の行動に関しては国外からの何かと思うべきか、単に引っかき回したい国内の貴族がいるのか……)
それでも後者はデメリットの方が大きすぎる気がする。
あまりにも行動が安直だし、ミュリエッタさんに絡んでいる段階でいろいろアウトだと思うし。
そう考えると妥当なのは国外の勢力がミシェルさんを扇動してミュリエッタさんを動かし、まずは〝英雄の娘〟の名誉が地に落ちるようにした後〝英雄〟の噂を流す。
そしてそんなウィナー父娘を〝英雄〟として祭り上げたクーラウムの王とその側近へ、民衆が不満を抱くように……とかあたりですかね。
成功してもしなくても、適当にミシェルさんは切り捨てやすい駒ってところでしょう。
(……王女宮には特に関係しないし、もし私が関与するとすればあくまで『アルダールの婚約者』としてだけか)
ということは、伝手を頼る範囲が狭まるということでもあります。
フルで活用してもおそらく許されるとは思いますが、この程度で手を借りるのかと減点されそうな気もしますしまあ一番は何も頼らず解決できることですかね!!
(……ミュリエッタさんもまさか試されているとか、そんなこと……)
甘言に乗っかっちゃった場合は……なんてさすがに、ねえ?
ありそうだな! 怖いわ!!
しかしなんにせよ面倒ってことに代わりはありません。
(こりゃ結婚した後もこういうことがありそうだわ……)
極端な話、私たちがいかに想い合っているかを見せつけたり、幸せな家庭を築き上げたり、子供ができたり……まあそういうステップを踏んで見せたところで良識のある人はそもそも変なことをしてこないんですよね。
良識がない人は何度でも変なことをしてくるに違いありません。
だからこそ面倒なんですけどね!!
「……必要でしたら、処理しましょうか」
「ライアン」
思わずため息吐いたらライアンからとんでもない提案をされて私がビクついたわ。
なんですか処理って。
えっ、この報告書を処理……ではないですよねー、わかっておりますとも。
「ライアン、この件はもう王女宮で取り扱う必要はありません」
「……ですが、王女宮筆頭であるユリアさまのお心を乱すようであるなら王女宮の問題では?」
「いいえ」
まあ主語を大きくすればそうとも言えますが、そうではないこともわかっているはずです。
これって私がライアンに試されているんですかね?
かなり極端な試されっぷりなんですけども?
「ライアン」
「……はい」
「貴方が有能であることは疑っていません。ですがその力はプリメラさまのためのもの。そしていずれはこの国の最も尊き淑女を守るためのものです」
「はい」
「この程度のこと、気にしないでいいから執事として職務に励んでね」
そうですよ、やむを得ない状況で多少の武力を必要とすることは今後あるかもしれませんが、あくまでその力はプリメラさまのためのもの。
確かに王女宮筆頭としての私は守られるべき対象であるのだと思いますが、それでも今件に関しては不必要なものです。
王女宮筆頭としても、一介の子爵令嬢としても、そして未来の子爵夫人としても。
まずは武力ではない平和的解決を模索しなくては!
「……ユリアさまはなかなか僕を使ってくださいません」
「あら、十分手伝ってもらっているわ」
どこか拗ねたようなライアン、うん、今日もキラキラしていますね……。
黙っていれば絶世の美男子、だけど蓋を開けてみると〝影〟だなんて。
(彼がゲームの登場人物だったって言われても納得するほどだよねえ)
まあ現実だと認識がしっかりできている今となってはさほど気にすべき点ではありませんので目の保養とさせてもらいましょう。
しかし何を言っているのやら……。
本当に情報収集という点ではお世話になりっぱなしだというのに!
(ああ、そうか)
私としてはたくさんお手伝いしてもらっているつもりですが、もしかするとライアンは以前の仕事に比べるとこの王女宮での仕事量が『少ない』と感じているのかもしれません。
さすがの私も〝影〟が普段どれほどの業務をこなしているかなんてわかりませんよ!
でもニコラスさんをモデルケースとするなら、多忙な王太子殿下の執事という職務をこなしながらきっと本業の〝影〟としても働いていることでしょう。
うん、ブラックかな?
(そう考えると我が王女宮はとんでもなくホワイトだな……?)
でもそう、ブラックな働き方が『当たり前』の人が唐突にホワイトなところに来たら『え? これでいいの?』って戸惑うのも仕方ありません。
まあ将来的には王妃となるフィライラ・ディルネ姫の手足となって働くのだから忙しくはなると思うのでこの王女宮では『普通の人の暮らし』を学ぶためのものなのだと思いますが……それと同時に、ちょっとした息抜き的な?
いやそれも違うか……。
(ある意味で私もテストされているけど、ライアンもそうな気がする)
セバスチャンさんから聞いている話ではライアンは潜入がメインで情報を引き出す、つまり二重生活を基礎とした仕事をこなしていたわけですよね。
私に関しては、彼をどう使うのか。
そして彼に関してはこのぬるま湯の生活で腑抜けないかどうか……ってところでしょうか?
ある程度はすでに合格している私たちですが、まだまだ上の方たちの目線が厳しい。
はあ、これもまあある程度は覚悟の上です。
尊き方の傍に仕える以上は、ね。
(だからここで私も甘えきっちゃいけないんだわ)
プリメラさまの! お傍に居続けるためにもね!!
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節目の10巻、これも皆様の応援のおかげです。
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