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コミックス7巻が8/12に発売となっております。
よろしくお願いしまぁぁぁす!!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
私の理想としてはですね、婚約式の前にこの愛人騒動だのなんだの煩わしいことが減って王城仕事に没頭できて、それから結婚式準備でバタバタして王城仕事しつつ少しずつ貴族家の女主人としてすべき業務を身に付けて……って感じだったんですよ。
ところが現状どうでしょう?
よくわからない愛人騒動はよくわからないままに終わりが見えず、それどころかなんだか今後の利権問題だのアルダールの昇進を見込んで声かけておきたいとかそういう人々の思惑が透けて見えるこの人間関係の煩わしさ!
そこに何故か過去がやってくる!!
「とんでもなくめんどくさい……!」
「ユリア、本音がだだ漏れているよ」
「はっ!」
アルダールを前にどこから説明しようか考えたところで出てきたのは本音でした。
ははは、そういうこともあります。
「自分の部屋だから気が抜けてしまったのかしら。ごめんなさい」
「いや、いいよ。……大事な話なんだろう? その反応を見る限り良いものではなさそうだ」
「そうね。……ええ、そうよ」
私にとってもそうですが、アルダールにとってもよろしくないお話です。
なにが悲しくて婚約者の口から元カノの話が出てくるのかと言われてしまいそうですが……でもこれは誰も悪くないっていうか。
私はユナさんから届いた封書をアルダールに差し出しました。
彼は少しだけそれを見つめてから、読んで……今グシャッて音がしたけど破かなかったのは自制心が働いたのだと思います。
うん。きっとそう。
「……というわけなの。あまりいい思い出はないのだろうけれど、その……以前お見合いした相手についてアルダールから話を聞きたくて」
窯工房がわかっているわけですから、私の方でいくらでも調べようと思えば調べられる話です。
さすがに老舗の窯工房が絡んでくるとなれば、王女宮への影響も少なからずあるので……最終手段としてセバスチャンさんやライアンを頼ることも選択肢としてはありますから。
あまりあの二人に頼りすぎるのもあれなので、メッタボンって選択肢もありますよ!!
彼は彼で不思議な情報網を今でも持っているようですからね!
主に冒険者仲間を通じて珍しい食材を手に入れる方向に使っているようですけれども。
たまーにとんでもない額の稀少な植物とか変な肉を買っているってことで、最近はレジーナさんが財布を握ってやろうかと考えているそうですが……早く結婚すればいいのに。
まあそれはともかく、アルダールからまずは話を聞きたいなと思ったんですよ。
今後の方針とかも決めたいですし……動向を探るとかそういうのは後からでもできますからね!
「……この話が本当なら、いや、疑うわけじゃないけど。相手はミシェル・シェルラーニ。シェルラーニ工房の工房主の孫娘にあたる女性だ」
「アルダールとお見合いをした人、で合ってる?」
「そうだね。今から十年くらい前の話になるのか……私が王都にある町屋敷で暮らしていたということは覚えていると思うんだけど」
「ええ」
「あれも将来的には私が彼女と結婚した際は当面、町屋敷で暮らさせるためのものだったらしいんだよね」
そう、アルダールはあまり一カ所に落ち着いて暮らしていません。
幼児期はバウム家の別邸。
その後幼少期を本邸で過ごしつつその居心地の悪さから王都にある町屋敷へ。
そして騎士隊に入り、最年少で近衛騎士となってからは王城の宿舎……という流れですね!
「王都にある町屋敷で暮らし始めてすぐに騎士隊に入隊した。私はその段階で屋敷を出るつもりだったが、親父殿はそれを認めなかった」
「……そしてお見合いがあった?」
「そうだ」
当時のバウム伯爵さまは、アルダールを『可哀想な我が子』として立派な分家当主にしてやろうと思っていた頃ですね!
対してアルダールは反抗期真っ盛りで早く家を出たかった頃のはずです。
お見合いも大きな商家のお孫さん、これは分家当主の妻としては悪くないでしょう。
豪商の娘がただの貴族に嫁ぐならそれはありですから。
むしろアルダールが分家当主となった際には、財力の面で妻側の実家が支えてくれることを考えてのことだったと思います。
(まあ合理的といえば合理的よね)
ただ、本人の希望とか一切無視だったわけですが!!
アルダールから以前チラッとだけ教えてもらった内容だと、そのお見合い相手……ミシェル・シェルラーニ嬢は婚約まで至っていないのに婚約者のように振る舞い、アルダールに対してもとても失礼な態度を取っていたようでした。
具体的には聞いていないんですけども。
ただバウム家の名前を出して何かしたから縁談は綺麗さっぱりなくなったんでしたっけ。
「……十年くらい前ってことは、アルダールが十五歳かそこらよね」
「そうだね。確か彼女も似たような歳だったと思う。それに、破談となってから大分後になって聞いた話だけど、彼女は隣国に嫁いだと聞いたよ」
「隣国」
「そう。バウム家の名前を商売に使ってしまったことが問題になってね」
窯工房の頭領、つまり貴族家でいえば当主はその件についてはノータッチ。
シェルラーニ嬢はどうやら頭領の孫娘というよりは、父親に甘やかされたお嬢さんだったそうで……まあかっこ良くて庶子とはいえ貴族の男の子とお見合いして有頂天だったんだろうなあ。
バウム家のお嫁さんなんだから!!
ってあっちこっちでやって、しかもそれに父親の方が乗っかってたらしく……それで当主の怒りを買って父娘揃って隣国へ。
そこで縁があって結婚を……ってことらしいのだけれど、その縁が果たして偶然だったのかどうかまでは不明。
「……でもなんで今更?」
「さあね。当時も自分が妻にならないと独り立ちもできない半人前なんだからよりを戻せって手紙をもらって笑っちゃった覚えはあるけど」
言いながら笑みを浮かべるアルダールですけど、その笑み、怖いですからね?
それにしても『よりを戻す』とは十五歳でもすごいなって思いました。
だってただのお見合いであってなんの確約もなく付き合っていたわけでもないし、破談になったっていうのは相手の家族からもノーを突きつけられたってことですのでそう簡単な話じゃないと思うんですけどね……。
いや、十代だからこそ押せ押せの精神だったのかもしれませんけど!
「……わざわざミュリエッタさんに接触したことも気になるけど、シェルラーニ嬢はもうシェルラーニ窯工房と関係ないのかしら?」
「そうだね。確か代替わりはしていたと思うけど……彼女の父親ではなく、その弟が継いでいると親父殿が言っていた気がするよ」
果たしてそれがアルダールの件と関係しているのか、実力の問題だったのかはわかりませんが。
うーん、ミュリエッタさんが変な方向で暴走しなきゃいいんですけども。
「……バウム家の方に何か来ていたりとかは?」
「ないとは思うけど、一応義母上に確認してみよう。あちらで握りつぶしているかもしれないし」
「うちの実家はそういうこともないでしょうけれど、一応ファンディッド家の取り引き関連で問題が起きていないか確認してみようと思うの」
「そうだね、それがいい」
老舗の窯工房だとその弟子とか系列とかいろいろありますからね!
知らず知らず繋がっていたところが今回の件でそっぽ向いていた……なんてことになったらたまりません。
私たちは頷いて、とりあえず大きなため息をつくのでした。