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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 その後は穏やかにジェンダ商会に行って新居であれこれ買うんですよー的な会話をし、家具だったら良いのを作る職人がいるよという紹介なんかもしてもらっちゃったり。

 こちらは大変穏やかなお買い物が楽しめました。


 ジェンダ夫人には長年の主婦の知恵をお借りして、どんなものがあると楽かとかそういうことも教えていただきましたね……。

 最初のうちは客を呼ばないならカトラリーやテーブルウェアは控えめでもいいけど安物を揃えておくと部下とかそういう立場の人を招くことになった時割られても安心とか。


 さすがに女同士の内緒話ですよ?

 アルダールがいずれ部下とか後輩を持つ立場になったからって、そんな不調法な人がうちに遊びに来るとは限りませんけどね?

 ほら、こういうのって備えあれば憂いなしって言いますし!!


 なんでも今では落ち着いた愛妻家であるロベルトさんも若い頃には唐突に仕事仲間を連れて酔っ払って帰ってくることも何度かあったんだとか。


「その度に良いお皿なんて出したら酔っ払い共に割られちゃってねえ。まあ、ユリアさんとこの旦那さんも、ユリアさんのお仕事仲間も、身分ある方たちだろうからそんなことはないだろうけれど……」


 なんて言われたら笑って返すしかありませんね。

 正直、アルダールの同僚なんてハンスさんくらいしか知りませんからどうなのかはわからないなあ!


 貴族だからってほら、今は落ち着きましたがエイリップ・カリアンさまみたいのもいますからね。

 一概に大丈夫だとは言えません。


 そんな感じでの帰り道、アルダールが馬車の中でそっと言いました。


「これで終わったかな?」


「……どうでしょう」


 何がとは問い返しませんでした。

 アルダールにとっても、私にとっても、ミュリエッタさんとの付き合い(・・・・)は思っているよりもずっと濃密で、そして厄介な感じで続いてきたなと思います。

 つい最近それも縁が切れたのかなあと思っていたところで今回のこれですからね!


「彼女はどうして私にあそこまで拘るのだろうね」


「そうですねえ」


 恋は人を狂わせる、なんて言葉ではアルダールも納得はできないのでしょう。

 でも私にはなんとなく、わかる気がしないでもありません。


 前世の記憶にあるあの【ゲーム】で彼女がアルダールのことを一番好きだと思っていて、そして現実となった今、本当に恋ができると思ったのがきっかけであることはまず間違いありません。


 ただ、そこで『ああ、これはゲームじゃないんだよなあ』で終わることができれば、単純に良かったのでしょう。

 ミュリエッタさんは私の目から見ても、恋に恋する小さな女の子といった風に思えるのです。

 だからこそ、自分は恋をしているのだというその恋心を捨てることにどこか恐れを抱いているようにも思うのです。


(この恋を捨ててしまったら、自分が自分でいられなくなるような。自分の愚かさを認めてしまう、そんな恐怖が彼女を今蝕んでいるのかもしれない)


 その感情は、前世の私が……いえ、思い出したくもありません。

 今は今、私はユリア・フォン・ファンディッドとしてアルダールと恋をしたのですから過去……前世? のことはもう忘れてしまいましょう。


 ともかく、彼女は『アルダールが好きな自分』に固執しているように思うのです。

 まるでアルダールと結ばれなければ幸せになれないと言わんばかりに、どうやったら幸せになれるのかと悲嘆に暮れるあの姿を見ていたらそう思ってしまったのです。


(悲劇のヒロインに酔っている、とまでは言わないけれど)


 彼女は若く、美しく、実力もある。

 そして好きではないにしろ将来性がある男性を婚約者に持ち、貴族家でも羨ましがられる学園での生活も待っている。


 ただ彼女にとってそれらの幸運はただ一つの、好きな人に振り向いてもらえなかったという事実だけで不幸らしいだなんて私には理解できません。


(でも、そうよね)


 私は彼女が前世でゲームをプレイしてアルダールが好きなんだ、という前提が理解できていますが、アルダールにとってみたら碌に知らない相手がずっと好きだと言って泣かれてしまうのは困惑以外の何物でもないのでしょう。


「……きっと彼女にとっては初恋だったんじゃないかしら」


「ふうん」


 結局、ありきたりな返事しかできませんでしたが……アルダールは気にする様子はありません。

 でも、私は今回のことはある意味で良かったんじゃないかなと思うのです。


「上層部の思惑とはまた別に、あの婚約者の方はミュリエッタさん自身を見ている気がします」


「……まあ、思惑はともかくとしてそれはあるかな」


「良い方向に向かえば、いいのですけれど」


 ただ遠ざけるだけでなく、リード・マルクくんはミュリエッタさんに自分の立場をわからせた上で未来を示しました。

 彼女にとっては不本意であろうとも、少なくとも彼は共に歩む決意を垣間見せていたように思います。

 まあ、まだまだ覆せる範囲ではあるのでしょうが。


 リード・マルクくんがどうしてそんなことを、とは疑問が残るのは確かです。

 ですが、彼は多くの貴族たちの思惑の間を縫ってまで彼女の『アルダールに会いたい』という希望を叶えてみせました。

 それは正直、彼女に恋したからワガママを叶えてあげたかったとかそんな可愛いレベルで通せる問題ではなかったはずなのです。


 いくら王太子殿下がなんとか(・・・・)したとしても、他の方々の思惑もある以上それだけで通せるとは思いません。

 苦情を私たちが言うかどうかは別問題で、つまるところあの少年はそうまでして私たちとミュリエッタさんを会わせたということです。


 そして彼女に繰り返し『自分と結婚するのだ』ということを認識させるように口に出させ、私たちに対して未来を語って聞かせたのです。


(何が目的だったのかしら。……でも、少なくとも彼はミュリエッタさんと結婚する未来をほぼ確定のこととして語っていた)


 それは婚約しているのだし、当然といえば当然の発言なのですが。

 引っかかるものがあるんですよね……。


 だってとりあえず(・・・・・)ミュリエッタさんにかけられた温情として結ばれた婚約だという風に私は考えているのです。

 彼女がこれ以上何かしらの失態をすれば、また婚約者は代わるかもしれません。


 外聞は悪いですが、それでも婚約である以上そういったことは可能なのです。

 そして今は男爵令嬢という肩書きもありますが、実際には父親が一代貴族の男爵であって、彼女は平民とほぼ変わらないわけですから……扱いが、非常に難しい。


(リード・マルクくんは何故ミュリエッタさんに固執するの? ゲームの強制力がないのはもうわかっているだけに、よくわからない……)


 ただ敵対するとか、ミュリエッタさんをけしかけてアルダールと私を引っかき回そうとか、そういう悪意は見えませんでした。


「……とりあえずは様子見ですかね」


「まあ馬具も厩務員も都合がついたなら、当分リジル商会に行く必要もないさ」


「……それもそうですね」


 私たちが顧客になるかどうかはわかりませんが、ミュリエッタさんがあの商会で女将として頑張る姿は想像できないなあ。

 私はそんなことを思ってただ苦笑するしかありませんでした。


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