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お茶会に招かれたのはディーン・デインさま。
その護衛と案内を兼ねて、お兄様であられるアルダール・サウルさまもおられましたが彼は私たちと同じようにまるで従者のごとく裏方に徹しておいででした。
一応ご挨拶といくつかお言葉は交わしましたけれど、私はプリメラさまのお茶会を取り仕切る責任者としてそれどころじゃない。
客じゃないなら大人しくしてていただいていて結構。
いや、勿論失礼な真似は致しませんでしたよ。
プリメラさまの侍女として恥ずかしくない振る舞いをしなければなりませんからね!
シフォンケーキとオレンジティーをお出しした際には、プリメラさまが嬉しそうに微笑んでくださいました。
あーほんと天使! 私の天使!!
対するディーン・デインさまは、緊張した面持ちでした。
プリメラさまが10歳、ディーン・デインさまは13歳。まあ年齢的にはとてもちょうどいいですよね。
成長過程の少年らしくまだ幼い顔立ちですが、噂通り明るい茶色の髪を短めに整え、青い目をきらきらと輝かせて姫を見つめる姿は恋する少年そのものです。
対する我が姫はシフォンケーキに夢中ですけどね!
社交界デビューしていない少年が何故騎士見習いなのかと言うと、バウム伯爵家とは建国以来の騎士の家系。
代々有能な騎士を輩出しており、母君の地位の低さから跡継ぎに目されなかったアルダール・サウルさまを見てもわかる通り才能ある人が生まれやすいようだ。
っていうか弟のためにわざわざ近衛の仕事を休んで護衛を兼ねるとか、どれだけバウム伯爵家としてこの結婚をバックアップしているかがわかるね。
まあ私としてはプリメラさまを幸せにしてくれるなら構わないけれど……だから是非ドMに成長するのはお止めいただきたい。
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「ディーン・デインさまはいかがでございましたか」
「大人しい方ね。殿方でお話するのは、大司教さまの他にはお父様とお兄様しかおられないから、あのおふたりと比べるとディーン・デインさまは物静かなのかもしれないわ」
「……まあ、陛下は姫さまとお話しするのがことのほかお好きでございますし、殿下は王太子として威厳溢れるお方ですからね」
比べる対象がアレな人たちしかおらんかったね。
ちなみに大司教さまが男性でも許されているのは、超高齢な方だからだ。
真っ白な髪に真っ白くてながぁいヒゲの先っぽをリボンで結んでいる、なかなかおちゃめなお姿だけど神学を教えてくださっておいでで、とても博識で話し上手でそして分け隔てなく私たちのような者にまで優しい言葉をかけてくださるまさに慈愛の方だ。
ちなみに大司教さまはマドレーヌがお好きです。
ディーン・デインさまは私が見る限りは緊張のあまりご挨拶以外、プリメラさまに声をかけられて答えるしかできてなかったからなあ……。
まあこんな超絶美少女で一目ぼれした相手を目の前にして饒舌に喋れるような女たらしの才能を持っていたら、私が全身全霊をもって阻ませていただくが。
そして何故だか私の元にそのディーン・デインさまの兄君であるアルダール・サウルさまからお手紙をいただくようになりました。
何故に私にと思ったけれど、どうやら弟がプリメラさまと会ったりすることに邪魔するものが出たら困るので、筆頭侍女である私と懇意にして協力体制を築きたいのだなと気が付きました!
私だって侍女歴長いですからね! そのくらいお手の物です。
幸い今の段階ではディーン・デインさまを優良物件として私もみておりますし、ドMに成長なさらなければプリメラさまを大事にしてくださるでしょう。
バウム伯爵家だって嫁いできた女性に厳しくするどころか、何代も続く愛妻家の家庭でもあるようですし。
……まあ英雄色を好むのか、少々女性の色香に惑わされる傾向にあるようですが、そこはプリメラさまほどの美女はそういないから大丈夫でしょう!
ディーン・デインさまがプリメラさまにかっこいいところを見ていただきたいからと努力を始めたようですなんて手紙を貰った時は微笑ましいと思いつつ、『鍛錬に励み過ぎてお体を壊したりすると姫さまが悲しまれますのでほどほどになさいますよう』と一筆添えておいた。
励み過ぎた結果ドMになったら困るしね。
すると素直にその言葉を受け取ったらしいディーン・デインさまが“プリメラさまが自分を心配してくれている!!”と脳内変換なさったようで、浮かれていたよということを後日アルダール・サウルさまから教えていただきました。
なんて単純な……じゃなかった、素直なお方なのでしょうね。
アルダール・サウルさまは近衛兵でいらっしゃるから、当然城にお勤めですので折を見てご挨拶くださいますこともしばしばです。
大体会話の内容は季節の話ですとか、最近の城内のお話ですとか、陛下がプリメラさまをお褒めになっていたことなどをお話しくださいます。
ディーン・デインさまのことも元気にやっているとか、プリメラさまに会いたがっていた、などそっと伝えてくるあたり次のお茶会の催促でしょうか。
しかし、近衛兵と姫付きの侍女が会話していると少しばかり目立つのか、最近軍務省のトップを務めていらっしゃる王弟殿下のアルベルト・アガレスさままで姫さまの婚約に興味を示される始末。
王弟殿下は先王の側室の子ゆえ、王位継承権を一応お持ちですが辞退なさって王にお仕えしておいでの方ですが如何せん脳筋です。
まあですから軍務省で大将軍などという立ち位置にいて、それで満足とおっしゃれる方なのですけども。
ゲームでの登場はアラルバート・ダウム殿下のストーリーで彼に剣を教える良き叔父として登場なさいます。
見目は良いのですがこの方こそまさに『英雄色を好む』を地で行くような方で、ヒロインにセクハラまがいのこともするし、いつだって恋の噂が絶えないお方でもあります。
隠し子や婚外子がいつ現れたっておかしくないと言われているにもかかわらず、今のところ刃傷沙汰もおきていないあたり上手に恋愛ごとをなさっているのでしょう。
「ディーン・デインの坊やに俺から恋のアドバイスをしてやろうか?」
「いえ、大将軍閣下の御手を煩わすなど愚弟も望んでおりませんので……」
「なんだよ、お堅い答えをしやがって。お前の弟が騎士団入りすることには期待してるんだぜ、これでも!」
「ありがたいお言葉でございます。しかし大将軍閣下、あまりこのような廊下で我らのような者に親しくお声をおかけになっては……わたくしめはともかく、ユリア殿に迷惑がかかるやもしれません」
「ああ、俺の御手付きになった……とかか? まあそうなったらそうなったでプリメラが喜ぶだろうよ」
「毒牙にかかったとご心痛なさるのではございませんか」
「お二方とも公務にお戻りくださいませ。私ももう戻らねばなりませんので」
はあ……私を接点にプリメラさまとディーン・デインさまの恋を見守ってあげたいのはわかるよ、初々しいカップルって見てるだけで和むしさ。
でもね、目立つような真似などしないでゆっくりじっくり見守ってあげるってことができないのか、ここの大人たちは!!!