490
12/12、コミックス版「転生しまして、現在は侍女でございます。」6巻発売です。
よろしくお願いしまぁあああす!!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
そういえば我が家の家名がなかなか決まらなかった理由も判明いたしました。
アルダールが教えてくれたんですけどね!!
いやあもう、それが情けない話と言いますかなんといいますか……。
要するに、アルダールが自立して家を作ることになったわけですが、それが『バウム家の下にある』家なのかどうかってことで揉めていたらしいんですよ。
そのため、バウム家と関係があると後世まではっきりわかる家名がいいんじゃないかと……まあ要するに、軍閥と国王派は自分たちの派閥に最初から属している体でいきたいわけだったらしいんですよ。
それに対して中立派が『本人たちの好きにさせてやればいいじゃないか』で、貴族派は『新興貴族まで囲い込もうとする老害たちめ』みたいなこの実りのない争い!!
そんな大人の争いで我々の貴重な準備時間が勿体ない感じになったの? って思わずにはいられません。
まあ貴族たちにとっては派閥は大事ですからね……私たちの考えはともかくとして、王家に認められた家を囲い込みたい気持ちはわからないでもないっていうか……。
結局のところはバウム家が変わらず王家に忠誠を誓うこと、プリメラさまの降嫁先として内定していることからなんだかんだ揉めてもバウム家の庇護下で……ってことに一応なっているらしいです。
ただ、あまり派閥がどうとか構える必要はないとのことでした。
それらをキースさま経由で説明されたらしいアルダールはげんなりしてましたけどね。
騎士として頑張りたかったアルダールからしてみれば、そんな派閥だのなんだのは煩わしいことこの上ない話だと思いますから……ハンスさんが貴族のあれこれをいやがる気持ちもわかる気がします。
「良い家紋を作ってもらえて良かった!」
「ああ、印章が楽しみだね」
紋章士さんがデザインしてくださった図を確認して、私たちはそれで印章を発注したところです。
刺繍も……まあなんとかなるでしょう! 薔薇を何個もやるよりはマシだ!
とりあえずは当主が正式な手紙などの封蝋に用いる印章を作成して、新しい家の家紋として書類に押印して提出しなければ始まりませんから。
大貴族ともなると大小取り揃えてさらには指輪などにもする……なんて話がありますが、我が家は王家にお認めいただいたとはいえ領地もない子爵家です。
印章は書状などで用いるものがあれば今のところは十分でしょう。
結婚指輪に家紋を刻むというのも割とスタンダードなのですが、私たちは勤め人である以上装飾品はあまり身につけておきたくはありませんし……。
(それにしても、我が家の……かあ)
きゃー!
我が家だって、我が家!
まだ結婚してませんが、ワクワクしてきますね!!
「いずれはいくつか、小物なんかも用意しなくちゃね」
「そうだね。家紋入りの……馬車と、それから門扉にも刻んで貰わないといけないし、あとは……」
発注しておかなくちゃいけないものをリストアップして、少しずつ取りそろえていかないといけません。
発注したら当然ですが支払いをしなくてはいけませんので、いっぺんに注文してしまうと後が怖いですからね!
少しずつね! 少しずつですよ!!
「そういえば馬車を買うなら厩も一度手を入れてもらった方がいいって言われていたわね……」
「ああ、そうだった。大工も頼まなくちゃな……馬も、本当なら選びに行くべきなんだろうけど……この際、馬関連は組合に行って住み込みで働いてくれそうな人とお勧めの馬を依頼した方が早いかな」
「そういうことなら、今日はこのまま時間もあることだしリジル商会に寄ってみましょうか」
「リジル商会に?」
「確かあちらでは運輸系にも力を入れていることもあって、良い馬を扱っていたはずだから。大工さんに関してはジェンダ商会の方が頼りになるかもしれませんが、そのあたりは兼ね合いもあるでしょうから……」
「なるほど。そうだね、そうしようか」
あまり行きたいわけじゃありませんが、それでもやはり便利ですよねリジル商会。
さすが世界を股にかける大商会ですとも。
ジェンダ商会も頼りになりますが、やはり規模が違う分、いっぺんにあれこれを依頼するとなると頼みやすいのはリジル商会になってしまうのです。
食料品や地元の名産品、小さな工房なんかの職人に関してはジェンダ商会の方が強いんですけれど。
馬車に関しては結構お値段の張るものですからね……家紋入りのものは正式な場に行く際には必須です。
それなりのものを選んだ方が良いのでしょう。
(クッションだけはしっかり載せとこう)
王家の馬車に同乗させていただくことが多いですが、普通の馬車はね!
案外お尻が痛くなるんですよ、これが!!
アルダールは馬に乗って出仕ですから大丈夫でしょうが……私はそうは行かないから!!
(お前も乗ってくればいいじゃないかとか王弟殿下だったら言いそう)
旦那に乗せてもらって仲良く出仕すりゃいいだろとか言いそうじゃありません?
アルダールに言ったら『なるほど』とか言い出しそうなのでお口チャックですが。
(どうしよう、王弟殿下からの結婚祝いが騎竜だったら)
あの人のことですからね、油断は禁物です。
お茶目でやりそうで怖いじゃありませんか!
そりゃまあ乗れますけどね! 前にそれで実家に帰ったし!!
ただその場合は毎日悲鳴を上げながら出仕することに……いえ、私が騎乗して出仕する必要はないのでした。
あの子たちは馬車を引くには不向きですし、普通の馬と一緒の厩舎には置けませんからもし万が一そのような提案をされてもお断りいたしましょう。
(後は衣類も少しずつ、新居に置いておいた方がいいのかしら。それはまだ気が早い?)
ドレスの類いはまだ使うことも多いでしょうし、侍女の制服はもちろん王城に置いておかねばなりません。
とはいえ、その辺りもかさばるものの一つですからね……ああ、でもそれよりも家具が先か。
(出費……新生活には出費がかさむ……!!)
新興とはいえ子爵家として、それなりのものを用意しなければなりませんからね。
特に華美なものを必要とはしませんが、質は大事にしたいものです。
「……となると、家人用の制服もある程度は必要なのよね」
「そうだね、でもまあそこはおいおいで大丈夫だと思うよ。領地持ちってわけじゃないからそこまで細かくは言われないだろう」
「そうね」
とりあえずは印章を待って、提出からですね!
で、婚約式で家名の発表ってところでしょうか。
「……家名が決まったんなら、次は婚約式でしたね……」
「うん、そうだねえ……」
場所と、呼ぶ人数と……それを思うと頭が痛い。
だけどこれも楽しい苦労というやつなのでしょう。
「ああ、そろそろ着くよ」
「ええ」
紋章士さんのお店から馬車でリジル商会はそう遠くありません。
相変わらず繁盛しているその店の近くで私たちは馬車を降り、リジル商会へと歩み寄りました。
(何はともあれ、まずはリジル商会で良い人に出会えますように!)
人との出会いは一期一会と言いますからね。
厩務員さんもそうですが、優しくて賢い馬がいてくれると私の和みにもなりますから……期待してしまうじゃありません?
基本的に乗らないし接することは令嬢としてあまりないとはいえ、私は割と動物が好きですもの。
馬も可愛いですよね。
「いらっしゃいませ」
でもそんなウキウキした気持ちはあっという間に霧散しました。
お店に一歩足を踏み入れたところで、私たちの前にこの店の跡取り息子、リード・マルク・リジルが現われたからです。
彼は人好きのする笑みを浮かべ、私たちに対して店員らしくお辞儀をしたのでした。




