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秋と言えば。
前世では、読書の秋だのスポーツの秋だの、芸術の秋だの食欲の秋だの、うん、結構あるよね!!
でも今私たち王城に勤める使用人たちにとってはとても忙しいものなのです。
そう、園遊会の秋、である。
なんつってカッコつけたところで正直忙しさは減りません。
メイナは王女宮に勤めてまだ1年未満、初めての園遊会ということで最初は首を傾げておりましたが徐々に始まった準備にその先が想像できたのか、青い顔をしておりました。頑張れ。超がんばれ。
秋の園遊会とは、正妃さまが主催なさる超大規模なお茶会だと思えばわかりやすいかと思います。
王城の広い中庭をまるまるひとつ、茶会の為の会場とするのです。
招かれるのはそれ相応の身分あるご夫婦に子息令嬢、他国からの外交官一家、裕福な商人とまあ様々な顔ぶれです。王家は広く人々に対し心を開いている、というポーズの意味があるそうなんですがよくわかりません。
まあとにかく私たち侍女はその日はどの宮所属であるかなど関係なく働かねばなりません。
特に各宮の筆頭侍女は統括侍女の元、数多の貴族の方と顔見知りでもあることから礼節を守りつつご挨拶をこなしつつ下の者たちを指示し、冷静かつ優雅に、使用人がバタついてみっともない姿をお客様のお目にかけぬように努めねばならないのです。
よし私、超頑張れ。ここで頑張らないとボーナスに響くぞ。絶対響くぞ。
その上で私と後宮の筆頭侍女はお仕えする女主人の新しいドレスや装身具の手配、準備をせねばなりません。プリメラさまも前回に引き続き、社交界デビューがまだですから仮面をつけて参加なさいます。王太子殿下もご参加なさいます。
なにせこの茶会、当然社交の場のひとつであり、時に外交の場であり、そして貴族の子息令嬢にとってみれば婚約者探しの場でもあります。勿論、親御さんがどこぞの令息・ご令嬢に目をつけて自分の子供にと決める場合もございます。
なので王太子殿下はきっと婚約者のいらっしゃらぬご令嬢からすれば喉から手が出るほど欲する“お相手”でしょうし、プリメラさまも同様です。
未だディーン・デインさまとのことが公式発表であるわけではありません。その状態でプリメラさまがどこぞの令息が良いと一言申し上げれば、国王陛下はそちらをお認めになるやもしれません。
まあ、ないでしょうけれども。
今のところディーン・デインさまはプリメラさまに好ましく思われておられますし、またプリメラさまはその聡明さからきちんと貴族を統べる王族としての立場から、結婚というものに対してそれ相応にお考えがあるようです。漠然としたものだけど、なんて笑ってらっしゃいましたが、11歳の少女で考えれば達観しすぎじゃないのかなと私は心配でしょうがありません。
いやまあ、ご結婚してもお許しいただけるのであれば私、ついていきますからね!
その前に園遊会です、園遊会。
騎士の方や近衛の方も当然警護に入られますし、招待客しか当然入れませんので安心と言えば安心ですが絶対がないというのが残念ながら事実です。
最悪の状況では主をその身を挺してお守りしろとは全ての侍女やメイドが言われていることですが、そうならないのが一番です。まあ戦時中ではありませんので、その確率は低いと信じています。
うーん、どうしましょう。
園遊会を前に忙しいのは忙しいですが、今ならまだ暇が取れます。
ディーン・デインさまに贈るガラスペン、こちらはまだ出来上がっていませんがアルダール・サウルさまにお礼をお渡しするのはあまり遅くなってしまっては機会を失う気がして仕方ありません。
きっとアルダール・サウルさまも園遊会の関連で忙しくなるでしょうし、終われば終わったで事後処理として残っていた仕事を片付けることに忙しくなるでしょう。ええ、自分の未来がそうなのできっとそうなんでしょうね……。となるとやはり先にお礼申し上げませんと。
早速手紙を出すことにいたしましょう、ご都合の良い日を伺って……あの髪飾りをつけて。
普段お世話になっているから、と渡せばきっと察しの良い方ですからご理解いただけるはず。
ちょっと意地悪な面があることをあのダンスパーティーで知りましたけれども、基本は弟想いの優しい方ですからね。家庭事情の複雑さで勝手に共感なんぞしておりますが、あちらの方が私などより数段立派な方ですよね、よく考えたら……。
ディーン・デインさまの件が無かったらお知り合いになることもなかったのだなあと思うと少し不思議な気がします。どこかですれ違うくらいはあったのかもしれませんけど。
ああ、しかしそうなると日取りが決まったら急いでお菓子を作らねばなりませんね。
プリメラさまにも召し上がっていただこうかしら。薔薇の紅茶がまだあることですし……うん、アルダール・サウルさまのお返事を待ってちょっと色々作ってみよう。
あ、そうだわ。アルダール・サウルさまにはブランデーケーキなんてどうかしら。
あれなら数日後の方が美味しくなるし……メッタボンの秘蔵の酒棚からちょっともらって作ればきっと美味しいのができるでしょう。
プリメラさまにはカステラを作ろう。
折角美味しい蜂蜜があるしね!
園遊会の日は正妃さまの料理人が作るから、食べなれない味なのよねと困ったように笑っていたプリメラさまに喜んでもらえるならお仕事の合間に頑張りますよ!
幸いメイナや他のメイドたちも、私が作った書類のお手本を使っているうちに書類の書き方とはどうやったら効率が良いのか理解したようで書類仕事もスムーズだし、正直他の宮に比べたら王女宮は穏やかに準備を進めているようだと思うしね。
うんうん、うちのコたちは優秀で助かります。
男性陣はご老人衆だから、知恵と経験という点では頼りにはなるんだけど体力と腕力はちょっと頼ると後が怖いというかなんというか……無理はさせたくないよね!!!
あーしかし秋の園遊会かー。
毎年のことだけど憂鬱だわー。
王子宮の筆頭侍女はなんだか私に敵対的だし、内宮の筆頭侍女は外宮の筆頭侍女と仲が悪くて毎回悪口言ってくるし、外宮の筆頭侍女は自分の味方になるようにばっかり言ってくるし、統括侍女さまは怖い上に厳しいし。皆協調性持とうよ……。
早く終わんないかな……お仕事だから我慢とはわかってるけどね……?
プリメラさまとディーン・デインさまのお茶会だったらもっと準備からしてウキウキしちゃうのにさ。
いいえ、私は王女宮の筆頭侍女。
プリメラさまにお仕えするものとして、恥ずかしくないようにしなければ。
心で何を思おうが、要するに顔に出さなきゃいいんです!! 頑張れ私!!!
おっと、荒ぶった気持ちのままアルダール・サウルさまに手紙を書いてはいけませんね。
今日は何の便箋にいたしましょうか。そういえば先日透かし入りの便箋を手に入れたのでした。
そちらを使ってみることにいたしましょう。こういうところでくらい、女としてオシャレしないとね……うん、元が元だからさ……。
あの日、社交界デビューの私は化粧マジックだったんだよね……と毎朝鏡を見て思う日々です。