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可愛い後輩たちと過ごす時間っていうのは大事だね……!
そう思った夕飯でした。
ちょっと食べ過ぎたかもしれない。
私は二人がそれぞれ宿舎に戻るのを見送って、私も自室へと戻るために廊下を歩きながら今日のことを考えました。
夕飯時にいくつか話をしている中で、いずれプリメラさまが降嫁なさった後のことなんかまで彼女たちがすでに考えていると言われました。
いえ、いずれは……決めないといけないのですけれどね。
それでもまだあと数年は先の話。
そう思っていたから少し驚いてしまいました。
まだこの子たちはそこまで考えていないだろうと思っていた私は、別に彼女たちを侮っていたわけではありません。
学ぶこともまだ多く、公務に連れて行くことや私の代わりに行事でプリメラさまの後ろにつくこと、それらをまだ経験させていないのです。
それらを終えてから……とそう私の中では思っていたので、あの子たちはあの子たちで未来へのビジョンがちゃんとできていて偉いなあと思いました。
勿論、まだまだ漠然としたものではありましたが……私の結婚、これからの貴族の情勢、それらを踏まえてのものだったことにはびっくりです!
というかまあ、実はスカーレットのところにハンスさんが来ていたって話なんですけどね。
それで当然のことながら詳細は明かせないけど……って形で色々あってハンスさんはいずれ近衛騎士を辞職し、アルダールの侍従になるって話まではしてあるんだそうです。
その際、私たちは忙しくなるし貴族たちから色々と注目されているからって話をされたんだそうです。
うん、ハンスさん余計なことを吹き込まないでくれるかな?
(いずれは必要かもしれませんけど、今話すことでもないと思うのよね)
将来的にプリメラさまが降嫁する時に誰が侍女としてつくのかとか、他のメンバーはどんな道があるのかとか。
あと数年の間で学んだことによって、彼女らの選択肢はどんどんと変化していくものだと……そう私は思っているのです。
だから早くから情報を得ることも大事ですが、逆に早すぎて視野を狭めるようなことは必要ないようにも思えました。
とはいえもう話したって事実は消えないし、彼女たちを指導する私がきちんと監督していけば良いという話なのでしょうが……頑張ります。
(そういえば、婚約式を早めなければいけないわね)
家名だとかハンスさんの話だとかで色々と悩みはありますが、目下のところそちらに関しても話を進めていかねばなりません。
本来ならば貴族議会から許可を得てそこからのんびり二人で招く人を決めたり会場について話し合ったりと共同作業をするのですが、今回はもう異例中の異例ですもの。
陛下による婚約の許可、早く結婚してしまえというお言葉。
少なくとも三ヶ月以内には婚約式の体裁を整えないといけなくなったような気がします。
下手したら半年後には結婚しろとか妙な圧がかけられるとか……ないよね? さすがにないよね?
(そうするとドレスも今から注文しておかないとだめかあ……)
私個人としては地味なもので十分ですけど、さすがに子爵夫人となるのです。
ハンスさんによればいずれは伯爵に陞爵してもらいたいってことですから、きっと『期待され』ているのでしょうね……いらんよ、そんな期待。
(アルダールに今のうちに話しておかなきゃ)
アクセサリーもドレスも贈らせてって言われているんだからちゃんと相談しますよ!
どうせだったら共色にしたいですし。
うーん、でもアルダールはきっと騎士服だろうからスカーフか何かだけでも共色にしてもらえばいいのかしら。
(こういう時、私も侍女服でいければいいのになあ)
いやあ、さすがにそれは許されないでしょうね!
笑いは取れると思いますがその後、色んなところからお説教の雨あられが降ってくる未来が見えました。
見える気がするんじゃない、見えたんです。
それから家探しも並行してやらないといけないわけで……なんだっけ、宰相閣下のところの公爵家、あるいはバウム伯爵家、いずれかの町屋敷が近いことでしたね。
あそこ一等地ですけど?
一介の子爵家が借りるような土地じゃないですけど?
はあーなんでこう偉い人って下の人の気持ちがわかんないかなあ!
(なんてね、心配してくれているだけよね)
何かあったら助けに行ける距離にいろって意味でしょう。
おそらくそこは王家の意向などないはずですから。
(……あと、こっそり援助とかを考えていそうで怖い)
ビアンカさまとアリッサさま、方向性は違うけどお二方とも情に厚くて身内思いだから……ちょっとやり過ぎになりそうなところがあるのよね。
というか、双方から援助が来そうで怖いなって正直思っていますよ!
「なんか相談することが山積みじゃない……?」
思わず口からこぼれ落ちるのがため息ばっかりになるんですけど、どうしたらいいのかしら。
いや一個ずつ片付けるしかないんだけども!
「あれ、ユリア?」
「……アルダール? えっ、どうしたの、こんなところで!」
今日は夜勤だと聞いていたアルダールが、私の前に現れたのです。
驚いて思わず声を上げてしまいましたが彼も驚いた様子で目を丸くしていました。
「いや、ちょっと急に警備の入れ替えがあって……同僚の一人と替わったから、今終わって部屋に戻るんだ」
「そうなのね」
そういや騎士はそういうことがよくあると聞きますし、近衛騎士隊でもそれはおんなじなんだなあ、なんてちょっと感心してしまいました。
アルダールは当たり前のように私の方に歩み寄って、一緒に歩き始めました。
部屋まで送ってくれるつもりなんだなと気づいて、ちょっぴり嬉しくなったのは内緒です。
(こうして当たり前にやってくれるんだから、本当に紳士よねえ)
そりゃモテるわ、なんて思いました。
でもこれが私だけに……とかだったら、どうしよう顔がにやけちゃいそう。
「ユリアはどうしたんだい?」
「今日はメイナとスカーレットと一緒に食事をしてきたの」
「なるほど」
「あの子たちに、アルダールとばかりいないで自分たちとも……って言われてちょっと嬉しくなっちゃった」
「ユリアは慕われているからね」
私はアルダールの言葉に笑顔を向けるだけにしました。
なんだか肯定するとちょっと恥ずかしいし、謙遜でも否定するなんてそれはメイナとスカーレットに失礼な気がしたから。
「あ、そうだアルダールに相談があったの!」
「うん?」
「次の休みを合わせて町まで一緒に行ってもらえないかしら。その……婚約式をどうしても早めないといけないでしょう? この状況だと」
「……そうだね」
「とりあえず何も決まってはいないけど、ドレスとアクセサリーだけは先に注文しておかないといけないと思って」
「ああ、そうか。それもあった……家名の件でまだ決定が下りなくてそちらばかりに気を取られていたよ」
「しょうがないわ、私たちにとっても経験のないことだし」
こればっかりはしょうがないよね。
とりあえず、それこそ本当に一個ずつ片付けていくしかないのです。
次の休みは幸いにも三日後に合うのがあるとか本当にラッキーです!
今回急に警備の順が変わったりしたので、アルダールの方でお休みをもらえたのだとか。
……いえ、多分ですけどお願いしたら合わせるくらい、どちらの部署でも許してくれると思いますけどね?
絶対、みんな生暖かい笑顔で『行ってらっしゃい、良い休日を!』とか言うんでしょう!?
知ってるんだからな!!




