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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 懇親会そのものは和やかでした。

 一部あれこれありましたけども。


 たとえば『婚約おめでとう』と言いながら何かあったら(・・・・・・)是非自分を頼ってくれと私にだけ言ってくる人ですとか。

 笑顔でアルダールに『うちの娘が騎士に憧れていて……よろしければ是非我が家に遊びに』とか言ってきたりですとか?


 もうね、下心はもう少し上手に隠してくださいませんかって思いました。

 アルダールの機嫌が悪くなっているのを感じ取ってフォローするの大変だったんですからね?


(まあ、アルダールも作った笑顔のままだったから、相手は気づいてないでしょうけど)


 なるほど、堅物と呼ばれていたのはあの笑顔で人を寄せ付けず、かといって拒絶するわけでもなく……という徹底した態度から言われていたものだったわけですね。

 まあそれでも当たり障りない対応といえども、見目麗しい騎士が微笑みを浮かべて応対してくれるなら女性たちが大喜びもするって話です。


 まあ、そのアルダールはもう私の婚約者ですけどね!


 おそらく国王陛下が認めたカップルである以上、私たちに関与するのは難しいと周囲も十分理解していることとは思います。

 それでも愛人として身内を私たちの双方に送り込んだり、そこまでいかなくても親しい関係になれればおこぼれ(・・・・)に与るには十分……と考える人も多いのでしょうね。

 残念だったな! うちにはそういうの特にないからァ!!


 とまあ、それを口に出せるわけもなく……当たり障りなく今回はやりすごしてみせましたよ!

 新しい家を興すって前段階でむやみやたらと敵を作る必要はありませんから。

 ……まあ、バウム家やその他、私たちに対して気を遣ってくださる方々によって守られるのだろうということは承知の上で、自分たちでもできることはしていかないといけませんからね。


 今のところ、子爵夫人になるって言われても実感湧きませんけどね!

 

 それにしても笑顔を浮かべ続けるって本当に大変です。

 侍女として生活する分には何があっても表情を変えず無表情を貫くことが基本中の基本ですが、社交場での令嬢の標準装備は笑顔でなければならないのです!!

 

「ああー、疲れた……!!」


 そうして懇親会を無事に終えた私たちは、一団が去って行くのを確認してから王宮側にある庭園に足を伸ばしたのです。

 まだ残っている客人はいるかもしれませんが、王宮側の庭園でしたらわざわざ来ることもないと思いますからね。


 私たちはそれぞれの自室に向かう方向の途中にある庭園によっただけと言い訳が成り立ちますが、客人が足を踏み入れると痛くもない腹を探られる可能性が出てきてしまいますから。

 本当に一挙手一投足、気をつけないといけません。


「お疲れさま。……将来的には二人揃って社交界に顔を出さなきゃならないのかと思うと、今から気が遠くなりそうだ」


「そうねえ……」


 アルダールも大分お疲れのご様子です。

 まあ、懇親会の前で疲れさせられて、懇親会で疲れて……ですからね。

 仕方ないかと思います。


「でも私たちは働いているから、社交パーティーにはそう参加することもないんじゃないかしら? アルダールが近衛として警備につく日とかは私だけで参加するわけには行かないわけだし、いい口実になると思うけど」


「そうであればいいけどね。……独身の騎士が選ばれて参加しろとか言われそうで怖いなと思ってる」


「ああー……」


 ありそう。

 めっちゃくちゃありそう。


「まあいずれにせよ、ええと……改めて、これからよろしくお願いします」


「……そうだね、何はともあれ陛下のおかげでユリアとの婚約は成立した」


「しばらくは色んな意味で目立ちそうだけど」


「まあお互い、仕事をしている間は冷やかされることもないんじゃないか」


「だといいけど」


 近衛騎士と王宮の侍女ですからね、そりゃまあ外宮とか内宮にくらべれば目立たない……か?

 これでまた投書とかで嫌がらせされたら出るとこ出た方がいいんでしょうね。

 その場合は投書の主にどのような処罰が下るのかまではわかりません。


 でも自分で対処なんかしようものならアルダールに叱られるし。

 黙ってスルーしたらしたで、陛下が許可した婚約にケチをつけようとする人がいたのになぜ対処しなかったのかと私が叱られる未来しか見えないし。


 報告が一番ですね、うん。


「……ところで」


「どうしたの」


「懇親会は終わったけど?」


「……ええと」


 にこーっと笑みを浮かべるアルダールから、私は視線を逸らしました。

 ああ、うん、キスですねキス。

 終わったらって私が言い出しましたもんね、覚えてますよハイ。


「でもここ、外だし……」


「暗がりだから、誰か来てもわからない」


「だけど、んっ」


 それは触れるだけのキス。

 だけど、ここ最近忙しくてあまり触れあっていなかったこともあってなんだか……いや、違うな。


 正式に婚約者になってから、初めてのキスなんだなあ。

 そう思ったら途端に胸がいっぱいになってしまいました。


 一体どこの恋に夢見る乙女だ!

 お前いい加減にしろと自分に言いたい!!


「……次は、私がドレスを贈るよ。それで婚約発表の場に出てくれる?」


「え、ええ……」


「公爵夫人が用意したドレスには劣るかもしれないけれどね」


「領地なしの子爵夫人として身の丈に合ったもので十分だわ。……あ、でも……もし、わがままを言っていいなら」


「なんだい」


 私は、そっと胸元のアクセサリーに手を添えました。

 豪奢で、美しくて、素晴らしいアクセサリーはビアンカさまが選んでくださったもの。

 これは価値もそうですけれど、大切な友人が今日という日のために選んでくれた宝物です。


 青をふんだんに取り入れたのは、きっとアルダールの目の色を模してくださったのでしょう。

 婚約者の色を取り入れるのは、よくある話ですからね。


 でも、だからこそ。


「……私へのアクセサリーは、ベキリーブルーガーネットがいいわ。小さくて、シンプルなものでいいの」


「ユリア?」


「アルダールの色だもの」


 ほんの僅かな違いだけれど、私にとっては大きな違い。

 こんな豪奢じゃなくていいのです、シンプルなものの方が私らしいですしね!


 その旨を伝えて笑えば、アルダールはとても困ったように笑って私の額にキスを落としたのでした。


「敵わないなあ」


「ええ? そうかしら」


「指輪にもその石を選んだのに、婚約式でもその石を身につけてくれるの?」


「ええ」


 深い青はアルダールの目、そして光にかざした時に色味が変わるのは、まるでアルダールの気性を表すみたいで素敵だと思うのです。

 それに、近衛騎士隊の服装とも色が似ていますしね!


 私の色のものも贈りたいんですが、中々これが難しいのが難点なんですよねえ。

 とりあえず最近では剣の飾り紐として黒色の、そして緑の石を嵌めたものを実は用意してあるんですが……。


(ちょっと独占欲が強すぎるって引かれませんかね……)


 照れくさくってまだ渡せていないんですよね、これが!!

 いや今更だろって話なんですが。

 アルダールはからかわれたとしてもきっと喜んで使ってくれるだろうなと思うんですよ、ええ、そこは信じております。


 なんかね、騎士の方には剣の飾り紐を贈るといいっていうのは昔からある話で……その紐の編み方とかは結構種類もあって、レジーナさんにも教わったりなんかしてね?

 ジェンダ商会にお願いして上質な黒の糸を使って空き時間にちまちま作った……なんて思うと乙女か! 乙女なのか!!

 レジーナさんがこれまた微笑ましい顔で見守っていたとか、ケイトリンさんがキラキラした目で見ていたとか、その辺を思い出すとウワアアアアァってなります……。


(ま、まあいつでも渡せるか……)


 そんなことを思いつつ、私はふと思い出したことを口に出しました。

 そうそう、これは確認しておかないとね!


「結局、家名はどうなるのかしら」


「私が提案した二つはどちらも好感触のようだよ。親父殿も何かを出したようだけれど……あとは議会で通るかどうかだね。そうしたら家紋職人を訪ねて、図案を考えてもらうことになるだろう」


「そう、それには一緒に行っても?」


「勿論、来てくれないと困る」


 ああ、よかった。

 図案について相談できるなら刺繍が難しくないようにとこっそりお願いすることも可能ですもんね!!


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[一言] あまーい! ユリアさんも素直に独占欲とかそういう気持ちを出せるようになったんだなあ。アルダールさんの色を身につけたいとか、それアルダールさんのツボをついてると思うよ。剣の飾り紐、早く贈ってあ…
[一言] かーーーーーーっペッッッッッッッッ!!!!(砂糖混じりの血反吐)
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