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「ユリアさま! 準備できてます!!」
「メイナ」
「はい、抜かりなく!!」
さて、感動の式典の後ですが……現在王女宮は大わらわしております。
何故かって?
これから懇親会だからですよ!!
いえ、他の方々はそんなに大慌てなんかしないで、与えられた控え室や王城内にある休憩所でめいめい過ごしていらっしゃると思いますけどね、私はそうもいきません。
プリメラさまもドレスは式典のものそのままということですし。
けれど私はそうもいきません。
侍女のお仕着せからドレスに着替えてヘアメイクとお化粧が待っているのです!!
夜会ほどがっつりしたものではないので……ないよね?
なんだかメイナの気合いの入りようが恐ろしい。
とはいえ、私も主役の一人なのでここは覚悟を決めて臨むべきです。
アルダールの横に立つ人間として、彼に恥を掻かせるわけにはいきません!
それに、国王陛下に声をかけていただいた身でありながら、今更壁の花になりたいと言ったところで無駄な気もしますから……。
人間、諦めって肝心よね。
「……ちなみに、ドレスってどんなのだった?」
「とっても綺麗ですよー!!」
メイナがずずいと持ってきたのは、青のドレスでした。
青といっても昏すぎず、かといって空色のように明るいわけでもなく、飾り気はないのですが生地自体に光沢があって、それがとても美しい。
さすがビアンカさまが準備してくださったドレスです、なんて素敵なんでしょう!
(セクシーって言ってたから心配していたけど、そんなことはなさそう)
ビアンカさまが不穏なことを言っていたので、少し心配だったんですよね……!
そう思いながらメイナの手を借りて、私は手早くドレスに着替えました。
そしておかしなところがないか一度チェックのために全身鏡に映る自分を見て、私は顔をひくつかせました。
そう、ドレスは大変素敵です。
ええ、とっても素敵ですとも。
(……これ、私が着ていいものなの……?)
夜会などに比べれば勿論装飾も控えめで、大変上品なこのドレス。
Aラインのスクエアネックで肌触りが良いことから大変上質な絹のものなのでしょう。
それに加えて肩から手首にかけてが繊細な、とても繊細なレースで作られているのです。
こんな素敵なレース、超一流の職人じゃないと作れません。私、知ってますからね!!
そしてその一流職人が作ったであろうレースのおかげで透け感がこれまた上品なのに、どことなくこう色気が……この私で色気が!?
「ユリアさまよくお似合いです! 髪の毛はどうしましょうか、あまり時間に余裕がないので凝った物は避けて、飾りをつけますか?」
「……そうね。ドレスがシンプルだから、きっちりと結い上げて花飾りをあしらいましょう。青系の花飾りはあったかしら」
「あります! では始めますね」
テキパキと、そう、自分のことだと思わずに思考を巡らせれば私だってこのくらい……いや、後でこれのたうち回ることになりそうだけど今はそれを考えてはならない。
ならないったら。
「髪型こちらでよろしいですか?」
「……ええ、ありがとうメイナ」
やはりメイナのヘアメイク技術はすごいですね!
侍女として働く中で私も自分の髪も含め、プリメラさまの髪もセットするために色々と練習に練習を重ねてきましたが……メイナがもし美容師になったらカリスマヘアメイクアーティストになるんじゃないかしら。
「あとドレスと一緒に届いたアクセサリーがこちらになります」
「ありがと……う」
「すごいですよねー! こんなすごいアクセサリーを贈ってくださるなんてさすが公爵夫人です!!」
メイナの笑顔が眩しい。
いえ、私もそう思います。これが他人事なら良かったねと笑顔で言えることでしょう。
でもさ、公爵夫人から一介の子爵令嬢にプレゼントするアクセサリーが大粒のサファイヤとダイヤモンドをあしらったビブネックレスと、それに合わせたイヤリングって誰が思う?
勿論、夜会に使うものに比べればグレードは抑えてくださっているとわかりますよ、わかりますけども!!
(ビアンカさま……)
こうなるってわかってたから今までも遠慮してたんですよ、やっぱりこうなったじゃないですか。
まあ、自分で準備しろって言われたら絶対にこんな華やかなものを選ばないので、ある意味チャレンジと考えれば……。
「……アクセサリー負けしてるんじゃないかしら……」
「もう、ユリアさまったら。大丈夫ですよう、公爵夫人がユリアさまに絶対似合うって選んでくださったんだから自信を持ってください!」
ううん……私はもっと地味な服でも良かったんですよ……。
ただでさえあの式典で目立っちゃったんですから、身の丈に合わないドレスとアクセサリーはあまり良くない気がします。
いや、ここはあえてのことなのかもしれません。
(……もしかして、ビアンカさまはアルダールが子爵になることを事前に知っていた?)
まあ宰相閣下は勿論ご存じだったでしょうから、その奥方であるビアンカさまが知らないわけないですよね。
色々と派閥問題やなにやらをクリアしてどうするかって悩まれた中に、おそらくですが公爵家が所有する爵位を王家に戻すとか、そういう選択肢だってきっとあったと思いますし……。
まあそれもこれもなんだか貴族社会でいくつかきな臭い話の後に爵位の返上やら何やらあったから国王陛下がホクホク顔で王家の持つ爵位を与えてくださったわけだけど。
なるほど、元よりいつかは爵位を与えてくるなと思ったけど、今回の場で上手く立ち回るための武器としてドレスとアクセサリーをご用意くださったと思うべきなのかしら。
きっと私の役に立つからって。
(まあ、国がアルダールの才能を手放したくないのもわかるしね……)
私からすれば剣聖候補なんてどうでもいい話なんだけど、国としてはどうでもよくないってことくらいはわかってますよ!!
でもとりあえず、今すぐどうこうってことはないだろうと見ていた私が甘かったのでしょう。
(今回の懇親会で、上手い具合に立ち回って派閥を決めるか、人脈を作るか……そういうことも頑張りなさいよってことかしら)
ため息しか出ませんが?
鏡を見て私が出来映えに安心したと思ったのでしょう、メイナがドヤ顔です。
いやうん、メイナの仕事ぶりは満足です。素晴らしい。
私はこんなできる後輩で部下を持ってとても誇らしいと思ってます。
でもそうじゃないんだよなあ、そうじゃないんだよ。
「後はこれでバウムさまを待つだけですね!」
「……そうね」
いやもう、私こんな淑女っぽい格好をするなんていや淑女なんですけどアルダールどういう反応するかな!?
そっちも心配になってきました。
「……メイナ」
「はい?」
「そこの棚から胃薬取って……」
「え、えええ!?」
だってしょうがないじゃない、(胃薬でも)飲まなきゃやってられません!




