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表彰式は、厳かな場。
私は表彰される側ではありませんが、本番は……もうね。空気が違います。
当たり前と言えば当たり前ですが、リハーサル時にはいなかった人も勿論来ていますし、関係者である偉い立場の方々もその場に集まり、何よりも王族が揃うのです。
王家主催のパーティーなどの華やかさとはまた違う、厳かな……儀式の場。
そこに立つことなど一度として考えたことのなかった私としては緊張しかありませんが、やはりどこか誇らしい気持ちになりました。
といってもまあ、私がすることと言ったら勲章を運ぶだけですが……大事な役目ですからね!!
失敗せずに済んで良かったです。
でも最後まで気は抜けません。
式が終わるまでは私だって舞台装置の一つ、そのように心得ております。
「国王として、そなたらのように優れたる臣を持ったこと、誠に誇りと思う――」
一段高い場所から述べられる陛下のお言葉。
表彰された方々の胸には、輝かしい勲章。
「貴君らがこれからの未来を作るのだ。そして国王たる余に、次代を担う王太子にこれからも力を貸してくれることを願う」
そう結ばれた言葉に、誰もが静かに頭を下げました。
勿論、私もね!!
(しかしまあこれで第一段階は終わり……)
今回表彰された人はアルダールを含め合計七人。
挨拶があってそれぞれに一言と勲章の授与があって、陛下からの締めのお言葉で一旦閉会……そして懇親会へと移行するわけです。
私にとってはこの表彰式が第一段階、そしてパーティーが第二段階と二段構えで緊張が続くわけですよ……!
当事者じゃないのにほぼ当事者とはこれいかに。
それでもきちんと大役を果たすことができましたからね!
色々と思うところはありますし、悩んだりもいたしましたが……大切な人の良き日に立ち会う機会が得られたのだと思うと、これがきっとご褒美だったのでしょう。
「さて、ここで本来は式も終わりとなり、懇親会へと移行する段取りであるが……余からもう一つ話をさせてもらえるだろうか」
(ん?)
ちょっと待って、リハーサルにはないことを陛下が言い出したぞ?
思わず近くにいた陛下の侍従さんや統括侍女さまに視線を向けましたが、あちらも困惑しているようです。
勿論、それで姿勢を崩したり動揺して騒ぎを起こすような人は誰一人いませんけれど……。
どうやらこれは陛下の独断らしいです。
王妃様はご存じなのかまったく動く気配はなく、王太后さまは楽しそうにしてらっしゃいますね!?
(陛下は何を仰るつもりなのか)
雰囲気から察するに、悪い話じゃなさそうだけれど。
でもまあ、私がこの場でできることといえば大人しくしておくことですかね。
それとも一歩下がっておくべきかしら?
(……え?)
そんな風に考えていると、何故かみんなが視線をこちらに向けているではありませんか。
確かに私は勲章を渡す役目があったので、陛下の近くに控える形になっています。
陛下に注目があれば、勿論彼らの視線がこちらに向くというのも自然なことだと理解はしていますが……そうじゃなくて、彼らは、この会場にいる人は、私を見ていたのです。
「ユリア・フォン・ファンディッド」
そう、陛下が私を見ていたから、私が注目されていたのです。
私は平伏していたから気づくのが遅れましたし、おそらく同じように平伏していた人たちは私とそれほどタイミング的には変わらないのだと思います。
でも、なんていうか、頭が真っ白になるかと思いました。
「これまで、王女プリメラによく仕え、王家のために尽力してきた。その功績にこれまで表立って報いることが遅れてしまった」
陛下はそう言うと恐れ多くも私の手をとり、そしてアルダールのところまでエスコートしてくださいました。
えっ、どういうこと。
混乱する私と同じように、私の手を渡されたアルダールもものすごくびっくりしています。
いやまあ当然ですよね!?
陛下が壇上から降りてきて予想外の行動しかしてませんからね!
これには宰相閣下はこめかみを押さえちゃってるし、大将軍閣下なんて眉間の皺がすごいです。でも私のせいじゃありませんよ!?
「本来ならば勲章を……とも思うが、侍女という役柄にそのような厳めしいものは似合うまい。また、思うにそなたの誇りはその筆頭侍女の証したるブローチとも思う。ゆえ、考えた」
何を!?
ちょっと待ってください、追いつかないんですけども。
いいんですよ、ボーナス弾んでくださったらそれで。
なんだったら王女宮全体にその恩恵をくださるとか、そんな感じで……ね!?
……なんて勿論訴えることはできません。
ええ、陛下がお言葉を述べている最中にそんな口を挟むようなことできるわけないじゃないですか。不敬です、不敬。
だから私は呆然としている中でも動揺を顔に出すまいとそれだけです。
もうそれで精一杯なんですってば!!
それは他の人たちもそうだと思います。
「ここにいるアルダール・サウル・フォン・バウムとユリア・フォン・ファンディッドは婚約の申請をしていると聞いた。ゆえ、国王が名においてここに二人の関係を認め、祝福しよう」
(は、はあああああああああああ!?)
「異議ある者は申し立てよ」
陛下がそう言ってぐるりと周囲を見渡したけれど、当たり前ながら異を唱える人はいない。
精々バウム伯爵さまがとてつもなくスンッとしてらっしゃるところでしょうか。
あと宰相閣下がこめかみに手を当てているので、あれだ、頭が痛いってやつですね。
かくいう私も胃が痛い。
何が悲しくて一般市民……じゃなくて貴族ですけど、そんな感じなのに国のトップに婚約を認めてもらってその上祝福されるっていう事態になっているんでしょうか。
いえ、否定されるよりはずっといいですしお祝いされるってことはとても喜ばしいことですよ。
ただそれが国王陛下ってのがものすごく引っかかるだけで!!
「加えて、婚約期間を短縮したいようであればそれも認めよう。また、アルダール・サウル・フォン・バウム。お前も近衛騎士隊に所属し、これまでも多くのモンスターを退治する役目に従事し多くの武功を立てているにも関わらずそれに驕ることなくよく精進した」
アルダールも困惑しっぱなしですよ!
ただまあ、直答を許されているわけではないので、とりあえず私たちは少しだけ顔を見合わせてから頭を下げました。
「よって、また後ほど正式なる発表とするが……アルダール・サウル・フォン・バウム、余から二人の婚約の祝いとして爵位を贈ろうと思う」
その言葉に私は思わずくらりとしてしまいました。
爵位? 爵位って言った?
ええ? この状況でいきなり国王に婚約を認めてもらうわ爵位を与えるって宣言されるわ、これ全部断れないヤツじゃないですか!
どうなってんだこれ!
「ちょうどよく爵位がいくつか王家の手元に戻ってきたのでな。遠慮することはない」
そう言ってにやりと笑った国王陛下のその笑顔は、その後ろの方で苦笑する王弟殿下と本当にそっくりで……お二人が兄弟なんだなって、どうでもいいことを思うのでした。




