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顔合わせ自体は本当に、本当になんていうかただのお食事会でしたね、これ。
私とアルダールが結婚するのは自然なことでしょくらいの反応を見せる両家族に私たちの方が苦笑してしまいました。
(いや、うん……反対されるよりもずっといいし、格差とかで悩まれることもないって素敵なことだとわかっちゃいるけど……)
顔合わせってこんなんだっけね?
いえ、なんていうか本人ら不在のまま当主同士で婚約の手続き書類をもう書いておいたから後はサインだけだとか言われてもなんていうか、実感湧かないんですけど?
むしろ婚約式をいつにするのか、先にメレクのをやってからがいいかセレッセ家の都合を聞いてからでもいいかとか……。
なんなら婚約祝いに城下で家を一軒バウム家で押さえておこうかって言われてそれにうちのお義母さまが賛成したりとまあ先走ること先走ること。
結局アルダールの『自分たちでやれることはやるから落ち着いてくれ』という言葉に冷静さを取り戻してもらえたんですが……。
幸先いいスタートなのか? わかりません。
「妻がすまなかった」
「いえ」
そして食事を終えた後、お義母さまとアリッサさまは買い物に行くと言ってメレクとディーン・デインさまを連れて行ってしまいました。
残されたのは当然、父親二人と私たち。
嵐のような勢いでしたね……。
楽しそうなのでいいかなって思いますけど!!
私たちが到着したのは昼時でしたのでまだ当然、外は明るいです。
でもお父さまたちはお酒を嗜んでらして、今もバウム伯爵さまはワインを片手に……うーん、ダンディ。
うちのお父さまですか?
アルコールに元々強くない方ですから……そこで真っ赤になって楽しそうに笑顔を浮かべてあらぬ方向に何か語りかけてますけど、今のところ大丈夫そうです。
私たちが今回利用させてもらっているホテルのラウンジは大変立派なもので、どこかの貴族が持っている別邸の一つであると言われても遜色ないものです。
まあ、高級リゾート地の中でも高級ホテルですからね!
お客さまの大半が貴族、あるいは裕福な方々であることは間違いないでしょう。
場違い感が! 半端ないですけどね!!
まあ、それはともかく。
思いの外、バウム伯爵さまは寛いでおられるようで……それとも酔っているのか、薄く笑っていらっしゃいます。
その顔だけ見ると、アルダールとはやっぱり親子なんだなあとうっすら感じるものはありますね。
多分、それを言うとアルダールが嫌がりますけど。
「これから先は婚約式、結婚式と度々顔を合わせることになるだろう。王城でもなにくれとなく声をかけられたりすることも増えるかもしれんが、困ったことがあったらいつでも軍部棟を訪ねてくれ」
「ありがとうございます」
未来の家族として気遣っていただけるのは大変ありがたいので、お礼は勿論欠かせません。
でもまあ、私が困ったことに直面したならまず相談するのはアルダールですけどね……いきなりすっ飛ばしてバウム伯爵さまに相談しに行くことってまずないと思います。
あるとしたら、アルダールがトラブルに巻き込まれてどうしようもなくなった時とか?
「そういえば、国王陛下の件。すまなかった」
「えっ」
「一応おやめ下さるよう願い出たのだが、あの方はどうにも思いついたことを人に相談せずするところがあってな……まあ、あまり人のことは言えんのだが」
「……は、はあ」
返事に困るな!?
いやしかし、陛下のアレって言ったらアレですよ、表彰式の件ですかね。
確かに侍女を表彰することはできないからせめてその場にとか無茶ぶりされてますからね、でもその件、ここで言葉にしていいんですかね?
アルダールもちょっと不思議そうな顔をして私とバウム伯爵さまを見比べてますし!
その様子を見て、バウム伯爵さまも気付いたのでしょう、ワインを一口飲んでから頷きました。
「このホテルのラウンジにおいては問題ない。アルダールにも知らせるよう、城を出る際には宰相から言われている」
「……親父殿?」
「すまん。忘れていたわけではないのだが、まずは謝罪がしたかったのだ。お前たちに話しても構わないと言われてはいるが、ファンディッド子爵はともかく夫人はこのような秘密を打ち明けられることに慣れていないようだったのでな」
お父さまも慣れてはいないですね!
とはまあ、言えないですけども。
この状況で。
この状況で。
大事なことは二回繰り返すのは何ででしょうか。
それはともかくとして、バウム伯爵さまは私たちをじっと見つめて口を開きました。
「アルダールが授与の栄誉にあずかることはすでに知っているだろうが、ユリア殿もまた、その場に立ち会うことになっている。その件については陛下が望まれ、我々が悪目立ちさせるのは忍びないと言っても一切聞き入れてもらえなかった。そういうことだ」
「立ち会う……!?」
「それについて説明するついでに統括侍女殿が貴女に色々なことを話したと聞き及んでいる。だが、気に病むことは無い」
「……はい」
「そこの馬鹿息子なんてわしのところに直接聞きに来た。だから貴女が抱え込むことはない」
優しい笑顔で、バウム伯爵さまがそう言って。
私はその言葉を耳にして、隣に座るアルダールを勢いよく見てしまいました。
私が統括侍女さまから伺った、バウム伯爵さまの行動とそれに伴う貴族社会の変移予測、それについて彼は彼で聞いていただなんて、そんな。
(知らなかった)
私の視線を受けて、アルダールは少しだけ居心地悪そうにしつつこっそりとテーブル下で繋いでいた手を、ギュッと握ってきました。
「後で話そうと思ったんだ。ユリアが聞きたいかどうか、まずその確認から」
「アルダール」
やだ、同じことを私も思ってましたよ!
いいえ。
私は言わないでいられるなら、その方がいいかもしれない……なんて思っていました。
「二人とも、話には聞いていたが仲が良いようだな……いいことだ」
「……おかげさまでね」
「わしに言われたくはない、か。まあそうだろうな。だが……突っ走ってしまったことも、ここで詫びさせてくれないか」
バウム伯爵さまはそう言うと、私たち二人に向かって静かに頭を下げました。
その行動は予想していなかったのでしょう、アルダールが目を丸くして、私も……驚いて言葉を失って。
そして、これまで会話に参加せず花を見ながらニコニコしていたお父さまも、唖然とした表情でこちらを見ていたのでした。




