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「ようこそ、王女宮筆頭殿。ご足労いただき、感謝する。……アルダールも案内ご苦労だった」
「いえ」
「さて、改めて自己紹介させていただこう。近衛騎士隊長を務めるブランドン・ハーヴィー・フォン・ベイツだ。爵位は侯爵位を賜っているが、気軽にベイツと呼んでくれたまえ」
「王女宮筆頭を務めております、ユリア・フォン・ファンディッドにございます。こうしてお言葉を交わす機会を設けていただけたこと、感謝いたしますベイツさま」
爽やかな笑顔で挨拶されて私も淑女として恥ずかしくない礼を返します。
けれど、頭の中はフル回転中ですよ!
(ベイツ隊長は侯爵、あれ? ええと……確か生家は、そう、アードリー侯爵家。軍部派よりの貴族派だったはず)
穏やかに微笑む姿はどことなくナシャンダ侯爵さまを彷彿とさせますが……そういえばアードリー家はナシャンダ家と親戚だったような気がします。
まあ、そんなこと言ったら貴族なんてどこかで繋がってることなんてよくある話なんですけど。
ほら、スカーレットのピジョット家みたいにね!
しかしこれでダンディなことに納得できました。
年齢的には……バウム伯爵さまよりも少し年上でしょうか。
確か私が記憶している限り、独身だったと思いますが……。特定の女性は作らない主義だと公言している辺り、王弟殿下と通じるものがあるようなないような。
(国王陛下のお側に控えるために領地は賜ったものの、代官に任せていらっしゃるんでしたっけ?)
高官の情報はそれなりに頭に叩き込んであるとはいえ、それを即座に出せるかと問われると難しいんですよね! だって王城に高官ってどのくらいいると思ってるんですか!!
とはいえ、普段接していない高官であろうと覚えたことは覚えたこと。
思い出すまでの時間稼ぎも侍女の必須スキルです。
……いえ、褒められたことではないですし、正直別に侍女じゃなくても対人スキルとして持っておくと便利ってだけのものですが。
「おっと、お茶も出さずに失礼した。二人ともかけてくれ、寛いでくれて構わない。何、ただ茶を飲んで話すだけだからそう固くなることはない」
「……それでは、失礼して」
客を迎えるように置かれている革張りのソファに座るのはお仕着せ姿だと緊張しますが、ここで断る方が失礼というものです。
私よりもアルダールの方が居心地悪いだろうと思えば、乗り切れる……!
ですが、呼ばれたのは私。
ここは堂々と切り込んでいくべきでしょう。
お茶を運んできた侍女が去った所を見計らって私は口を開きました。
「本日はどのようなご用向きでお呼びでしょうか?」
「そのように身構えられてしまうと悲しいな。私としては可愛い部下の婚約者にご挨拶しておきたかっただけなんだが……ああ、いや。他にもいくつか話はあるんだが、二人を祝福したいというのが目的であることに間違いはないよ」
ニコニコと笑いながらそう仰るベイツさまに含むところはなさそうに……いやいや、騙されてはいけない。
腹の中に何をお持ちかわかったもんじゃありませんからね!
人が良さそうに見えたって、この人だって高位貴族の一人なんですから!!
今回私が呼ばれたのだってきっと、アルダールに相応しい女かどうか確認するとかそういうところがあるに違いありません。
……普通に祝福されるという可能性もあると思いますので、疑いすぎないように心がけていきたいと思います!
(ええと……確かご自身が侯爵家を出て近衛騎士となった際にご実家が持つ爵位をいただいて子爵としてスタートなさったんでしたね)
それで親の七光り騎士と一時期笑われていたそうですが、件のオオトカゲ退治の功績でそれを黙らせた……と。
その後、他にもなんやかんやあって伯爵位を賜り、そして今の近衛騎士隊長の地位と同時に侯爵位を賜ったんでしたっけ。
そういう意味では、確かに貴族的な出世の仕方と言われるのも仕方ないかもしれません。
スタートから爵位持ち、そのおかげで爵位をいただくのではなく陞爵という、貴族家の次男三男からしたら羨ましい状態ですものね。
いや、出世するだけの実力があるかどうかって点ですでに持っていた才能の云々あるんですけど。
斧をぶん回せるのって才能でしょ、もう。
「いやあ、アルダールを骨抜きにした女性というのに興味があったんだ」
「隊長」
「だってそうだろう? お前は下手に実力がある分、質が悪かったからなあ」
ベイツさまに言わせれば、アルダールは近衛騎士隊に所属して特に問題のない隊員として周囲に認められていたんだそうです。
いわゆる、優等生タイプですね。
言われたことは十分こなすし、与えられた任務も真摯に取り組むし、なんだったら人に頼まれた仕事も嫌な顔せずやったり手伝ったりと、それこそ模範的な騎士だったそうで……。
訓練でも、実際の戦闘でも先陣を切れと言われたら躊躇なく行ってしまう、それが危うく感じていたのだそうです。
「真面目なんだが、どこか投げやりだった」
「投げやり、ですか」
「そう。自分自身のことを疎かにする男だったんです。だが、こいつには実力があった」
実力がなければ叩きのめされて、痛い思いをして、それが嫌だと思うことで回避する術を覚えて……そういうものが、なかったのでしょう。
だってアルダールは、強いから。
それがベイツさまには危うく見えていたのでしょう。
かつて似たようなことを、キース・レッスさまが仰ったことを、私は覚えています。
「でもお嬢さんと恋仲になったことで、こいつもようやく怖がることを思い出した、とでもいうのかな。とにかく人並みに戻ってよかったと思っているんだ」
「……隊長、そのあたりで……」
「ああ、すまない。つい」
クスクス笑ったベイツさまに、アルダールはなんとも言えない顔をしています。
頭が上がらないのはキース・レッスさまだけじゃないんですね!
まあ、キース・レッスさまとは軽口も叩けるくらい親しげですが、やはりベイツさまは上司だからってのもあるのかもしれませんけど……。
「まあ、コイツがそんなだから恋人ができたって話を聞いた時も驚いたし、結婚を決めたと聞いた時も驚いたんだ。その相手が堅実な相手で良かったと、心の底から思っている」
「……ありがとう、ございます」
なんて返すのが最善なのかわからず、私はお礼を述べるに留めました。
多分コレは褒めてくれている。うん。
「まあ、祝福ついでに少し、話をしておこうかと思ってね」
「話、ですか?」
アルダールが不思議そうな顔をしているので、彼も初耳なのはわかります。
近衛騎士隊長がわざわざ、祝福ついでに話すようなこと……?
「バウム伯爵とは同期で私は友人と思っているんだが、彼は随分と口下手で、何でも抱え込むところがある。そういう所は親子で似たのかもしれないが……息子としてはたまったもんじゃないだろう」
「……そこは、お答えしかねます」
「ははは、いいさ。そこに答えは期待していない。どうせ君らも他の人間からバウム伯爵が何かしらの覚悟を持って行動を起こしたというような話を耳にしているだろう? それについてあれこれ言う必要はないし、君らが知る必要はないかもしれないが……それでいいのかと問いかけることはできる」
「それで、いいのか……ですか」
「そうだ」
理解しなくてもいい。知っていてくれ。
そうアリッサさまは仰いました。
アルダールも私も、困惑するしかありません。
だけれどこれは、大きな選択のような気がしました。
「答えを聞くのは別に今じゃなくていい。その気になったら、いつなりと。そしてそれを踏まえて、二人には先に知らせておくことがある」
「……なんでしょうか」
私たち、二人に?
思わず顔を見合わせた私たちを見て、ベイツさまは笑顔を浮かべました。
「陛下より、お前にモンスター退治の功績を称えた勲章の授与が予定されている。その授与式に、王女殿下も参加なさるので王女宮筆頭殿、貴女も同席するんだ」




