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はてさて、まあ色んなことがある中で、時間というのは平等に過ぎ去っていくものでありまして……。
あっという間に時間だけは過ぎていくんだから困ったものですよね!
当たり前のことなんですけど!!
プリメラさまは本日、少々緊張しておいでです。
少しだけ大人びたデザインのドレスに身を包み、来客の知らせを今か今かと待っているのです。
そう、今日は……アリッサさまをお迎えしての、お茶会なのです。
対外的には〝王女殿下主催の茶会を開くための模擬茶会〟となっております。
この茶会の本当の目的、それは……そう! 未来の家族として女同士仲良くしましょうね会なのです!!
とはいえ、茶会のマナー手順はしっかりと守っておりますよ。
プリメラさまがいくつもの候補の中から選りすぐったカードに直接誘いのお言葉をしたため、場所から茶の種類、菓子、メインで飾る花なども選ばれて、主催者としてお客さまをおもてなしするためにあれこれと頑張ったのです!
勿論、細部に関しては我々使用人が整えるわけですが……非常に楽しかったです!!
アリッサさまの好みに関してはアルダールから聞いておきましたし、茶葉はリジル商会で買い求めた中でもセバスチャンさんがさらに厳選し、メッタボンと私がお茶菓子を作り……そしてメイナとスカーレットによってプリメラさまはドレスアップをして。
王女宮一丸となって頑張りました。
「緊張しておられますか」
「うん……だ、大丈夫よね? 変じゃないよね?」
「とてもお似合いですよ」
プリメラさまも今回は未来の義母相手ということで少しでも大人っぽくしたいということだったので、ドレスはフリルの少ないシンプルなものを選ばれて……青空のような青を基調としたドレスはきっとディーン・デインさまの目の色を模しておられるのでしょうね。
恋する乙女、可愛いじゃないですか!!
ちなみに私もこの場においては『招待された』側の人間扱いなんですよね……。
給仕役にはセバスチャンさんがつくことになっております。
私の装いは濃いめの青、まあ言わずもがなアルダールの目の色ですね。
こういう場では別に好きな色を着て構わないものですが、一応この国で一般的に言われるルールとしては主催者とドレスのデザインや色が被らないこと、王家のための色は使用しないこと、茶会に相応しい格好であること、ですね。
昼間の茶会ですからね、露出度は控えめで派手派手しいものは禁止といった具合に、細かいルールが設けられているのです。
それと同じように夜会では同伴者……恋人や許婚の色をどこかに入れておくなど、そういう暗黙の了解のようなものもあってですね……。
プリメラさまと私は未だ〝正式な〟婚約者ではありませんが、それでもそのつもりで今日は臨んでいるという、そういう意思表示というかなんというか。
「失礼いたします、王女殿下。バウム伯爵夫人アリッサさまがご到着でございます」
「そ、そう。セバス、すぐにお通しして」
「かしこまりました」
来た! 来ましたよ!!
思わずプリメラさまと顔を見合わせた私もなんだか緊張して参りました。
アリッサさまは厳しい御方ではありませんし、この場は非公式な茶会であって、楽しく過ごしましょうねというものだとわかっています。
わかっていますけどね……緊張するなって方が無理でしょう!!
でも同時に、楽しみだったからワクワクもしているのです。
「バウム夫人、ようこそ。お待ちしておりました」
「本日はお招きありがとうございます、王女殿下。年甲斐もなく昨晩は楽しみで眠れませんでしたわ」
「わたしも、とても楽しみにしていました」
茶会のルールに則って、まず主催者が案内された客人に歓迎の意を述べ、それに対して客人は楽しみにしていたことを告げつつ使用人に手土産を渡す……ひぃ、高度すぎて私にはかなりハードルが高い話です。
いえ、でもこうして目の当たりにすると知識だけのモノが形になって理解できるものですよねえ。
普段とは違う視点で見ていると、気づくことはたくさんありそうです。
「さて……」
今日は室内での茶会、庭が一望できる場所を選んでのものです。
テーブルについてすぐ、アリッサさまはにっこりと笑顔を浮かべられました。
「まず、本日の茶会についてですが……問題は特に見受けられませんでしたわ。ただ、大勢を招くとなると王女殿下も采配を振るうに疲労を覚えられるでしょうから、それはおいおいがよろしいかと。まずは今日と同じように少人数で場慣れしている夫人方を招き、慣れてこられたらその夫人方のご息女を同伴させるがよろしいかと」
「お、大勢でもやることは同じなのよね?」
「はい。ただし大勢を招く場合は派閥についてのバランスも考え、席順なども必要になりますので……ここは公爵夫人より学ばれておられると思いますが、実際にやるとなるとなかなか気を遣うモノですから」
今回の件はあくまでプリメラさまの勉強の一環。
そういう建前ですが、そこのところはきちんと評価をしてくださるアリッサさまも真面目です。
いえ、おそらくビアンカさまから連絡が行っているんでしょうけどね。
「どうかしら、ユリアさんも今後はそういった場に同席してみては。本来なら専属侍女でもあるのだし、給仕側に回りたいとは思うけれど……令嬢として同席すれば、王女殿下も心強いと思うのだけれど」
「えっ」
「そ、そうね! 近くにユリアがいてくれたら安心だわ……!!」
「給仕側とはまた違って、他のご令嬢たちが話しかけているのをぶった切ったりもできるから立場を利用するというのも大事よ?」
「な、なるほど……?」
今、ぶった切るって言わなかったかな?
アリッサさまが笑顔で、上品に、ぶった切るって……。
思わずびっくりしてそのまま納得したふりをしましたけど、なんか思い返したら笑いそうなんですけど!?
いや、勿論笑ったりなんかしませんけど! 意地でも!!
「さあ、真面目な話はここまでにしましょう。今日は本当にお招きいただきありがとうございます、王女殿下」
「あの、……あのね、バウム夫人。わたしのことはプリメラと、名前で呼んでくださると嬉しいわ。将来、その、わたしのお義母さまになられる方なのだし」
「まあ! ……ありがとうございます、プリメラさま。わたくしのこともどうぞ、アリッサとお呼びくださいませ」
「ありがとう、アリッサさま」
癒やし系美女と天使の会話、可愛すぎないかな?
それを間近で見られる幸せよ……!!
「ユリアと二人で、今日はアリッサさまのお話を伺えるの、楽しみにしていたの……! ね、ユリア!」
「はい、プリメラさま」
プリメラさまのお言葉に私も思わず力強く頷いてしまいました。
いや、だって、楽しみでしょう?
アリッサさまも前に仰っていましたもの、家族の話を聞かせてくれるって。
「わたくしもたくさんお話をしたいと思っておりましたの、お二人の話もたくさんお聞かせくださいませね。……さて」
ニコニコとしたアリッサさまがぱちりとウィンクをしました。
そして悪戯っ子のような笑みを浮かべて私たちに内緒話をするように声を潜めて問いかけました。
「息子たちの、どんな話がまず聞きたいかしら? お嬢さんたち!」
「わ、わたしは普段のディーン・デインさまのお話を聞きたいわ!」
「え、ええと……それじゃあアルダールが幼い頃の話を……!!」
「ふふふ、任せて。ああ、どうしましょう。今日だけじゃ語り尽くせないくらいあるの。でもそうよね、今日だけじゃないからいいわよね?」
楽しげに笑うアリッサさまに、私たちも思わず手を叩いて喜んでしまいました。
淑女としてはアウトですが、セバスチャンさんも何も言いません。
そうよね、今日はね、無礼講でいいんだもの。
建前のお勉強もきちんとしたことだし、後々レポートを書くようにとはビアンカさまから私たちも宿題を出されているわけですが……それを思うと少々頭も痛いけれど、この時間を今は楽しまなくては!
(アルダールはあんまり聞かないでって言ってたけど)
こんなチャンス、逃すわけがないよね!!




