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プリメラさまに、アリッサさまからのお手紙の内容と私からの提案を話すとそれはもう諸手を挙げて賛成してくださいました!
ふふふ、そうですよね。
公務などとは違う、楽しいお茶会が素敵なことはビアンカさまが以前してくださったことでプリメラさまもよくご存じなのです。
茶会の場とするのは私的なものであるゆえ、王女宮の内部。
庭がよく見えるテラスが望ましいだろうということに決定しました。
いつが良いかなどの日程調整を含め、まずは主催であるプリメラさまがお決めになって、それから招待状を書いて……その招待状にも趣向を凝らす方もいらっしゃると耳にしたことはありますが、まあそれはまたの機会に。
とまあ、そんなこんなでプリメラさまに委細お任せいただいて私はリジル商会に向かっているわけですよ!
お茶会のイメージは『とにかくアリッサさまに気に入っていただけるようなのがいい』という、なんとも子供らしく漠然とした注文で……さすがにそれはお茶会を開く側としてはいかがなものかということで、礼法の勉強に来られたビアンカ先生からご教授いただいて〝初めてのお茶会~もてなす側と、もてなされる側でのマナー〟講座を開いていただきました。
まあ、私も同席したんですけどね。
(しかし学ぶこともたくさんありましたね……)
私も茶会についてどのようなことが侍女に求められるかは実地で覚えてきたのである程度自信はあります。
それに一応貴族令嬢として茶会に招かれた際のマナーについても基礎はきちんと学んでいるのですが、茶会を開く側という立場でのお話は大変勉強になりました!
国も違えばもてなしの種類も違う、それは当たり前のことですが家格での問題点、同格の場合、それらが交じった状態でのもてなし方、主催者が気にすべき箇所、話題の提供、タイミング……ありすぎて正直頭がパンクしそうなんですが。
高位貴族って大変ですね!
(私が実家にいた頃に学んだのなんて、本当に同格のお茶会で嫌われないためにどうするか……なんて話だったのになあ)
レベルが違うってこういう所でも出るんですね……知ってたけど!!
そりゃ同じくらいの人でどうしても固まりがちにもなるってもんです。
とはいえ、お茶会。
されどお茶会。
プリメラさまの私的なものとはいえ、アリッサさまにもお褒めいただけるようなものにしたい……!
「それで、どのようなものを本日はお求めなんですか?」
「ええとですね……最近出た茶葉で新しいフレーバーがあると耳にしたんです。リジル商会で取り扱っているので、お願いすれば来ていただけるでしょうが……それはちょっと、人の目につきますでしょうしね」
本日、護衛としてついてきてくれたのはケイトリンさんでした。
プリメラさまに関連することとなれば王女騎士団にも当然話は通してありますので、今度開くお茶会の下準備だということで彼女も協力してくれることになったのです。
といっても、ケイトリンさんに告げたように今回は下準備。
下準備っていうか、下準備の下準備ですね……。
プリメラさまの日程調整に関しては私も公務の予定表が明日明後日に修正されると聞いていますので、そこから候補日を導き出すのがいいと判断しています。
(なかなか、奥が深いものですね……)
来るってわかっているお客様をもてなすだけなら簡単なのになあ。
いや、原理は同じだった。
お客さまを招いて、楽しんでいただく。
その間、会話で情報収集したり交渉したりっていうのは女主人の役目なので私がすべきはやはりどうお客さまに喜んでいただけるものを選りすぐるか! そこです!!
「……そういえば、最近はリジル商会のご子息がよく本店におられるという噂を耳にしました。例の、ユナ・ユディタを秘書にしたという話です」
「ユナさんが?」
確か彼女は地方にあるリジル商会の支店で、一から商人としてやり直し将来的に母国とのやりとりをさせる……とかなんとか言っていませんでしたかね?
それなのにリジル商会のご子息が秘書にして連れ回してるって……どういうことでしょうか。
ユナさん、彼女に関してはもう私たちの手を離れた問題ですので、その後のことなど知ることもありませんでしたが……。
「なんでも、大変真面目な働きぶりで認められたそうですよ」
「そう、なんですね」
フィライラ・ディルネさまに対して執着していた頃の彼女はお世辞にも優秀とは言えない言動でしたが、離れたことで良い方向に変化したのでしょうか。
もしそうならば、フィライラ・ディルネさまにとっても、ユナさんにとっても良いことのように思えますね!
会うとは限りませんが、もしその様子を見ることができてフィライラ・ディルネさまにお目にかかれる日が来たならば、話題の一つになるかもしれません。
「リジル商会が責任を持って彼女の育成にあたってくれている成果が出たのかもしれませんね」
「それならばよろしゅうございますが、万が一にでも遭遇いたしましたらユリアさまはわたくしの後ろにお下がりください」
「ケイトリンさんったら」
さすがにそれは警戒しすぎだと思いますけど!?
甘く見ているってことはないですが、クーラウムとマリンナル、両国からの依頼としてユナさんの身柄をリジル商会が預かったんですから、誰かに迷惑をかける前に対処してくれると思います。
まあ、リジル商会のご子息、リード・マルク……あの【ゲーム】での攻略対象であった少年の傍にそんな女性はいなかったから、こちらも全く行動が読めないというのが奇妙で首を傾げてしまいますけれども。
(考えてもさっぱりだわ)
関係ない人たちの行動パターンなんて考えてもわかるわけないよね!
多分出会ったとしても会釈とかその辺で終わりでしょう、だってもう関係ないし。
(私が王子宮の人間だったらそうは言ってられないだろうけどさ……)
まあ、王女宮としてもフィライラ・ディルネさまに関しては無関係とは言い切れないわけですけどね。
将来的にプリメラさまの義姉となることは確定しているわけだし。
それでも、国としてユナ・ユディタという人間を切り離して平民として他国の商人に預けたのだから、もう無関係と考えるのが筋ってものです。
ケイトリンさんからすれば、あの時あの場にいたということで彼女が今でもその境遇に対して不満を感じていて、私に対してその鬱憤を向ける可能性が僅かでもあるならば警戒するに値するのでしょうが……。
「……まあ、何があるかわかりませんからね。頼りにしています、ケイトリンさん」
「はい! お任せください!」
それにしても考えるべきことはフレーバーティーです。
新作があるとは聞いていますが、一体どんなものなのかしら……。
(オーソドックスなのは基本的に王女宮で常時取りそろえているけれど、そろそろ春摘み紅茶も種類が揃っていますからね……目新しさはありませんが、誰にでも好まれるのは確かです)
アリッサさまも私たちにお茶を用意してくださった時は、ベーシックなものを飲んでおられました。
アルダールに好みは一応確認してみましたが、何でも嗜むようだって話でしたしね……。
多分あの反応は、家族の好みを把握していないっていうよりは本当にアリッサさまが色々と楽しまれるタイプなんだと思います。
(だとすればちょっと風変わりなお茶もありだろうけど、それだとお茶菓子が難しくなる……? いやいや、話題の種に一つ二つあっても……)
ううむ、悩ましい。
実物を見ないと決められませんけど、こういう悩みはいつだって尽きませんよね!!
商人の方々もあの手この手で売り出すもんだから、気になっていても手を出さずにいたら次のシーズンには消えていた……なんてことも多々あるのです。
かといって全種類買っていたら予算ってものが……ああ、本当に困っちゃう!!




