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今月12日にコミックス版「転生しまして、現在は侍女でございます。」4巻発売です!
そちらもよろしくお願いいたしまぁぁぁす!
アリッサさまが正式な婚約の申込書を書き上げて、後は当主のサインを待つのみというところで確認をさせてくださいました。
王城にいらっしゃるバウム伯爵さまの許可を得たら当主代理としてアリッサさまがサインや押印をして、ファンディッド家へ送るのだそうです。
基本的には誰が、誰に婚約を申し入れるのか……というまああくまで提案書みたいなものなんですけどね!
アルダールも確認して自分の名前をサインしていて、すごくこう……実感がですね!!
(ただ書類にサインしている姿を見ているだけで照れるとか、こんなことってあるんだ……)
自分でも驚きですよ。
アルダールから言葉も態度ももらっているというのに、こうして書類にサインをして私の親にご挨拶したいというメッセージカードを添えている姿を見ると、本当なんだなあ……ってより感じると言いますか。
「それじゃあ預かるわね。そうそう、ユリアさんのお部屋は準備できているけれど……お休みいただくのはまだ早いし、庭でも案内してきなさいな」
「わかりましたよ、義母上」
「ふふふ、二人の邪魔をするほど野暮ではなくてよ」
「はいはい」
「ああ、でももう少ししたらディーンが帰ってくるから、その時は少し話に付き合ってあげて。学園に入る前に、挨拶ができてきっとあの子も喜ぶわ」
アリッサさまが笑顔で出て行きましたが、今度は晴れやかな優しいものでした。
いえね、先ほど書類を確認している際にアルダールが「そういえば」なんて世間話をするかのように私が王城でバウム伯爵さまと面会した話をしたんですよ。
私としては泣きじゃくってごめん寝しちゃったきっかけの思い出話にも繋がっているので思わずびくついてしまいましたが、アリッサさまの笑顔を見て別の意味でビクッとしたのは内緒ですよ。
ええ、ええ、あの時にアリッサさまとは決して争うまいと決めました。
勿論、そんなことは起こり得ないとわかっていますがね!
(まあ、私のために……アルダールのために怒ってくれたんだと思うけど)
あの日だまりのような笑顔を浮かべるアリッサさまから地を這うような声で「そう……あの人ったらまた余計なことを……」とかいう声が聞こえるなんて思わないじゃないですか……。
「それじゃあ、後は義母上に任せて私たちは庭園でも散歩しようか」
「え、ええ」
「手紙を先に書きたいなら、今すぐ便箋を持ってこさせるけど」
「いえ。後で部屋に案内していただいた時にでも書こうと思うの。……今はまだ、ちょっと、胸がいっぱいで」
だってプロポーズされてまだそんな時間が経っていなくて、あれよあれよと今、正式な婚約を調えるために準備が進んでいるんだとしても手紙を書けるほど冷静じゃないんですよ!
なんたって人生にそう何回もある状況じゃないんですからね!
アルダールにエスコートされて出た庭は、デザインされた生け垣が多い印象でしょうか。左右対称に配置された庭木や落ち着いた色合いの花が整然としている様は、圧巻です。
(ナシャンダ侯爵さまのところも圧巻だったけれど……)
あれはどこまで行っても薔薇、薔薇、薔薇、生け垣もすべて薔薇という圧巻具合でしたがこちらはどことなく無骨な印象がありますね。
さすが武門の一族といったところでしょうか。
「……」
「アルダール?」
二人で庭を散策しながら他愛ない会話を楽しんでいると、段々とアルダールの口数が減っていき……ついには黙り込むだけでなく、立ち止まってしまって私は首を傾げました。
別にそれまでの会話が不穏なものだったとか、誰かがこちらを見ているとかそういうわけではありません。
「あー、……その、今更だけれど」
「え?」
「結婚は最初の方から意識していたし、きみに自分の意思で選んでもらいたかったと言ったね」
「え、ええ」
それはさっき聞いたけれど……なんでしょう。
アルダールはなんとも困ったような表情を浮かべて視線を彷徨わせたかと思うと、私の頬を撫でて口を開きました。
「その、きみが断りにくい状況を作り出していた部分もあって。それをやはり謝っておきたいんだ」
「断りにくい状況?」
「うん。その、夜にきみの部屋に行ったり、泊まりがけで今回のことを強行したり。クーラウムでは恋愛に緩い点はあっても、やはり貴族である以上醜聞はつきまとう。恋人たちが二人きりの状況であると考えれば、その……深い関係だととる人も多く、結婚するのだろうと周囲は考える」
「え、ええ……」
言われて私は目を瞬かせました。
いや、うん。
まあ確かに、そうだね……?
私も今まで何度も『恋人だし、問題ないか……』って多少そういう目で見られているんだろうなあとは思っていましたし、その辺の醜聞は覚悟の上でもあったんですが、なるほどなるほどアルダールも自覚はあったんですね。
いえ、むしろ自覚があってそれを利用していたと。
ほほう……。
「アルダール」
「うん」
「私、随分と不安だったんですよ、これでも」
「……うん」
「アルダールは結婚したくないのだろうなとか、それならそれでいいかなとか。周りに確かに急かされたりする際に私も焦ったり取り乱したりしたと思いますし、アルダールが心配していたことは正しいと思います」
「うん、……その、ユリア、口調が」
私が侍女モードでの喋り方なことにアルダールが本格的に困っている表情を見て私は笑顔を浮かべました。
私が笑ったことに安心したのでしょう、途端にほっとした顔を見せるアルダールに本格的におかしくなってしまいましたね!
ああ、本当に私の恋人は不器用で、可愛らしい人です。
私も劣らずきっと不器用なんですけどね……!
「アルダール」
「ごめん。最初から結婚を意識して、そんな立ち回りばかりして。その上、待たせてしまった」
「……それはいいんです。バウム伯爵さまのお許しが必要だったのは、確かですから」
口約束だけの、いつかでも多分私はすぐに答えを出していたでしょう。
そのくらいに彼のことを好いていると今はきちんと自信を持って答えられますよ!
それでも、その口約束すら、当主の意向を伺わねばならないのですから貴族社会は本当に厄介です。
特にアルダールの立場の複雑さったら。
ため息ものですよね!!
「随分と私は厄介な男だろう? 自分でもどうかなとは思うんだけど、……どうしても、ユリアを諦めるという選択肢はなかったんだ」
「いいえ」
諦める?
その言葉を聞いた時、私は反射的にアルダールの手をぎゅっと掴んでいました。
「ユリア?」
アルダールを見上げれば、彼はとても驚いた様子でした。
まあそりゃそうですよね、この状況なら私が怒るとかそんな感じですし。
「私はもっと望んでもいいの?」
でも、私が思うのは別のことです。
アルダールが望んでくれて、ずっと思ってくれていたという事実がこんなにも嬉しい。
正直に言えば、アルダールの行動ってまさしく『重い愛』ってヤツですよね。
なんかこう、囲い込まれてたんだなあと話を聞いて理解しましたよ!
……それを全く理解していなかった自分の鈍さにも笑いが出そうですけど。
言い訳をするならそんなもんと一切縁がなかったんだからしょうがないじゃないですか!
美人の条件を満たしていないし、行き遅れだし、ボンキュッボンでもないし!?
「望む……?」
「アルダールの気持ちが、嬉しいと言ったら。そんな私はいや?」
絆されたのか、それとも私が他を知らないからなのか。
でも、一つ言えるのはこの恋は、私が私自身で選び、育てた恋なのです。
「それでも、私はアルダールが好きだから、きっと離してあげられない」
「……離さないでくれると嬉しいよ。まあ、とっくの昔に私の方が参ってる」
私の言葉に苦笑したアルダールが、私のことを抱き込んで大袈裟なくらい、大きなため息を吐きます。えっ、ひどくない?
それでも、彼の表情は優しくて、それが全てを物語っているような気がします。
「明日は、……私が育った土地に行こう」
「ええ」
「それから王城に戻って、色々と報告しなくちゃいけない」
「そうね」
「……忙しくなるね」
「でも、嬉しい忙しさだと思って頑張りましょうね」
全部、これからのためですからね!
バウム領編、あと2~3話ほど続きます。




