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晩餐会といってもダンスパーティーが開かれるとか、そういうのではない。
単純に普段の食事よりは豪勢な、お客様をお迎えするちょっと公式的な夕食会。
出席者は侯爵さまに王太子殿下にプリメラさま、そしてナシャンダ侯爵領の代官とその奥方という少人数だった。侯爵さまには奥様はおられず、ずっと独り身なんだとか。だからその妻の座を狙う肉食女子たちに恐れを感じた侯爵さまはすっかり社交界が苦手になられてしまったんだってさ! ま、まあ……婚活女性の勢いって時々びっくりするぐらいエネルギッシュだものね。
侯爵さまが老齢に差し掛かっているのに気にせずアタックしてくるのはやはり地位と名誉とお金ですかね……個人的にはロマンスグレーの紳士というだけでも素敵ポイントだと思うんですけど。ちょっと薔薇への愛がすごいですけど。
ちょっと話が逸れましたね!
それと代官ご夫妻は侯爵さまの幼馴染だそうです。とても優秀なのだと王太子殿下が仰っていたのでもしかして有名人だったのかもしれませんね。私はちょっとそういうのには疎くてですね……。
ちなみに料理はとても美味しそうでした。私たちの食事はこの給仕が完ぺきに終わってからです。
食卓を飾るのは淡いピンクのバラでした。
そして前菜のトマトも薔薇の形に飾り切りされた物でした。……うん、すごいな!
きっと今頃、メッタボンが飾り切りの技術を身につけようとあの睨みつけるような顔してるんでしょうね。料理人の人たちが引いてないといいけど。
プリメラさまも王太子殿下も楽しそうに時々お隣同士なので笑顔で会話なんてしちゃってて可愛いのなんの!! 侯爵さまもにこにこしていて、明日からはここまで豪勢な食事はお出しできないが、なんて前置きをしていたけれど明日以降は遠乗りや近くの森を案内して差し上げようなんて仰ってた。なんでも野ばらが群生しているところがあるんだとか……何それ素敵。
そんな感じで和やかな晩餐会でした。
その後は私たちが賄いを食べたりするんですが……まあ、私はプリメラさまの所に行くことになっていましたので夜食という形で部屋に持って行ってもらうようメイナにお願いしておきました。
あのローストビーフの切り落としで賄い作るとかどんだけ! と思いましたが、入浴と就寝の準備です。お仕事はきちんとしなければなりません! ましてや、プリメラさまが私にお願いしたいとこれは私限定でのお仕事なのですから!
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やっぱり年頃の女の子は成長が早いなあ、と思う今日この頃でした。思ったよりも背が伸びてる。
この間夏ドレスのために計測した時からまたちょっとだけ伸びてる……? 気の所為かなあ。
あとちょっと日に焼けたかな? うーん、明日は日焼け対策をちゃんとしないと後で赤くなっちゃったりしたら可哀想よね……痛くなったりしたらと思うと心配です。
寝る時間になって「今日はもう少しだけおしゃべりしてたいの」とか言いながらうとうとしちゃうプリメラさまは可愛かったです。やはり王女宮から離れて旅行するというのは何か違うのでしょうね、ちょっとだけ甘えん坊になっているようです。いえ、可愛いからいいんですけども。
ご就寝を確認してから私はそっと部屋を後にしました。
護衛騎士の方にお辞儀をして部屋に戻れば、メイナがサンドイッチと紅茶を用意してくれました。良い子です、できる子です。もっと褒めて伸ばしてあげるべきでしょうか。あまり甘やかしすぎても良くないのでしょうが……頑張っている子はやはり褒めてあげるべきでしょう。
「ありがとう、メイナ。いつも頑張っているのはわかっているしとても助かっているわ。私が同室では落ち着かないかもしれないけれどできる限りゆっくりしてちょうだいね」
「そんな! いつもユリアさまには私がドジをしてフォローしていただいているので……お役に立てたら嬉しいです!」
「できることから着実に、ね? さあ今夜はもう寝てしまいなさい。私は少しまとめることがあるからランプをちょっとだけ点けさせてもらうわね」
「はい!」
ベッドに大人しく横になったメイナが眠りづらくならないようにランプの明かりをぎりぎりまで落として机に向かう。
さすがに刺繍をするほど明るくはないけれど、今日気になったことをメモして調べるためだ。
蜂蜜の種類、量、産地……カトラリー……ローズオイルとローズウォーター……フレーバーティー。こんなものでしょうか。あとは花屋ですね。侯爵さまから薔薇の提供をお約束いただいたので今後お願いするにしても、明日はとりあえずジャムの試作用の薔薇くらいは調達したいものです。
ジャムが成功したら何をしましょう。あんまり試作だからたくさんは作れないでしょうし……ドライエディブルフラワーでのお菓子も作りたいですね。フルーツとのゼリーでも作りましょうか。
明日はティータイムにそれをお出しすることを目標といたしましょう。
あとは……やはりお父さまのことが気にかかります。
私が今、侍女として立派に働けているのはある意味お父さまが家を出ることを止めず、王宮で働くならば安心だからと言ってくれたことが大きいのだと思います。最初は行儀見習いでしたが、王宮の侍女になるということでいずれは誰かのお手付きになることを期待していたのかもしれませんが……ちょっと下衆の勘繰りですかね。
まあ、そんなことはひとつもなかったですけどね! ええ、ひとっつも。浮ついた噂の無い女ですみません。いや、仕事が楽しくて……侍女の仕事って大変でしょ? ってよく貴族のご令嬢とかに聞かれますけど、辛い人は辛いかもしれませんが私は好きですよ。主にお仕えしている相手がプリメラさまだからかもしれませんが、毎日充実です。リア充ですね!
恋愛しなくても老後暮らして行けるくらいの貯蓄をするのが今の所の目標です。
いやまあ、当面はプリメラさまが安心してまずお嫁に行けるようにすることですかね。まずはバッドエンディング回避であとはディーン・デインさまのドM回避、そして結婚なさって降嫁してバウム伯夫人となられるプリメラさまについてってそこでも侍女をやっていけたら良いなあ。
うん、その方向で行こうじゃないか!
人生計画、ばっちりです。
ディーン・デインさまもお仕えする相手として悪くないですからね、まあプリメラさま優先ですけどね。
あの素直で柴犬の子犬みたいな少年が、今後どのように成長していって麗しい貴公子に育つのか。ゲームでのスチルは見ましたけど、現実目の前にいるんですからね! しかもドMでもなんでもないディーン・デインさまが!
きっと素敵なカップルになると思うんですよねープリメラさまと並んだ日には皆が見ちゃうに違いない。
そしてそこがただの政略結婚とかじゃなくて、相思相愛になって思いやり溢れる家庭になってくれたら……私、侍女として仕えてきて良かったと心底満足できる気がするのです。
それこそ、壮大な人生の目標ですね!
そのためにも暗躍……とかは能力的にもできませんので、誠心誠意プリメラさまにお仕えし、ディーン・デインさまに接していくことが大事でしょう。ちょっとアラルバート・ダウム殿下があのゲーム上での腹黒王太子っぷりじゃなくて、ただのシスコン王太子になりつつあることが気にかかりますが……ふふん、まだまだプリメラさまの一番はお兄さまじゃなくて私ですのよ! 口には出しませんけどね、勿論。