390
頭が痛くなるような、っていうか実際頭が痛くなりましたが、とにかくその話が終わった後、プリメラさまは町長と晩餐を予定通り行い今はリラックスタイムです。
プリメラさまのことをスカーレットに任せて、私はルネさんの話をセバスチャンさんと共有しました。
スカーレットに話すのは、こちらでの対処について決めてからの方がいいという判断です。
あの子はまだまだ顔に出すところがありますから、諸々決まってから説明する方が彼女にとっても対応しやすいと思ったからです。
ケイトリンさんにも護衛騎士たちに対してユナさんに関してのみ、情報を共有してもらうことにしました。
フィライラ・ディルネさまの幼い頃に関しては、ご本人があまり知られたくないとお思いかもしれませんし……ただ、とにかくユナさんが依存的であるという点から諦めないで行動を起こすかもしれないという点について共有してもらうという形で。
「プリメラさまにはどうご説明するべきかしら」
「ユリアさんはどのようにお考えで?」
「……ありのまま、すべてをお話しした方がいいと思いますが、セバスチャンさんは?」
「私もそのように思いますな」
「それにしても、王太子殿下はどのようなお考えなのかしら。プリメラさまの初公務だというのに……」
色々と片付いて、そこそこ稼ぎのある商会に船が持てるという利点はあるものの……妹の初公務でしょ? 緊張していたのも見ていたでしょ? ってなるじゃないですか。
確かに王族としてあれこれを考えたりすることもあるんでしょうが、それでも何もこのタイミングじゃなくても……と思ってしまうのは私が甘いのでしょうか。
そんな気持ちを込めてセバスチャンさんを見ると、あごを撫でるようにして思案してセバスチャンさんは言いました。
「この件については、プリメラさまと王太子殿下の間で話し合いが必要かと思いますな」
「……ですよね……。ところで、ニコラス殿の姿が見えませんけれど」
「ちゃんとおりましたよ。あれはあれで王太子殿下の指示に従っているようで……後で挨拶に来るやもしれませんが、追い返してもかまいませんぞ?」
「さすがにそれはちょっと」
会いたいわけじゃないけど、追い返すのはどうなのか。
なんにせよ、プリメラさまにお話しした上でどうなさるかその意思を確認せねばなりません。
ただでさえ公務のことで色々いっぱいな女の子に、これ以上の面倒ごとを押しつけてほしくはありませんが、王太子殿下が引く気もないとなるなら我々の方で対処を考えなければなりません。
それこそ、方法は問わず……になるかもしれませんが、それについてはまたその時考えましょう。
私とセバスチャンさんはうなずき合って部屋に戻りました。
「プリメラさま、少々お時間をいただいても?」
「あら、なあに? どうしたの?」
「……スカーレット、悪いのだけれどドアの外をセバスチャンさんと一緒に様子を見てきてくれるかしら。今はどなたも入れないようにしてほしいの。護衛騎士たちにもそれを伝えてくれる?」
「かしこまりましたわ」
少しだけ怪訝そうな顔をしつつも従ってくれたスカーレットとセバスチャンさんが出て行くのを見て私は小さく息を吐き出して、プリメラさまの方へと向き直りました。
「……実は、フィライラ・ディルネさまの所から戻った後に共に来たあちらの侍女と話をいたしましたところ、気になる点が」
「まあ」
「ご本人は仰いませんでしたが、過去にまるで神がかったかのような行動をとったことにより商会を立ち上げるに至った経緯があったようで、それが理由でユナ・ユディタは神性をフィライラ・ディルネ姫に見出したようです」
「……それは、なんていうか」
かなり端折って説明しましたが、まあ必要なポイントは押さえて最低限で良いと思ってのことです。
なにせ、問題なのはそこから先ですから。
とはいえ、プリメラさまが困惑した表情を浮かべているのもわかるっていうか……。
まあ、普通はそういう反応ですよね! わかる!!
「その辺りの真偽については少々調べる必要があるかとは思いますが、ユナ・ユディタがかの姫君に対し執着に近いものを持っているというのは事実かと思います」
「……ええ、そうね」
「これらのことについて、王太子殿下より今後どうなさるのか……そのようなお話は、聞いておいででしょうか……?」
晩餐の際に王太子殿下とプリメラさまが私たちを遠ざけて少し話をしていることがありました。
このようなことがなければ、フィライラ・ディルネさまについて未来の姉妹となるプリメラさまに王太子殿下がお言葉をかけておられるのだと微笑ましくもなったでしょうが……今は、そう思えません。
「いいえ、お兄さまからはなにも。それでね、わたしの方でお時間をいただけないか聞いたの。ユリアが忙しそうだったから、落ち着いたら話そうと思っていたのだけれどちょうど良かったわ」
「プリメラさま……」
「さすがに一言くらいお兄さまに文句も言いたいもの! 晩餐の場では他の方の目もあったし、公務だから我慢したけれど……」
ああー! プリメラさま立派です!!
初めての公務でちゃんとそこまでの心配り! 本当に立派になられて。
感動で胸が熱くなります。
さすがにちょっとプリメラさまに対して私も盲目的だなとユナさんのことをどうこう言えない気がしてきましたが……いえ、気のせいです。
私は確かにプリメラさまに対してかなり溺愛と尊敬の感情を向けていますが、お互いの話をちゃんと聞いて自重することもできる大人だと自負しております。
決してユナさんみたいに困らせていることはない! ……はず。
ちょっと自信がないわけじゃないのにドキドキしちゃうじゃないですか。
ええ、ええ、人の振り見て我が振り直せと言いますし、気をつけましょう。
「明日の午前中は公務がないでしょう? だからそこで話をするってお約束したの。ユリア、ついてきてくれる……?」
「勿論でございます」
「うん! ユリアが傍にいてくれたら、わたし、頑張れると思うの。お兄さまはとても優しいけれど……王太子としてのお立場もあるし、きっと厳しいお言葉もあるんじゃないかと思うと、ちょっとだけ怖くって。でも……かあさまがいてくれたら、きっと負けないわ!」
「んんっ……か、かしこまりました。微力ながら、私もプリメラさまの支えになれたらと思っております。いくらでも、頼ってくださいませ」
可愛いかよ!
可愛いよね、知ってた!!
って言っても王太子殿下の話し合いで私が役に立つのかって問われると難しい問題ではありますが。
普段みたいに事前に情報があってそれに対して準備をしているってわけじゃないですからね……ただ、冷静ではいたいと思います。
ある意味、これはこれで王太子殿下に私たちがどう動くのか、初めて公務に出られたプリメラさまの下にいる者として適切な行動がとれているか、テストされているのではなかろうか……なんて考えちゃいますし。
(それに、その話し合いの時にはニコラスさんもきっといるんでしょう)
ある程度のネタばらしがあるのか、それともこれからなのか。
さすがにプリメラさま相手に、王太子殿下も腹の探り合いのような会話を仕掛けたりはしないでしょう。普段のあの溺愛ぶりを見る限りですが。
(あーあ……)
公務の間に隙を見て町に行く予定でしたが、今日は無理そうです。
クリストファもなんだか忙しい様子だったのはちらりと見かけましたので、なかなか難しいですが……王太后さまから頼まれたインクも買いに行かねばなりません!
(しょうがない、ここは気合いです!)
決して自ら話したくはないですが、ニコラスさんとも話をするべきなのでしょう。
プリメラさまをお支えする、それが私の役目なのですから!!
※お知らせ※
活動報告でもお知らせさせていただきましたが、別連載の「悪役令嬢、拾いました!」の書籍化が決まりました。
それに際し、少々他の連載も合わせ忙しくなる日々が続いております。
そのため、感想返信が遅れることが増えるかと思います。
ご了承いただければと思いますので、よろしくお願いします。




