表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

382/645

379

「ブドウのデザートですか、そりゃ難題ですなあ」


「まあ、少し考えてみようかな程度でいいと思います」


 北方で手に入るブドウをいくつか目の前に、メッタボンと厨房で私は試作品作りの開始です。

 こちらのブドウは皮が厚く、ちょっと種が大きいっていうのが特徴でしょうか。ワイン造りにも向いた、糖度の高い品種です。

 まあその分、皮を剥くのが面倒だという人も多いんですよね。


「デザートにするなら、この皮は処理した方がいいわよね」


「ですなあ。加熱すると渋みも出ちまいますし、そのままで食べるにしてもどちらにせよ皮は不必要かと思います」


 ブドウ餅とかいいかなあとも思ったんですが、上新粉とかってこの世界にあるのか?

 いやでもリゾットが存在するんだから、米そのものはあるんでしょうが……はたしてそれを粉にしてお菓子にするという文化が存在するのかどうかがまずわかりません。

 なかったらその米がまず菓子作りに適した米粉になるのかから試さないといけないとかそのレベルだと思うと、さすがに試作に乗り出すわけにもいかず……。


(いくらメッタボンでも……)


 ちらりと視線を向ければ、ブドウを前に射殺さんばかりの表情をしているメッタボンがいました。

 初めてこの光景を見る人なら腰を抜かしそうですが、これは彼が真剣に考えている時の顔ですからね!


「ねえ、メッタボン。ちょっと教えてほしいのだけれど……」


「なんです?」


「以前、貴方が旅をした話で、東方には不思議な文化があったって言っていたじゃない?」


「ああ、あったなあ、そんなこと」


 そう、テングサの時の話ですね!

 聞けば聞くほど前世で習った日本の歴史とは異なるのでまったくの別文化と捉えていますが、テングサがあったんだから米粉ももしや……と思ったわけですよ。


 とはいえ、あったからって公務までに手に入れて試作が間に合うかは別物ですが。


「珍しいお菓子があればおもてなしにいいかと思って」


「成る程。うーん……」


 私が話すと、メッタボンはあれこれ思い出すように考え込んでから心当たりはあると答えてくれました。

 おお……ダメ元で聞いたというのに、さすがメッタボンです!!


「とはいえ、オレがそこで食ったのは米ってやつを潰して、甘く煮た豆をまぶしたモンでした。まあまあうまかったし腹の足しにもなりましたが、王女さまにお出しできるような代物じゃあなかったと思うぜ?」


(……米を潰して甘く煮た豆……おはぎかしら……)


 しかし、つまり餅米っぽいものが存在するなら団子とかもあるのでは?

 そう思いましたが、メッタボンもそちらはあまり詳しくないというか、あまり長く滞在しなかったそうなのです。


 じゃあまあしょうがないよね!

 ブドウ餅については後日検討することにしましょう。


「ブドウのゼリーなんてどうかしら」


「ああ、いいですなあ。以前作った二層ケーキなんてのはどうです?」


「そうね、あとはエディブルフラワーも散らしたら綺麗かなあと思うのだけれど……」


「いいと思いますぜ!」


 その後、早速試作に取りかかった私たちはできあがったケーキに満足しました。


 下の層がベリームース、上はゼリーで中には種と皮を取り除いたブドウを沢山。

 うん、なかなか見た目も可愛らしい。


 ゼリーの中にブドウと一緒にエディブルフラワーを入れるのと、上に載せるのとどちらがいいかなあと思ったんですが……食用の花についてまだ周知されているとは言い難い面が拭えなかったので上に載せるだけに留めました。


 勿論、ナシャンダ侯爵領のものですよ!!


 あれから侯爵さまは色々と試行錯誤の末、バラだけでなく他の花でも食用にと研究をなさって成功されているのです。

 今では大変人気で、予約もすごいんだそうですよ。

 初期の頃に色々試した分、スミレの砂糖漬けは沢山あると仰っていましたけど。

 そちらは今のところ、あまり使い道が見つけられずにしまい込まれているんだとか……勿体ない。


(この間、いただいたけど、十分美味しいのに)


 砂糖漬けのスミレ。


 お茶受けにもいいし、ちゃあんと花を広げて砂糖漬けにしてくださっていたから、見た目も最高でした。こっそり食べてます!!


(ん、待てよ)


「それじゃあこいつはまだ試作品ですし、オレらで食っちまうとして……姫さまの今日のおやつは予定通り焼き菓子で……」


「メッタボン!」


「お、おう」


「レアチーズケーキを作ってちょうだい」


「ああ?」


 目を丸くするメッタボンですが、私が重ねてお願いすればしょうがないと請け負ってくれました。

 さっすが、男前ー!!

 勿論、冷やすのに私も魔法で協力しますよ。

 無理言って予定変更させるんだし、そのくらいね……!!


 本当ならレアチーズケーキとかなら朝から仕込んだり、前日に準備するようなものですから。

 食材だってあるとは限りません。だから無理をお願いしたと私も自覚しております。


「なんだい、そりゃあ」


「スミレの砂糖漬けです。先日、ナシャンダ侯爵さまからいただいたの」


「へえ……」


 部屋から持ってきたスミレの砂糖漬けをトッピングすると、思った通り白いレアチーズケーキに映えるじゃありませんか!

 わあー、可愛い!


「どうかしら」


「いいんじゃねえですか、こりゃあ綺麗でいいですなあ!」


 その後メッタボンが更にベリーソースとミントを添えてくれてより華やかになりました。

 ……うん、もしかしなくてもコレ、いけるんじゃない?


(まだ食用花がそんなに知られていなくて、スミレの砂糖漬けなら沢山あるって侯爵さまも仰っていたわけで……)


 使うのは、飾り付け程度。

 ブドウの二層ケーキも捨てがたいけれど、コレはコレでアリだと思う。


(確か、リジル商会の紅茶品種にブドウの香りがする紅茶ってのがあった気がするし……)


 あとでそれについてはセバスチャンさんに聞いてみよう。

 絶対に詳しいもの。


「ブドウのケーキと、スミレの砂糖漬けか……どちらの方が喜ばれるかしら。どう思う? メッタボン」


「そうですなあ、どちらも見栄えが良いですからオレからすりゃどっちもいいと思いますがね。その王女さまがチーズが大丈夫かって点はどうなんです?」


「そうねえ、クーラウムのチーズはさほど匂いが強くないとは聞いたことがあるけれど、南の方はどうなのかしら」


「地域の差ぁはありますからなあ」


 むむむ、やはりおもてなしのお菓子は難しいものですね、奥が深い……。


 それはさておき、このレアチーズケーキはなかなか綺麗なので今度アルダールに作ってあげましょう。きっと喜んでくれるに違いありません!

 

 二層ケーキの方は私たち使用人仲間で食べてしまうとして……あ、勿論メイナとスカーレットにもあげますよ。

 今日のおやつです!


「……プリメラさまや彼女たちの意見も聞いてみましょうか」


「そうですな、このレアチーズケーキも見てもらってご意見いただいた方がいいかと思いますよ」


 おもてなしの道はまだまだ続きます……なんてね。


 私たちはワゴンを押して、プリメラさまのお部屋で意見を聞くことにしたのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもよろしくお願いします!

魔法使いの名付け親完結済
天涯孤独になったと思ったら、名付け親だと名乗る魔法使いが現れた。
魔法使いに吸血鬼、果てには片思いの彼まで実はあやかしで……!?

悪役令嬢、拾いました!~しかも可愛いので、妹として大事にしたいと思います~完結済
転生者である主人公が拾ったのは、前世見た漫画の『悪役令嬢』だった……!?
しかし、その悪役令嬢はまったくもって可愛くって仕方がないので、全力で甘やかしたいと思います!

あなたと、恋がしたいです。完結済
現代恋愛、高校生男児のちょっと不思議な恋模様。
優しい気持ちになれる作品を目指しております!

ゴブリンさんは助けて欲しい!完結済

最弱モンスターがまさかの男前!? 濃ゆいキャラが当たり前!?
ファンタジーコメディです。
― 新着の感想 ―
[良い点] 有能料理人メッタボンと発想の玉手箱ユリアさんのお菓子作り、とても好きです。
[一言] 先日ケーキ屋さんに行ったら、ブドウのチーズタルトがありました。 チーズタルトの上に半分に切ったブドウが並べられ、レモン水のゼリーで閉じこめられてました。 ブドウがシャインマスカットで高かった…
[一言] どっちもメッチャおいしそう……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ