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キース・レッスさまから聞いた情報をしっかりと脳内メモに刻み込んで、私はそれを元に王子宮筆頭と情報交換を行いました。
当然あちらでも情報の収集で好みやそれに対してどのようなおもてなしをするかすでに準備を始めているからです。
当然婚約者なのですから、王太子殿下サイドも同程度王女の好みなどは把握していると思いますが情報の共有って大事じゃないですか。
もしかしたらどこかで間違っていたり、新しい好みが判明したりすることだってあり得るのですから無駄ではありません。
再確認というのは、手間ではなく必要なものだと私たちは考えていますからね!
その結果基本的に王女は肉より魚がお好きで、ワインは白の方が好き。煮込み料理を特に好まれており、果物ではブドウが一番だということが確認できました。
加えて、キース・レッスさまからの情報により今回行く町で王女のお好きな魚を流通させたいというあちらの国の思惑がわかったわけですが……おそらく、遠方に嫁ぐ王女が故郷の味をいつでも味わえるようにという親心というやつなのでしょう。
(ほっこりするわあ!)
当然、この件についてはコストの問題があるので確実とは言えないわけですが……それでもそんな事情ならばきっと上の人たちも考慮してくださることでしょう。
まあ、勿論それだけじゃありませんけどね。
他にも魚に続いて魚介類を……となれば輸入関係で関係者はキリキリしちゃうことでしょう。私は詳しくありませんけども。
(とりあえず基本的に王太子殿下とお過ごしの際は紅茶と白ワインを常備すると王子宮筆頭は言ってましたね……)
プリメラさまとのお時間で可能性があるのは、公務、お茶、お食事……大体この三点です。しかしプリメラさまは公務ですので、おそらくその間王女は王太子殿下とお過ごしになるのでしょう。
だとするとお茶の時間、あるいは王太子殿下を交えてのお食事。
ただ、王女の希望は『未来の義妹と親しくしたい』というものですから、二人でお話ししたいということもあり得るということです。
(となると、王女宮で準備するのはお茶会に関するもの……ですね)
王太子殿下を交えての食事ともなれば、王子宮筆頭の管轄です。
ふーむ、じゃあ公務以外に失礼でない程度にラフで、それでいてプリメラさまの愛らしさを存分に発揮できるドレスも準備しておくべきですね……!!
(……折角だから)
ご側室さまのアクセサリーを、身につけてはいかがだろうか。
ふとそんな風に思って私はその考えを振り切るように首を左右に振りました。
公務の合間に他国の王女と過ごされるのですから、将来身内になるのだということを差し引いても半公務と考えるべきなのだからそれなりのものを用意しませんと。
ただ、持って行くアクセサリーの候補として考えておくことにしましょう。
お決めになるのはプリメラさまです。
(キース・レッスさまの話から考えて、おそらく王女お一人だけで見れば大変友好的なのでしょう。ただ、周囲はまだ警戒していると言ったところかしら)
わざわざ親睦を深めたいと言うくらいですし、話を聞く限り大変天真爛漫で家族に対する愛情というものを大切になさるお人だということがわかりました。
王女は第三王女で末っ子だということなので、きっと妹ができるのがとても嬉しいのでしょうね。
ただ、なんというか。
王女と一緒に、女性の文官がお越しなのだそうですが……この方が問題なんだとか。
問題と言っても引っかき回すだろうとか、無礼だとかそういう話ではありません。
その方は王女殿下にとっての乳姉妹、つまり乳母の娘にあたるわけですが……あちらの国で王妃さまが産後体調を崩され、乳母を雇った後もその娘を遊び相手として召し上げたのだそうです。
なので年齢は王女の二つ上で、本当の姉妹のように育ったんだとか。
(私としてはその経緯を聞くと、会ったこともないのにそこはかとなくシンパシーを感じるわけで……)
そう、つまりまだ見ぬ彼女は王女に対して保護者という観点を持った、どちらかというとモンスターペアレント的な感じらしいのです。
今回も王女が親睦を深めたかったと零されただけだったのを耳にした彼女が実現させたのだと言うから驚きです。
キース・レッスさまがとても疲れた顔をしてらっしゃいましたよ……。
(ってことはあれか? 魚介類輸入とかの件がむしろ急いで用意した建前なのか? いやまあ、実利が伴うからいいんだろうけど)
まあ、希望が叶って王女は大変お喜びだそうなので両国にとって損はないと思いますけど……。それでいいのか?
さすがの私も国を跨いでまでプリメラさまの願いをほいほい叶えるかって問われると、それはなんか違うような気がするけどなあ……。
まあ、逆を言えばそれを叶えてしまえる文官さん、すごい人ですよね。能力的に。人間的にはどうか、これからお目にかかるのを楽しみにしています。
(……どうしよう、ニコラスさんみたいなタイプだったら)
不安はありますけどね!!
でもそれだけの能力があるにも関わらず、王女の側にいたいからと昇進を望まず、花形の外交官や執政官、あるいは能力を買われての婚姻の申し込みなどありとあらゆるものを蹴っ飛ばして王女の側にいるのだそうです。
王女が望むものはなんでも叶えてみせるし、決して辛い目に遭わせたりしない!
もし泣かせるような人がいたら全力で謝らせるまで動く。
まあ、そこだけでしたら私だって理解できます。
ただ、コレには続きがあって……たとえ王女が悪かろうが悪くなかろうが、王女至上主義と名乗ってはばからないのだとか……やっぱり厄介だった。
……モンペか。モンペだな。
(プリメラさまとのお茶会で、何も起きないようきっちりしないといけませんね!!)
まあこちらは私とセバスチャンさんコンビでいけばなんとかなると思います。
あとは、王太子殿下と王女が共にお過ごしの時にその文官さんがどのような行動を取っているのかを王子宮筆頭とも連携した方がいいのかも?
最初から疑ってかかるのも失礼ですので、ただ要注意人物らしいということだけは伝えておきましたが……。
ただの過保護ならいいんですよ、ただの過保護ならね……過剰なのは困りますけど。
(まあ……変な行動をしたら王女にも迷惑だってわかっているでしょうし、それなら大丈夫かな……多分。プリメラさまだしね! うちのプリメラさまの愛らしさと素直さを考えれば、王女だってメロメロになるに違いないしね!!)
まあ私も若干面倒くさい保護者だと自覚はしておりますが、プリメラさまがしっかり者なので私は心の中で盛大に賞賛するばかりで済む。
はあ、天使で美少女で天才で健気な上に優しくって気遣いもできるとかほんとどこに出しても誰からも愛されること間違いなしですよ、プリメラさま……うふふ、公務で凜々しいお姿を見せてくださるであろうと今から想像するだけで幸せです。
(……とりあえず、ブドウのデザートでも考えてみるべきかしら。季節的にはこの国のものは難しいけれど、あの町なら北方の品種があるはずだし……)
ブドウにこだわらなくてもいいかもしれませんけどね。
一応候補に入れるだけ入れておきましょう。
(よしよし、やることがはっきりしてきたぞ!)
デザートの試作、頑張りましょう!!




