表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

356/646

353

「ミュリエッタさん、お加減はどうですか? まだもう少々、時間がかかるようですがあまり辛いようでしたら、ニコラス殿を探してきますが」


「ユリアさま。いえ、大丈夫です」


 お義母さまに言われて私はミュリエッタさんと少し話をするため、彼女の傍に歩み寄りました。

 少しだけ驚いた様子を見せたミュリエッタさんでしたが、それでもすぐに外向けの、明るい笑顔を浮かべたのはさすがです。


 もう少し、年相応に振る舞えばいいのになんて少し思いましたが、これはこれで彼女自身を守るための(すべ)だったのかもしれませんね。


「そうですか、それなら構いませんが……辛いようでしたら、いつでも言ってくださいね。私たちは親しい友人というわけではありませんが、この場では助け合うことが大事ですから」


「……はい」


 親しい友人ではない、それは間違っていません。

 けれど、このパーバス伯爵家の中にあって、ミュリエッタさんがもし助けを必要とするならば声をかけやすいのは誰なのか……となったら、やはり同性である私なのではないでしょうか。


 お互いの心証はともかく、ね。


 なんせミュリエッタさんがおかれている今の立場はストレス満載だと思うんですよ。

 腹の内がわからない、しかも味方とは言い切れないニコラスさん。

 表向きは友好的だけれど、セレッセ領でのことから彼女が苦手にしているであろうキース・レッスさま。

 正直、私の護衛なので、彼女が助力を求めてきても率先して動いてはくれないと想像に難くないレジーナさん。

 なにかよくわからないけれど彼女の動揺スイッチを持っているお義母さま。


 そして、恋のライバル的な……私、ですものね。

 いやあ、なんでこうなったんだってきっと彼女も思っているに違いありません。私も思っていますからそこはよくわかりますとも。


 よくわからないけれど、いいように偉い人たちが巻き込んで利用しているっていう立場は似たようなものですからね……。


(私たちの関係か)


 自分で言っておいてなんとも奇妙なものです。


 彼女は気づいていないかも知れませんが、私とミュリエッタさんは同じ転生者。

 それなのに、どうしてこうも違う立ち位置になったのでしょう。


 私はただ、真面目にプリメラさまの幸せを考えて暮らしてきました。

 その働きぶりを認めてもらって、今こうしているわけですが……少し過分な期待を感じたりもしますが、その辺りもまあ周囲の助けもあってなんとかやっていけているんですよね。


 対してミュリエッタさんは、ヒロインという主要キャラの強みを活かして知識をフル活用した結果、その魅力とチート能力を余すところなく発揮しているのではないでしょうか。

 ただ、それがゲームと同じ展開ではないこの世界にそぐわなかったのか、空回っているようですが……。


(……上手くいかないって彼女は気づいているハズなんだけど、諦めないところは強いんだよなあ)


 その方向性を間違えなかったら、彼女はあっという間に世間にもっと認められてそれこそ『英雄』になった父親を超える人気者になると思うんですけれどね!

 しかし、ミュリエッタさんにはミュリエッタさんの考えがあるのでしょう。


「……ユリアさまは、恋愛してるんですよね」


「え?」


「アルダールさまと」


「え、ええ」


「ご両親は、政略結婚なのに?」


「……私の父と、亡くなった母は恋愛結婚だったそうですよ。実母の記憶はあいにくありませんので、詳しくはお答えできませんが」


「あたし、恋愛は大事だと思うんです」


「……え? は、はあ」


「愛し、愛されて、周りに祝福されるのって素敵じゃないですか。憧れます」


「そ、そうですね……?」


 唐突に話しかけられたなと思ったら恋バナですか!

 いえ、別に深刻な話題よりはずっといいんですけども。だけどなんだかこれは、雲行きが怪しい……?


「憧れなんです。……あたしは、ずっと、憧れていました」


「……? ミュリエッタさん?」


「だから、諦められません。諦めることなんて、できません」


 静かな声でした。

 お義母さまと、レジーナさんがこちらを気にする様子もなく談笑していることからも、きっととても自然なほど彼女の表情は穏やかで、落ち着いた声だったからでしょう。

 私も、言われた瞬間は他愛ない話をされているくらいの雰囲気でしたもの。


「……貴女が、嫌いになれる人だったら、よかったのに」


「ミュリエッタさん?」


「そうしたら、あたしは正しいことをしているって思えたのに」


 なにを言われているのか、言葉はわかるけれどその意味がよくわからない。

 ミュリエッタさんは笑顔で、そりゃもう可愛らしい笑顔なのにその目が笑っていなくてぞっとする。

 勿論、そんな雰囲気に呑まれるほど私もヒヨッコじゃないからなんてことないようにその視線を真っ向から受け止めましたけど、内心冷や汗ものでした。


 そして沈黙を迎え、彼女の方からすっと視線を外したかと思うと冷め切ったお茶に手を伸ばしたミュリエッタさんが、再び顔を上げて笑顔を見せました。


「あたし、ちょっとニコラスさんを探してきますね」


「えっ、ええ……あの、では誰か人を呼びましょう。勝手に出歩くわけには参りませんから」


「いいえ、大丈夫です。この部屋を出て誰かに聞きますから」


 私の言葉を切り捨てるようにして、ミュリエッタさんは空になったティーカップをテーブルに戻し、立ち上がりました。

 そして軽い足取りで扉の方へ向かったかと思うと、我々に向かってとても綺麗なお辞儀(カーテシー)をしたのです。


「きっともうすぐ、みなさんは帰ってしまわれるでしょうから。先にご挨拶だけしておこうと思って!」


 朗らかな、天真爛漫なヒロインらしい(・・・)その笑顔は愛らしい。

 けれど、それがミュリエッタさん(・・・・・・・・)のものなのか、私にはわかりませんでした。

 そして彼女がなぜそんなことを言ったのか、それを知っているのかとレジーナさんをちらりと見ましたがあちらでも驚いているようでした。


(いえ、確かに私たちは目的が違うのだから、当初の目的である『弔問』を済ませた以上私たちが先に帰るのは最初から決まっていた話だし……)


 ミュリエッタさんはエイリップ・カリアンさまの謝罪を受けたら帰る、その目的の違いで帰りが別になることは当たり前なのです。

 それは、わかっています。

 わかっていますが、まるで彼女は今、こういう事態になることを知っていたかのようで、それが気持ち悪かったのです。


(まさかこれもゲームのイベントにあるとか!? いやそんなの私知らないし……待って、隠しイベントとか!?)


 この世界はゲームじゃない、そう割り切ったとはいえ似通った点が多いことは現実です。

 それゆえに、もしそうなら……なにが起こるのだろう、そう考えると行き着くのは一人の女性。


 そう、パーバス伯爵家に縁があって、そこからバウム伯爵さまの手を借りて逃げ出すこととなった、ライラ・クレドリタス夫人です。


(いや? でも待って、ミュリエッタさんは以前、なんて言っていた?)


 実母のことを誰かから聞いてショックを受けるとかなんとか、それを慰めてあげられるのは自分だけだっていうような発言をしていましたよね?

 しかしそれは現実問題起きていなくて、それにゲームで考えるなら時間軸的にも彼女が学園に通っていないから当たり前なんだけど、それはアルダールが誰ともお付き合いしていない状況で……ああ、もうわからないな!?


(でも、だとしたらもしかしてミュリエッタさんはそれ(イベント)を強制的に起こそうとしている、とか……?)


 いえ、無理でしょう。

 なんせ暗躍では遙かに彼女の上を行く、ニコラスさんがいるのですから。


 けれど、お義母さまじゃありませんが……私は出て行ったミュリエッタさんを、今まで以上に『危うい少女』と思わずにはいられなかったのでした。

 

ようやく次回から話が進むよ!


-------------------------------------------


書籍付ドラマCDと6巻が同時発売となりました。

いつも応援ありがとうございます°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こちらもよろしくお願いします!

魔法使いの名付け親完結済
天涯孤独になったと思ったら、名付け親だと名乗る魔法使いが現れた。
魔法使いに吸血鬼、果てには片思いの彼まで実はあやかしで……!?

悪役令嬢、拾いました!~しかも可愛いので、妹として大事にしたいと思います~完結済
転生者である主人公が拾ったのは、前世見た漫画の『悪役令嬢』だった……!?
しかし、その悪役令嬢はまったくもって可愛くって仕方がないので、全力で甘やかしたいと思います!

あなたと、恋がしたいです。完結済
現代恋愛、高校生男児のちょっと不思議な恋模様。
優しい気持ちになれる作品を目指しております!

ゴブリンさんは助けて欲しい!完結済

最弱モンスターがまさかの男前!? 濃ゆいキャラが当たり前!?
ファンタジーコメディです。
― 新着の感想 ―
[良い点] ジレジレ期間が終わりを迎えそうなところ [気になる点] ミュリエッタ嬢が着実に破滅フラグを立てている… 彼女、アルダールじゃなくてアルダール(ゲームキャラ)にしか恋してないってフラグ回収す…
[一言] 考えすぎという気もしますが…。 ユリアは知らない情報ですがゲームでアルダールに実母の情報を伝えるのはパーパス家と癒着したタルボット商会の手のもの。 パーパスとタルボットの縁が切れている現状で…
[一言] いえ"危うい少女"ではなく"危ない少女"ですよww 自分の憧れの為ならアルダールが傷付いてもいいとか…やべぇですwすんごいざまぁを期待したいわ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ