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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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348 聞こえてくる、現実の足音

今回はミュリエッタさん視点です。

 あたしは、なにも間違ってなんかいない。


 恋は素敵なものでしょ?

 誰だって素敵な恋に憧れる。


 あたしはこの世界のヒロインとして生まれ変わったんだもの、素敵な恋を手にするために生まれてきたようなものだと信じているの。

 可愛いし、強いし、貴族にもなっちゃうしで完全無欠とはまさにこのことって感じでしょう?


(……どこでどう間違えたのか、修正がたいへんだけどね)


 ちょっと調子に乗ってたのは認めなくっちゃ。

 反省は次に活かすものだって誰かが言っていたものね。家庭教師さんだっけ?


 色んな失態に対して反省をする態度を見せて、治癒士として努力したらみんながあたしに注目してくれる。

 若くて可憐なレディにみんな夢中になるのが目に浮かぶよね!

 まあ、あたしの目的はアルダールさまただ一人なんだけど……。


 なのにお目当ての相手からは遠ざけられて、近づいてくるのって言ったらろくでもない感じの連中ばかり。

 この間もタルボットさんが急ぎの用事があるとかで来なかった日、ちょっと息抜きがしたくて町に出たら変な男に絡まれたし!


 なによ、『嫁にしてやるからありがたく思え』って!!


 話を無理矢理聞かされたところ、あの侍女さんの親戚にあたるらしい。

 タルボット商会とも縁を切れそうだしアルダールさまを見返してやりたいからお前で手を打ってやる、感謝しろ……みたいなことを言ってきたからぶん殴ってやろうかと思った。


(まあ、あたしは淑女だからそんなことしないけど)


 一体何様だって感じじゃない?

 あたしは、恋をしている。

 そりゃまあ、まだその恋は実っていないけど……でもこの世界に生まれる前から持っている恋心だもの。運命以外ないでしょう?


 そりゃまあ、その恋心が先走って警戒されちゃったり、恋人がいることに焦って失敗もたくさんしちゃったけど……あたしは、ヒロインだもの。

 物語のヒロインになれるあたし(・・・)が、色々失敗しても本当に運命の相手と結ばれるなんてロマンチックじゃない。


 アルダールさまだって、いつか頑張るあたしの魅力に気づいてくれるはず!


 ……だけど、だけどよ?

 ふと、気づいてしまったの。


 あのモブ侍女であるユリアさまの継母って人に出会って、あたしから見たらすごく若いのにもう子供が大きくて、それが当たり前って姿を見たら……。


(恋をするって、思ってた)


 恋をして、恋人ができて、二人で愛を育んで。

 ……その、先は?


 ゲームだったら恋が実ってハッピーエンド。

 でも現実は?

 それに気がついてしまった。


 漠然と、あたしはアルダールさまと結ばれて冒険者になって、その日暮らしなところもあるけどあたしたちの実力なら問題なんてないし、どこに行ったって歓迎されると思っていたから不安なんてなかった。

 ゲーム通りならバウム家の人たちは家を出る息子に対し、表立ってはなにもしてあげられないけど祝福だけはしてくれて……。


 幸せになれる。

 そう思ってた。


 でも、貴族だけじゃない。農民だって何だって、この世界では早くに結婚して子供を産んで、日々暮らしているわけで。

 女性が冒険者になったり、職を得たりするのは珍しいけど少なくはない。

 そんな中であたしの状況は、特殊だと自覚してる。


(違うわ、あたしはみんな(・・・)を幸せに……)


 みんな。

 そうよ、あたしがゲームの中で見てきた全てのキャラたち。

 みんなに幸せになってほしいから、もっと被害が出るはずだった巨大モンスターだってお父さんと協力して早く倒して、エーレンだってもっと暗い過去になるはずなのを助けてあげた。

 本当だったらプリメラだって友達になってあげるつもりだったし、スカーレットだってそうよ。


 なのに、違っていたから……。


(お父さんとお母さんは仲の良い夫婦だった)


 恋をしてたくさんデートをし、愛し愛され、結ばれた……そう、聞いていた。

 素直に素敵だって思った。

 あたしもそんな風に恋をしようって、小さい頃から思っていたの。


(みんなに祝福されて、恋した人と自由に生きるんだって)


 でも違った。

 ニコラスから聞いた話だとお父さんたちは駆け落ちだった。

 お母さんは自分の家族を捨てて、お父さんとの恋に生きて……死んでしまったんだ。

 祝福してくれた人はどれだけいたかなんてわからない。


 お父さんに聞こうかと思ったけど、怖くて聞けなかった。


 あたしが憧れるのは、祝福された関係で……でもそれって、どこに繋がるの?


 パーバス伯爵家の、あのぶん殴ってやりたい男に謝罪させるために行くぞってあたしの意見なんか無視でニコラスに連れてこられた先。

 なぜか途中、ユリアさまの家に行かなくちゃいけなくて。

 あたしが頭を悩ませる理由になった、あの継母さんに会ってしまって、答えが出ないままの考えがまた頭を占めて、気分が悪い。


 あの継母さんは恋なんてしないまま結婚して、でも幸せだって言っていた。

 義理の娘も、実の息子も大切だって……見ていてわかるくらいだった。


 どうして?

 どうしてそう思えるの?


 あの人の姿が、あたしがアルダールさまと恋を実らせなかった未来みたいで、気持ちが悪い。

 あたしは恋がしたいの。

 恋をして、恋をされて、自分の力で幸せになりたいの!


 そのためには、笑顔でいなきゃ。

 ヒロインは、笑顔の可愛い女の子……だもの!


「……覚えておられないようですが、初めてではありませんよ。ですが一度だけのご挨拶でしたからね、それも仕方ないのかもしれません」


「えっ! す、すみません……」


「生誕祭のパーティーで、僕の婚約者と共にご挨拶をしましたが、覚えておられませんか」


 でもまた失敗してしまった。

 そういえばオルタンスちゃんがいたことは覚えてるんだけど……その時、隣にいた男の子がまさかユリアさまの弟だなんて!

 こんなに大きな、男の子……いいえ、あたしよりも背が高くて、男の人だわ。


(あの継母さんが、産んだ子が、この人)


 あたしは、アルダールさまと結ばれる。

 それがお互いにとって、最高の幸せに繋がるんだって信じている。


 信じているけど……ああ、頭がこんがらがる!


(いいえ、あたしはヒロインなのよ。ミュリエッタは前を向くの。前を向いて、明るく未来を切り開くのよ!)


 こんな現実、知りたくなかった。

 いいえ、知ろうとしなかった?


(違うわ! あたしにとっての現実は、学園生活が始まってからよ!)


 学園生活が始まって、神童って前以上に褒められて、でも驕らず治癒士としてもたゆまぬ努力を続けていく。

 そうしたら、今までの非礼な振る舞いは無知がゆえってことで周りも納得するだろうって家庭教師さんも、タルボットさんも言っていた。


(これからなんだから!)


 でも、もし上手くいかなかったら?

 ゲームと違う現実世界、違うことなんていくらだってある。

 それを無理になぞらえようとするから、前世の記憶がある分シナリオに変異があったっておかしくないんじゃないの?


 その考えが頭の中に浮かんで、消えた。

 あたしはそれを、思い出さないように、決めたのだった。


(あたしは努力してきた。なにもせず、運だけでのしあがったわけじゃない! これからだって、上手くやるわ……!)


 あたしは、ヒロインなのだから。

6巻とドラマCDが7/10に同時発売となりますが、ドラマCDの方は数がやや少なめのようです。

確実に入手するには予約が一番とのことでしたので、よろしければお願いします!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

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