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 朝、プリメラさまとの約束通りご起床に合わせ朝の準備を済ませれば、早速今日の午後はお休みしていいと言われてしまいました。

 やっぱりいたずらっ子の顔をしていたので、何か企んでいるんでしょうがきっと愛らしいものなのでしょう! 今日は王太子殿下と侯爵さまとお茶会をなさるとのことですが……気になりますね。後で教えてもらえるのかしら……と思いつつ私は私でプリメラさまをびっくりさせようと思います!!


「というわけでメッタボン。準備は良いかしら?」


「そりゃまあ、基本的にプリメラさまがご希望しない限り俺が調理場に詰める必要はないとわかってるしかまわねえんだがよ……筆頭侍女殿ともあろうお方が護衛なしで出るつもりかい?」


「そんなわけないでしょう。きちんとプリメラさまにご相談申し上げて護衛をつけていただくことになっています。もう来ると思うのだけど……」


「お待たせいたしました」


「えっ、おい……レジーナじゃねえか……」


「なによメッタボン、私がいたら仕事できないとでもいうの?」


「そ、そんなわきゃねえだろ、なあユリアさまどういうつもりで――」


「あら、仕事で申し訳ないけれど、たまには恋人の時間とまでいかなくても2人で行動してもらおうかと思って」


 そっと笑って見せれば、メッタボンがいかつい顔を一瞬にして真っ赤に染め上げた。

 この男、見た目に反して超初心なんだよね。そう、護衛騎士のレジーナさんはなんとメッタボンと男女の仲なのだ!

 でも2人とも自分の仕事にとても誇りと情熱を持っているから互いの休みが合うことが少なくて、こちらが合わせてあげようとすれば遠慮するという徹底ぶり。流石に申し訳ないというのが私を含めた王女宮で働く者たちの気持ちなのだ。


 だから今回の買い出し&調査は是非2人が一緒に過ごす時間としてプレゼントしよう!

 だってこれ仕事だからね!! という計画である。

 今回は私も一緒だけど、できればジャムとか作りたいから材料探しとか他にも珍しいものがないか調査をいずれは2人に任せたい。


 勿論、今回のことはプリメラさまもご了承済みだ。

 女性護衛騎士のアンナ・ルーニャ隊長も理解を示してくれたし、これはあくまで避暑地にいる間だけのこと。その後王宮に戻れば、いつも通りいつ休みが合うかもわからない関係に戻ってもらうけれど……たまには半日くらいこういうのがあったっていいと思うのです。まあ本来はこういうのは甘いと言われても仕方ないのでしょうし、こういう事情を加味する方がアレなのかもしれませんが……普段とても真面目に働いてくれている人に少しくらい何かしてあげたいと思うのはきっと人情なのでしょうね。

 これを慣例化してはよくないので特例ですよ、特例。

 そこはメッタボンもレジーナさんも理解してくれるでしょう。

 まあ仕事も頼みますし。


 というか、避暑地滞在途中で1日お休みの予定を今すり合わせているところです。


 私には恋人がいないからわからないけれど、昔やっていたゲームとか憧れとか妄想を考えてみるとやっぱり互いに一緒に居たいと思うことが一般的だと思うので。勿論すべての人がそうだとは思わないけれど、少なくともこの2人は一緒に過ごせるなら過ごしたいけど、お互いの仕事への理解度が高すぎるというかなんというか……。


「レジーナさんは私の護衛です、勿論メッタボンも私の護衛を兼ねていると理解していますね?」


「お。おう……」


「メッタボン、ユリアさまは貴方の上司なのよ!」


「うるせえなあ、俺あこの喋り方でも許されてンだよ!」


「ユリアさま! この男は甘やかしてはつけあがるばかりで……!!」


「はいはい、痴話げんかはそこまで。今回侯爵領で探すのは蜂蜜よ」


「蜂蜜ぅ?」


「花によって蜂蜜の味や香りが変わるのは周知の事実ね」


 メッタボンとレジーナさんが同時にうなずく。仲良いな。

 

 そう、私の目的はまず蜂蜜だ。

 薔薇については侯爵さまにおうかがいした方が絶対に早いし、エディブルフラワーのことに関してはむしろ流通していないはずなのでそちらは後回しだ。


 薔薇ジャムを作るのに、蜂蜜が欲しい。

 できれば薔薇からできた蜂蜜が数種類欲しい。わがままですが。

 薔薇で有名な地だからこその贅沢な嗜好品ですし、そこまで拘ると当然お値段も跳ね上がりますのでやはり現地で探すのが一番なのです。

 単花蜜の蜂蜜を採集するには、その花がある一定量咲いている必要があります。 商品として販売するのには、それなりの量が必要になります。ということは、地元民だけで消費する程度ならば売っているのでは?


 大体薔薇と言えばオイルの抽出などで蕾のうちに出荷されることが多いですが、この土地ならばあるいは。


 そう説明した私にメッタボンが手をあげました。


「どうしましたメッタボン」


「ユリアさまは今回何をなさるおつもりで?」


「……あら私としたことが先走りましたね。今回私は薔薇の産地とも言えるこの侯爵さまのご領地で薔薇のジャムを作るのと同時に食べられる薔薇の花を手に入れて、ゼリーにしたいと思っているの。ゆくゆくはその食べられる薔薇を用いてゼリーとババロアの2層ケーキを作りたいなと思っているのよ」


「ゼリーってのはこないだ食わせてもらったからわかる。ありゃいくらでも工夫で味も形も自在だからな。で、ババロアってのはなんですか」


「卵黄と砂糖と牛乳をよく混ぜて寒天を用いたお菓子ですよ。もっちりとしてゼリーとはまた違うクリーミーな味わいです。後で作りましょう。いくらかは持って来てくださいとお願いしてありましたね」


「おう、勿論忘れ物はねえし、ダンのやつにじゃあ少し砂糖とか買いに行かせとくか? 流石に侯爵さまの台所で勝手に材料を貰っちまうといけねえし。料理番たちは喜んでわけてくれるだろうが……できればもう少し作れるようになってからの方がレシピを教えたりし合うのはいいと思うんだ」


 メッタボンの言葉に私は頷きました。よく料理人はレシピは個人の宝だとか言う人もいますし、まあ門外不出の味というのがあってもいいと思いますがメッタボンはそういうタイプではないのです。より良いものをお互いに教え合って高め合ってもっと良い料理を生み出そうという考えなので私もそれに賛同しています。

 今回私が教えたババロアとゼリーがこの世界に広まると思うと胸が熱くなりますね!!

 欲を言えばゼラチンもできて欲しいですが、果たして獣臭さを消したものができてくれるのか……うん、目の前に何とかしてくれそうな人はいますが過重な労働を勝手にしそうなので今はまだ相談しないでおきましょうか。


 とりあえずメッタボンはこの家の料理人に生クリームの絞りを教えてあげたらいいと思います。

 

 しかしよく考えると“冷やす”というのが難しいというのが実はネックなんですよね。

 私は自分の魔法でひんやりさせてゼリーとかを固めますが、実は魔法というのは万能ではないのです。強い魔法使いなら簡単に調整できるだろうと思われがちですが、そこまで細かい調整というのは難しいらしいです。


 ……要するに私の魔力が残念レベルなのが逆にお菓子作りに最適という皮肉です。

 まあいいです。重宝しておりますからね!!


 なので、教えたところでどこまでできるかはまあその人がその後どういう工夫をするかということなんでしょう。料理人たちの切磋琢磨に期待です。そうなれば美味しいお菓子がどんどん生み出されて私が嬉しいという結果に結びつくのですから。


「ではダンにはある程度のお金を渡しておきましょう。領収書は必ず貰ってくるように。いつも通り王女宮あてで構いません」


「おう、ありがとな! ダン!! ちょっと買い出したのまぁ!!!」


 大声でメッタボンが呼べば、どこからともなく下男のダンが転がるようにしてやってきました。

 彼はメッタボンが見つけてきたという彼の弟子にあたる人物です。今はジャガイモの皮むきからスタートですが、文句も言わずメッタボンに怯えず、黙々と修行を積んでいるのでとても好ましい少年です。

 メッタボンはダンに買うものを指示し、いつも通り領収書をもらってくるように言いました。そして私がお金の入った革袋を渡せばそれを悲壮な顔で受け取るのです。


「……毎回言いますけれどね、ダン。財布の中身は確かにあなたからすると大金なのでしょうが、命を危険にさらすほどの額ではありません。安心して買い物をしてくださいね。頼りにしています」


「は、はい!!!」


 ……大丈夫かなあ。あの子。


 さて、私たちも行かなければ!

 勿論目的は蜂蜜ですが、メッタボンの恋も応援してますよ!

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