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活動報告やTwitterでもお知らせいたしましたが、
転生侍女がドラマCDになることが決定しました!
これも皆様の応援のおかげです。
ありがとうございます°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°
「ようこそ、お待ち申し上げておりました」
「……会頭もお元気そうで、お会いできて嬉しいですわ」
「本日は当商会をご利用になりたいとのことで、是非とも私自らご案内させていただこうと思いまして」
「それはありがとうございます」
リジル商会に着いた私は、ハンスさんにエスコートされるような形で店内に入りました。
VIP待遇を希望しているわけではありませんが、私が行くということはすでに会頭に連絡しておきましたのでにこやかに出迎えられまして……いやいや、そんな派手にお迎えしてくださらなくていいんですよ。
ほかのお客さんから注目浴びてますからね!
(……懇意にしているのはリジル商会とジェンダ商会、それを見せつけるためにも買い物をするだけではなく手紙を出すなどの特別感を演出したのが余計だったかなあ)
結果としてみれば、会頭自ら案内してくれるくらいの上客という風に世間は見てくれるでしょう。
特にこうやって、一般のお客さんたちの目の前で出迎えに来ている会頭が目撃されているわけですからね。
そういう意味では大変ありがたい。
ありがたいけど、いいですかここ重要です。私は目立ちたくないのです!!
(なぜこうなった……)
いや、物は考えようです。
リジル商会の会頭と懇意にしているのは『王女宮筆頭侍女』。私個人ではありません!
王女宮としては王室御用達のリジル商会と懇意で何がおかしいことがありましょう。
そうでしょ? ね?
「して、本日はどのような品をご要望ですかな?」
「そうですね、普段使いのレターセット類と茶葉類を。茶葉に関しては私個人が使うものと、贈答用のものの二種類を拝見したいですわ」
「かしこまりました。目利きでもあられるファンディッド子爵令嬢さまが当商会を信用し利用してくださることは大変嬉しく思います」
(……んん?)
にこにこと応じるタヌキ……じゃなかった、会頭を前に私は違和感を覚えました。
今、私のこと、このおっさんなんと呼びやがりましたかね。
私の聞き間違いでなければ『ファンディッド子爵令嬢さま』とか言いましたね。
や、間違いじゃないです。
むしろあってます正しいです。私はファンディッド家の令嬢で間違いありません。
だけど、いやいやちょっと待とうか。
何であえてこの場で、そうやって、呼んだ?
そこで私はふと、思い当たることがありました。
私がリジル商会を利用しようと思ったように、このタイミングを使えたら利がある人がここにいるじゃありませんか。
(まさか!?)
エスコートのために私の手を取ったままのハンスさんを見上げれば、彼はにこーっと邪気のない笑みを浮かべました。
だけどその笑顔こそが答えだなと私は直感的に理解しました!
なんてこと!
(だけど……なるほど、かなり大掛かりに『王女宮筆頭侍女であるファンディッド子爵令嬢がいかに大事にされているか』を知らしめるには確かに良いパフォーマンスでしょうね)
誰に対してのアピールかこちとらさっぱりわかんないままなんですけどね!?
にこにこと笑うハンスさんの様子からは教えてもらえる感じがまるでしませんし、アルダールに今度聞いたら教えてもらえるんでしょうか、これ……。
(私に関することで蚊帳の外はいやだって思った傍からこれか! どうなってんだまったくもう!!)
「あ、ところで」
案内されたのは、商談用の小部屋でした。
以前ディーン・デインさまと共に行ったVIP待遇用の高級品しか扱わない部門ではないとはいえ、室内の調度品はどれも素晴らしいものです。
私が座ったソファのふっかふか具合とかこれ人をダメにするタイプのやつだ……ちょっとほしい……。
若干ソファの魅力に負けそうになった私ですが、ハンスさんが声を発したことで思いとどまることができました。
ありがとうハンスさん! 言わないけど!
「……なんでしょう」
「折角こうやってまともに話ができるようになったんだけど自己紹介してなかったなって!」
「え?」
今?
このタイミングでそれ言うの?
思わず眼鏡がずり落ちそうになりましたね。ハンスさん、あなたって人は……!
「ハンス・エドワルド・フォン・レムレッド。レムレッド侯爵家の三男で近衛騎士隊に所属していて、アルダールとは同室で実は後輩でっす!」
「そうだったんですか!?」
新事実をここでぶち込んできただと……!!
ハンスさんがまさか後輩だっただなんて。
そういえばアルダールはハンスさんのことを説明するときは『同僚』『同室』とだけでしたね……?
「って言ってもそこまで違わないんだけどね。近衛騎士隊は欠員が出たらすぐ補充されることもあるし、入隊時期は必ず決まっているわけじゃないんだ」
「……そうなんですね」
「今回のことは任務だけど、アルダールと俺も友達だしスカーレットとは幼馴染だし、是非ユリア嬢とも親しくなりたいなーって思ってるんだよこれでも」
「……はあ」
「どうせだったらユリアちゃんとか呼んでもいいかなって思ってるんだけど?」
「ご遠慮申し上げます」
かっる!
いやこれはスカーレットがもっと慎みを持てって散々文句を言ってたわけですね。
まあこれが素かどうかまでは私に判断できるだけの材料がないから何とも言えませんが……でもとりあえず、アルダールの同僚ということでそこは信頼しても良いのかなと思います。
だけどユリアちゃんはダメでしょ、かなり無理がありますから!!
「ちなみにですけれど、今日のことはアルダールも勿論知っているんですよね?」
「あー、うん。一応説明はあったと思うよ。多分今されてると思う」
「今って」
「さすがに任務だしあいつもごねないとは思うけど、念のためね。アルダールが護衛でついてきたんじゃいつものデートの延長としか見えないでしょ?」
「まあ、それは……わかりますが」
アルダールが知っているなら、いいんですけど……後で私が問い詰められるとかじゃないわけだし。すべてのことはハンスさんにお願いしますで通せるし。
というか近衛騎士隊でのアルダールってどういう目で見られてるんでしょうか。
「あー、誤解のないように言っておくとアイツは近衛騎士隊の中でも真面目で仕事熱心ってわけじゃないけど、やらせたことはほとんど完璧にこなすしで隊長からの信頼も厚いよ」
「そうですか」
「そういうやつだから、アイツが頑張ってるってのを近衛騎士隊でも応援してるわけ」
「え?」
「まあ、そこは勝手に俺らが言っちゃうのはマナー違反だと思うから。心配しなくていいよ、ユリアちゃん!」
「その呼び方は許可した覚えがありませんが」
「手厳しい!」
ほんとハンスさん、マジハンスさん。
距離感どうなってんだこの人……だけど決して踏み込んでくるってわけでもないから侮れないっていうか、ちゃん付けは止めようね!
「それでユリアちゃんさー」
「ですからその呼び方は許可しておりません」
「手厳しい! まあそれは置いといて……これは情報の出所とかナイショなんだけど」
ハンスさんが少しだけ身を乗り出すようにして、ウィンクを一つ。
なんでしょう、様になっているのがなんだか腹が立つなこの人。
思わず普段以上に真顔になった私は悪くありません。
「パーバス伯爵んとこじゃユリアちゃん経由で色んな商会とツナギを取りたいみたいで、お宅んとこの夫人と弟さんが見舞いか弔問かわかんねえけど行くようなことになったら人質になりかねないから、行かさない方がいいよ」
「は!?」
唐突なるハンスさんの真面目な声音にも、内容にもびっくりで思わず間抜けな声が出てしまいました。
そんな私の様子に満足したかのように満面の笑みを浮かべたハンスさんはそれ以上を語ることもなくさっさと壁際で護衛するかのように……って一応護衛役でした。
だから!
そういう情報を! ぶち込まないでいただけますか!!
……まあ、予想の範疇でしたけど。




