326
そして今回の大本命(?)。
お義母さまからのお手紙……!
良からぬ気配がすると言っては申し訳ないですが、あんまり良いことが書いてあるとは思えないのはタイミングのせいでしょう。
妖怪爺……じゃなかった、パーバス伯爵さまの件とか、あちらの次期当主が金の無心をしてきたとか、その息子がどうなってるんだか知らないけどとりあえず私はノータッチで行きたい。
(まあだからってノータッチを貫けるってわけでもないことはわかっちゃいるけどね!)
お義母さまにとっては実家なんだから仕方ない。
私を関わらせないように、前回だって気を付けてって教えてくれたくらいなので変な内容ではないはず。
「あら……?」
手紙の内容に、私は首を傾げました。
なんせお義母さま自身も把握できない感じで、こちらでなにかあったのかと問うてきた内容だったのです。
それもそのはず。
パーバス伯爵家と懇意にしていたはずのタルボット商会が、当主危篤のお見舞いを機に今後の付き合いは控えさせていただきたいと申し出てきたのだそうです。
出入りの商人との関係は、まあ言っちゃあれですがどれだけ利益を出してくれるお客さまかどうかっていう値踏みもあるので要するに次期当主は儲けにも人脈にもならないって言われたってことですね!
で、それが何の関係があるのか。
当然、ファンディッド家に嫁いだお義母さまになにかできるわけもなければタルボット商会と縁があるわけでもないのであちらから手紙が来てそのような事態になっていると知ったわけですが。
(なんでそこで私が絡んでるって思うのか!!)
どうやら私がエイリップ・カリアンさまとのやりとりを腹に据えかねて(?)、報復として(?)タルボット商会に縁を切るように画策したのではないかと手紙で苦情が届いたんだそうです。
お義母さまもさすがにそんな馬鹿なことあるかと思ったそうですが、念のため『貴女、そんな怖い権力とか持ってないわよね……?』という確認をされたって……あるわけないじゃないですかー!
なんだその商人に手を回して縁を切れって迫ることができるとかどんだけ何を掴んでたらできるんですかね、ちょっとサスペンス小説の読みすぎじゃないですかね!?
「……タルボット商会、ねえ……」
ちょいちょい最近また名前を聞くようになった相手ですが、単純に損得だけで行動したと考えるのは早計でしょうか。
先程もわざわざダイレクトメール寄越してきたくらいですからね、私と懇意になりたい、つまり王女宮からの依頼をとれる商会になりたいという下心は十分にあるでしょう。
そこは商人ですから、意欲があるのは結構だと思います。
方法が真っ当で扱う商品の質が良ければ、おのずとそれなりの評価を受けることはできますがそこから先に進むのは貪欲さなのでしょう。
(それが行き過ぎると、危険なわけだけど……タルボットさんはどんな人物なのか、知る必要があるかしら)
万が一。
ミュリエッタさんを利用して、何かをしでかそうとすることが回りまわってプリメラさまにご迷惑がかかるかもしれない、なんてことはないと思いますけど。
「……聞くだけなら、嫌がらずに教えてくれるかしらね」
ため息をついて私が呼び鈴を鳴らせば、すぐにノックの音がしてセバスチャンさんが顔を覗かせました。
現れたのがメイナやスカーレットでなかったことに少し驚いていると、セバスチャンさんは悪戯が成功したかのように笑みを浮かべてしなやかな動きで私の前までやってきて、優雅にお辞儀を一つ。相変わらずおちゃめです。
「どうかしましたかな?」
「いえ、メッタボンを呼んでもらおうと思いまして」
「メッタボンですか。また新作メニューを思いつかれましたかな?」
「そういうわけじゃないです。ああ、でもそろそろお菓子を作りたいのでキッチンを借りたいのもあるんですが……」
「おやそれはそれは! その際には味見役として呼んでいただきたいものですなあ」
「そうはいっても珍しいものを作るわけじゃありませんからね?」
「はいはい。それでは彼を呼んでまいりましょう。今頃ですとちょうど暇をしているころでしょうからな」
最近ごたごたしてお菓子作りとかをやっていませんでしたからね!
まあマシュマロとか作りましたけど。
スイートポテトとか食べたいんだよなあ、あ、芋ようかんとかも良いかもしれない。
寒天が折角あるんだから作れるじゃない! 盲点でした。
それならさつまいもと砂糖だけだし、セバスチャンさんもきっとお茶菓子として喜んでくれるでしょう。
(それでもってセバスチャンさんとメッタボンに高評価を貰えたならプリメラさまにお出しすることもできるでしょうし)
いや、芋ようかんを王女さまにってちょっと地味かな?
でもたまにはそういうシンプルなのもいいと思うんだ……!
そんなことを考えている間にセバスチャンさんがメッタボンを連れてきてくれたので、私は二人が来るまでに用意しておいたお茶を出して椅子を勧めました。
「おや、私もよろしいのですか?」
「どうせでしたら、セバスチャンさんの意見も伺いたいですから」
「オレが呼ばれるってなぁどういう話題か、あんまいいモンじゃなさそーだけどな」
「メッタボンに話は二つだけですよ」
「二つゥ?」
怪訝な顔をしながらカップに口をつけるメッタボンに、私は苦笑しました。
なんでしょう、野生の勘ですかね……?
「一つは近いうちに調理場を貸してほしいこと、材料はさつまいもと砂糖と寒天です。もう一つは、タルボット商会の会頭について貴方の目から見たものを教えてほしいんです。人となりとか、そういった点を」
「……あぁ、なんかやらかしたのか? ヤるか?」
「ちょっといきなり物騒なこと言い出すのはよしてもらえます!?」
教えてくれって言っただけで、なんか物騒なんですけど。
絶対今のヤるは変換しちゃいけない言葉でしたよね!?
「悪い悪い、前にも言ったけど実家とは縁を切ってるからよ」
「ええ、それなのに聞いて申し訳ないなとは思うのだけど……」
「だけど、なんでまた?」
「……確か、かの英雄のご令嬢の後見をしておいででしたな。それと関係が?」
「いえ、あるようなないような……ですかね」
セバスチャンさんの補足に私は苦笑して、パーバス伯爵家から苦情が来た、ということをかいつまんで話しました。
二人は相槌を打ちながら話を聞きおえると、セバスチャンさんは優雅にお茶を飲み、メッタボンは腕を組んで少し考えているようでした。
「まあタルボット商会がパーバス伯爵家と距離を置こうとしてるのは、ユリアさまに恩を売るとかそういうのは一切ねえと思う。そんなことしたって利はねえからな」
「そうですね、私もそう思います」
「問題は、パーバス伯爵家側がそのように思っておられない、ということでしょうな。あることないこと吹聴されても困りますし、そちらは手を打った方がよろしいかと」
「ですよねえ。まあ、実家には私が関与していない旨をきちんと伝えますが」
きっと今のお義母さまなら、やっぱりそうだよねって納得してくれると思うんだ!
ただ問題はそういうのであることないことパーバス伯爵家側で発言したものが勝手に独り歩きしちゃった時だよね。
さすがにそんな、根拠もない理由でいやがらせされた! とか子供みたいな話をしないとは思いますが。思いたい。だけどエイリップ・カリアンさまが育った家だもの!
という心配は尽きませんので、対処はすべきでしょう。
じゃあどうするのが穏便なのかなって話ですが、出来れば私自身がパーバス伯爵家と話をするのは避けたい。
かといってタルボット商会と話なんかしに行ったら、万が一、噂がすでに外に出ている場合「やっぱり繋がりが……?」なんて思われてもたまりません。
商人には商人を。
これは今回、私が懇意にしているジェンダ商会とリジル商会にお買い物でも行きましょうか! 大手を振ってお買い物の、チャンスです!!




