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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 オルタンス嬢はまるでその日のことを思い出すかのように目を閉じて、うっとりとしたため息までついて……え、何その状況?

 ちょっと状況のわからない私としてはとてもじゃないですが何が起こっているのかと逆に不安になるっていうか、彼女のそれまでの言葉や今の表情を見る限りまあダメなことじゃないってのはわかりますけども。


(でもなんだか過大評価されているような予感しかしませんが……?)


 美少女にうっとりされる状況ってどんなだよ、って思いませんか。

 それにあの日ってどの日だ。


 さっぱりわからず置いてけぼりを食らう私をよそに、オルタンス嬢はうっとりとした表情のまま言葉を続けました。


「王女殿下の生誕祭、あの日のパーティには私も兄と共に参加しておりましたの。そして、私が初めてユリアさまのお姿をこの目で確認した日でもありました」


(あ、そうだったの?)


 あの日、彼女もいただなんて知りませんでした!

 確かにキース・レッスさまが『ファンディッド家姉弟によるお涙頂戴物語』に一枚かんでいたのでオルタンス嬢がその場にいてもおかしくはないですが。

 あの時は周囲に気を配る余裕がなかったですからね……緊張しすぎて吐きそうでしたもの。


「あのお話については、当時は知りませんでしたが……今は詳しくメレクさまから説明を受けております。それ故に子爵位を早めに継ぐのだという意思を示していただきましたから」


「メレクが……」


「その時、私は見たのですわ」


「な、なにを……?」


「王女殿下が壇上に登場なされて、ユリアさまに微笑みかけられた一幕がございましたでしょう?」


「あ。あー……そんなこともありましたね」


 そうですよ、あの時プリメラさまが私に気づいて微笑みかけてくれたから嬉しくって、でも周囲の貴族がこっちを一気に見たもんだからびっくりしたのを覚えています。

 あの視線の中にオルタンス嬢、いたんですかね!


「筆頭侍女というお立場を得たといっても、所詮は侍女だと私はその時まで思っていたのです。ただ人に仕え、頭を下げ、それで何を得られるのだろうって」


「……」


 オルタンス嬢が申し訳なさそうに、それでも隠さず素直に言う姿には好感が持てました。

 一般的に侍女とか、まあそれなりの地位ではありますがやはり貴人が就く仕事ではないと思われているのが現状です。

 その中で結婚するあてがない、もしくは実家が裕福ではないなどそういった中でそれなりの家柄の人が多いと言われてしまうのです。


 ですから、彼女の言っていることは世間一般の侍女イメージってやつなのでしょう。


「でも、あの時王女殿下は誰よりも先に貴女さまを見つけられて、とても……とても嬉しそうに微笑みかけられました」


 プリメラさまは、確かに私を見つけて嬉しそうに笑ってくれましたよね。ええ、覚えておりますとも!

 あの時のプリメラさま、可愛かったよね~……って違う。

 

(え、そこ? そこなの?)


 確かにプリメラさまは可愛いですが、その笑顔を見て侍女って素敵! って思ったとか……なわけないですね。

 あの時なにがあったっけな、と必死に思い出す私にオルタンス嬢はそれまでうっとりとしていた表情をきゅっと引き締めて、私を見ました。


「王女殿下に微笑みを向けられた際、ユリアさまもまた、とても嬉しそうに笑みを浮かべられて……私、その時に思ったんです。信頼し合っておられるのだ、と。それがすごく羨ましいって」


「羨ましい、ですか?」


「はい、愚かなもので私はそれまで上に立つものと下に立つもの、それらの関係性について考えたことはございませんでした。職を得るのであれば上に立つ、それもできれば上の方に。その程度にしか考えがなかったのです」


 オルタンス嬢が言っているのはなかなかに上昇志向が強いというか、なんだろう……どうせだったらてっぺん取ろうぜ! みたいな感覚なんでしょうか。

 具体的に何がと問われると答えられないけれど、誰かの下にはつきたくないからそういう道に進みたいな……みたいな。

 うちのお父さまが言う“長いものに巻かれて言われるまま流されるまま生きよう”っていうのと対極ですね。


「でも、王女殿下とユリアさまのお二人には、確かな絆がおありのように見えました。たかが侍女と思っていた私には、それが衝撃だったのです」


 そして思い返してみれば、自分にも幼い頃から一緒にいてくれた信頼できる侍女がいて、彼女たちがいるから今の自分があるのだと思い出したのだそうです。

 上に行くことばかり考えていて、視野の狭くなっていた自分に気が付き、そして自分がなぜ上を目指したいのかを考えた時に愕然としたのだとか。


「たった一人の兄に認めてもらいたい、信頼できる家族でありたいと思ってそのために、容姿を活かせないのであれば兄のようになりたいと……それなのに、私は自分が信頼を得たいと言いながら誰のことも見ていなかった」


 そこにプリメラさまと私の関係を目の当たりにして衝撃を受けた、ということらしいのです。

 

「そして兄にメレクさまをご紹介いただいて、その時初めてお言葉を交わしたのですわ」


 学のある、はっきりとした物言いの女性だとメレクの同年代があからさまに嫌な顔をしたり、遠ざけようとする中であの子はむしろ同じくらいの年頃で知識の塊となっていたオルタンス嬢のことを高く評価したのだとか。

 

「自分にも働いている姉がいて、とても尊敬していると仰って。私……殿方に、勉強をしていたことを褒められるなんて初めてでしたの!」


 くすくす笑うオルタンス嬢は、宝物を持つかのように胸元できゅっと手を握り締めていました。

 きっとあの日のメレクとの出会いは、彼女にとって大切な思い出なのでしょう。

 ……こうして見るととても微笑ましいんですけれどね。


 話の中心に私のことがなければね!?


(いやー……まさかそんなことになっていたとは露知らず)


 真面目にお仕事していて評価されるというのは大変ありがたいことですが、このような出来事が脇で起こっていただなんて誰が予想するでしょうね……。


「では、そのことが理由だったのですか?」


「はい。私にとって原点を教えていただいたのです。どのような形であれ、そこに信頼を築き上げるまでがいかように大変か……そして、その姿勢があるからこそ多くの方々がユリアさまを評価しているのだと思えば、私にとって尊敬すべき女性なのです」


「……ありがとうございます、オルタンスさま」


 かなり上方修正されている好感度にいまだ戸惑いは隠せませんが、とりあえずあれですよね。

 つまりまとめると、オルタンス嬢はちょっと背伸びしてキース・レッスさまに追いつこうと思ったけどかなりそれが難しい状態だった。

 そこに女性として働く私という存在がいて、侍女って職を知らず知らず見下していたのにプリメラさまとの信頼関係を見せつけられて仕事をするってことについて考えるきっかけとなった、と。


 で、私の影響を受けているメレクが彼女を褒めたからとってもとっても嬉しかった。

 そういうことで良いでしょうか!


「ですので私はもう無理をする必要はなくて、今の自分を大事にしてできることから始めようと思ったのです。その際に、メレクさまとの婚約の話が持ち上がりまして……」


 ぽっと頬を赤らめたオルタンス嬢は、可愛らしい。

 私はなんだか色々と追いつけない気持ちはありますけれど、まあ疑問が解消されてほっとしたと言いますかなんて言えばいいんでしょうね……。


「あ、そういえばユリアさまはウィナー男爵令嬢をご存知ですか? ご存知ですよね!」


「えっ? あ、ああ、はい。勿論」


「彼女と私、学園で会ったのですけれどとても変わった方ですのね。平民の方というのは、みんなあのように振舞われるのでしょうか? だとしたら私もファンディッド子爵領の方々にどんどん話しかけた方が良いのでしょうか」


 ぽんっと思い出したように質問を投げかけてくるオルタンス嬢が、小首を傾げて可愛らしく聞いてきたことに私は笑みを引きつらせました。


(ああー、そうだった。彼女はミュリエッタさんと面識があったんだったね……!!)

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