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お義母さまのはからいで、私の部屋もなんだかグレードアップしておりました。
ああいえ、特に華美になったとかそういう意味合いではなく、ちょっと古かった家具がリメイクされていたり壁紙が綺麗になっていたりとかそんな感じで。
あと、殺風景だったからと綺麗な花が飾ってありました。
(……なんだか、うん。帰って来たなあって思うなあ)
帰ってきてるんですけれどね、実際。
でもなんとなく、今までよりもずっと『帰省した』という感覚でいるといいますかなんといいますか。
私にとって今までの実家は若干居心地が悪いもので、やっぱり無意識に避けていた部分があったんだなあと改めて反省する次第です。
家族で過ごしたんだなって改めて思うっていうのもやっぱり変な状況ですが、色々ちぐはぐだったものが正常化するってなんだかこう、上手く説明できないですね。
とりあえず手紙でもある程度のことは知らせてもらっていましたが、顔合わせ会についての詳細は明日ゆっくりと話すということで今日は解散しました。
部屋に戻ってきて、ちょっと行儀が悪いですが髪をほどいてベッドに後ろ向きに倒れこみました。
(クレドリタス夫人のこと、アルダールに聞いてみる?)
いや、でもアルダールはあの人のことなんて聞きたくもないんだろうな。
それでもバウム夫人に預けた、バウム家の醜聞……それをパーバス伯爵家経由でお義母さまが私を案じるってことは何かしら筒抜けである可能性は否めません。
いいえ、むしろ筒抜けだとはっきりしたと言うべきでしょうか?
(だとしたら、やっぱり……放置はできないよね)
把握はしているかもしれないけれど、伝えておくべきなんじゃないだろうか。
直接バウム家と連絡を取るなんてことは当然暴挙にも近い行動だから、アルダール経由になるのはこの際しょうがないと思う。
(報せなかったらそれはそれで心配かけそうだし、ね)
アルダールは心配性で過保護だものね!
でも今回の帰省は顔合わせが済んだらすぐ戻る予定になっているので手紙を出しても私の方が先に着いてしまう可能性もあるのかしら。
だとしたら、ちょっとお金は余分にかかりますが特急便にして……でも内容はどうしよう?
(どこか事故で誰かの目についても困りますし)
内容は特に気を付けるべきでしょう。
じゃあなんて書けばいいのかな。
先日、問題行動を起こした夫人についてお聞きしたいことがあります、とか?
いやいや、なんだかすごく事件性を感じる内容だな!?
しかも色んな意味で隠せてないな!
(だめだ、落ち着け私)
そうです、冷静に冷静に。
ちょっと動揺が隠せてない。
前世もそうだし、筆頭侍女としてこんな風に困ったクレーマーっぽい感じの人相手にだって冷静に対処してきたでしょうユリア!
今こそそういった経験をフル活用して当たり障りない内容を考えるのです!!
(直接的な表現は避けて、誰が見ても問題なくて、……それでいて当人には伝わる文章、ねえ……)
体を起こして、机の中から簡素なレターセットを取りだす。
旅先で手紙を書いたりすることもあろうかと、持ってきていたのです!
いやあ備えあれば患いなしってやつですよ。
(とりあえず、時候の挨拶を書いて、そうそう、キース・レッスさまが馬車に乗せてくれたことも書こうかな)
他愛ない世間話から始まって、それのどこかに大事なことを挟めば良い、常套手段ですね。
(バウム夫人に先日お願いした件、どのようになっているのかお聞きしたいので城に戻った際にお時間頂けますか……当家の親戚よりその件についての話が出ましたので、できれば急ぎでよろしくお願いします、っと)
うん、これ無難じゃない?
誰かが見ても私がバウム夫人に何かをお願いして、それに対する問い合わせをアルダールを通して行っているように思うだろう。
(……まだるっこしいよねえ)
城に戻ればアルダールとは恋人同士なのだから、一緒の時間も当然多いのだけれど。
それでも一分一秒でもアルダールにとっての危険因子を遠ざけたいなって思うんです。
予想でしかありませんが、ミュリエッタさんの『予言』にあるアルダールに実母のことを告げてくる内通者っていうのはパーバス家繋がりなんじゃないでしょうか。
だってお義母さま経由でこうして繋がりを示唆してくるくらいですしね……。
(何が目的かが問題だけど)
私に直接関わる内容ってことはないんでしょうが、アルダールが受ける精神的苦痛があるなら私だってなにかしたいじゃありませんか。
とりあえずはこうして『何かあったんだな』ってことだけ伝えられれば良いのでしょう。
あとは……キース・レッスさまにも、ご相談した方が良いのかしら?
この辺りがすごく微妙よね、バウム家の問題をご存知だっていうのはもうわかってますけれども、だからといって私が相談するのはまた違う気もするし……。
(大体、パーバス家が大人しくしててくれれば良いのに!)
クレドリタス夫人も含めてどうしてこう、あっちの家の人は面倒ごとを起こしそうな雰囲気を醸し出すんだろう。
お義母さまはもうファンディッド子爵家の人間ですからね、ノーカンです。
「これでよし、と」
封をして、明日にでも商人を通じて特急便で出すことにしましょう。
アルダールの反応が怖いですが、きっと今の彼はクレドリタス夫人がどうのこうのっていうのは不快ではあってもそれに左右されるとは思えません。
(……ただ、バウム伯爵さまのお考えがわからないからなあ)
クレドリタス夫人のことは私の中ですっかり終わったことと思っていたので、実家でまで話を聞くことになろうとは誰が予想できたでしょうか。
そりゃまあ町屋敷で会った時は衝撃的でしたし、それがまさかミュリエッタさんの口から聞くことになったのも驚きでしたよね。
でもバウム夫人が預かった、それで私には十分でしたから。
(……パーバス領での彼女は、少なくとも領主筋が顔と名前を憶えているくらいには近かったのかしら?)
お義母さまに来た手紙というのがどんな言葉でそれを記していたのかまではわかりませんが、少なくともそれが起点となってパーバス家とバウム家が仲たがいしたってことでしょう。
いえ、元々仲が良いとは限りませんが。
(考えすぎてもしょうがない、か)
キース・レッスさまに関しては……今回は黙っておきましょう。
喜ばしい顔合わせで折角お越しくださったのに、何か起こるか不明なままでバウム家のお話をするのは筋違いだと思いましたので。
本当に必要だというならば、アルダールの方が動くと思うし。
私は私でやれることをやったら、自分がすべきことをしなくちゃいけない。
(……ミュリエッタさんの言っていたことが、本当に起きるとしたら)
それでも、アルダールに必要なのは、彼女ではないはずだ。
時として逃げることは必要だけど、全てから目を背けるほどアルダールは一人ではないのだから。
(それに、ただの偶然ってこともありますからね!)
パーバス家の人たちは意地が悪いとは思いますが、決して暗躍するって感じじゃありませんものね。伯爵本人以外は。
アルダールを敵視するエイリップ・カリアンさまは特にそういうのは苦手でしょうからね。
「……そういえばあの人、ミュリエッタさんにアプローチするみたいなこと言ってたんじゃなかったっけ……?」
ふと思いましたが、あのお茶会の時にそんなことは言ってなかったからまだ会ってもないのかもしれません。
まあ騎士隊に入ったならそれどころじゃないかもしれませんけどね!




