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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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 それから普段通りの生活の中で、ちらほら聞こえてくるウィナー家の話題。

 最近羽振りが良いようだとか、多くの貴族たちの茶会に父娘揃って顔を出しているとか……治癒魔法が関わっている気がしますが、詳しくはわかりません。


 とはいえ、流石に大きな話題となって治癒魔法の不文律が乱されてはならないと国からミュリエッタさんのその能力に対して公爵家から貴族たちに、注意喚起が促されました。

 その内容としては要約すると『今後、国のために是非役立ててもらいたいものだから彼女に負担をかけることはせずに、その能力を学園にて育ててもらいたい』というようなものでした。


(……まあもっと有り体に言えば、勝手はするなよ……ってことですよね)


 勿論、王城内でも同様の話が統括侍女さまから筆頭侍女たちにあったんですよ!

 もしミュリエッタさんが王城に来ている時に、どこかの貴族がそういった内容をお願いしている現場などを見掛けたら即座に報告するように侍女たちにも周知させておきなさいということでした。


(ミュリエッタさんは国のために貢献するってことなんですかね?)


 余計に学園での生活が勉強漬けになりそうな気がするんですけども。

 あんまり自分でハードルを上げると、後がキツいんじゃないかなあって思うんですが……がっかりされて解放されるっていう目論みでしょうか?

 そんなワケないか……。


 まあ直接会いに行くわけでもありませんし、王宮側の私が彼女を見掛けることもないでしょうが一応王女宮でも全員に伝えておいてありますとも。

 

「ユリアさま、茶葉の件ですけど」


「あらメイナ」


「セバスチャンさんが新しい銘柄を取り入れてはどうかって。それをわたしにやってみないかって仰ってくれたんです!」


「まあ」


「そ、それでユリアさまにも許可を頂いて、いつものに加えて新しいものを少しだけ注文したいんですけど、よろしいでしょうか……?」


 おずおずと言った様子で書類を差し出すメイナに、私は笑ってみせました。


「ええ、勿論です。メイナの選んだ銘柄、楽しみですね」


「ありがとうございます!!」


 ぱぁっと笑顔を浮かべたメイナがスキップでも踏み出しそうな勢いで出て行きましたが、ああいうところはまだまだですね。


 とはいえ今まで紅茶関連はセバスチャンさんが全て担当してくれていました。

 それをメイナに新しい銘柄を選ばせると決めたということは彼女がそれだけ頼りになると判断されたのでしょう。

 私が書類仕事をスカーレットに任せることが増えたように、こうして割り振っていけるというのはちょっぴり寂しくも誇らしいものです。


 メイナの提出してきた書類を再度確認していると、ノックの音が聞こえました。


「メイナ? 何か忘れて……」


「おっと、ユリアさまの可愛い部下ではなくて申し訳ないです」


「……ニコラス殿」


 うわ、最近会ってなかったのにあっちから来るとか。

 ミュリエッタさんとのお茶会以降、特に何もなかったからほぼほぼ顔も合わせずにいたっていうのにわざわざ来たってことは何か用があるってことかと思うと……まあ歓迎したいとは思いませんよね!

 だからといって追い返すわけにもいきませんので、とりあえず無言になってしまいましたが。


「失礼いたします」


「何かご用ですか」


「おやつれない! そんなにつっけんどんになさらなくてもよろしいではありませんか。ボクとユリアさまの仲でしょう?」


「そのように親しくする仲になった覚えはありません」


 相変わらずの笑みを張り付けた、胡散臭いニコラスさんの軽口をぶった切って私は用件を早く言えと視線で訴えかけました。

 にこにこと笑うニコラスさんは執務中の私の前までやってくると、優雅にお辞儀を一つ。


「少し、お耳に入れておこうかなと思いまして今日は参りました」


「……聞きましょう」


 どうせミュリエッタさん関係だろう? そうだろう!?

 でも私が積極的に動くことはないけどね。


 とはいえ情報は欲しい。知っていれば回避できることもあるし、回避できなくても被害を最小限にとどめることはできるかもしれない。

 そこのスタンスは変わらないので、聞かないという選択肢はありません。


(まあそもそも、彼女関連はすっかり私も“関係者”扱いされている以上聞きたくありませんって言ったところでどうしようもないんだから)


 毒を食らわば皿までですよ!!

 あ、いえやっぱりできたら毒は遠慮したいな……。


「タルボット商会をご存知でしょう?」


「……? ええ」


「どうやらウィナー家に資金援助しているようです」


「……」


「今の所は将来性を買って色々と世話をしているって感じですかねえ、ウィナー家の入用なものを勉強価格で融通しているようですよ?」


「……そうですか」


 タルボット商会の得意分野は金貸しだったとはいえ、商会と名のついている以上取り扱いは色々あるのでしょう。

 そもそも私が関わった時に金貸し部門でお父さまが関わったとはいえ、隣国シャグランでの宝石関係の権利が云々ってあったのを私は覚えています。

 

 あの事件の後、多くの貴族たちが罰金や降格、当主の交代があったとは聞いていますが……それによって国内の貴族たちが粛清されたと王弟殿下が喜んでましたよね。まあ主に計画を立てたのは王太子殿下だったと記憶していますが。


(でも、たしか……)


 タルボット商会は貴族たちに手広く商売をしただけ、ということで大きくお咎めはなかったのよね……。

 ただ、ジェンダ商会の会頭がなにかしたらしくて一時期業績不振に陥っていたらしいことは聞いているけどそこは教えてもらえなかったんですよね!


 まあそれで潰れなかったんだから、タルボット商会はやっぱりやり手には違いないのでしょう。


(タルボット商会が実質ウィナー男爵家の後ろ盾になった、と思えば良いのかしら?)


 どっちかっていうと後ろ盾っていうよりも操り人形にしようとしているとかそんな風に思ってしまうのはしょうがないと思うんだよね!

 

 私のそんな考えは当然ニコラスさんも理解している……というかきっとその可能性の方が高いということ前提で私に教えてるんだと思うんだけど。

 教えられたところでこれはどうしろっていうのかわかりませんけれども。

 まあでも後ろ盾ができたんなら、身なりを整えて茶会などに顔を出すというのは貴族としてあり(・・)だと思います。


「今の所社交界での動向は良くも悪くもなく、ですかねえ」


「そうですか」


「今後どこかの茶会などで会うことがあるかもしれませんね? ファンディッド子爵令嬢ユリアさま」


 わざとらしくそんな風に言ってくるニコラスさんに、私は彼に負けない笑顔を浮かべて見せました。


「さて、私は令嬢として茶会に赴くかどうかは今の所予定がございませんからわかりませんが、そのような機会もあるかもしれませんね?」


「おや勿体ない。王女殿下の覚えもめでたく、かの公爵夫人からも友人と呼ばれているとすでに貴婦人方の噂の的ですよ?」


「職務がありますもの」


 ええ、ええ。

 社交界デビューしたからってそこのところを曲げる気はございませんとも。


 そもそもの私の侍女ライフ、目的はなんだって聞かれたら「プリメラさまを悪役になんてしない・寂しい思いをさせない・幸せにする」っていうものですからね。

 そのためには令嬢として茶会とか社交に勤しむよりも侍女としてお傍に仕えていた方がずっとずっと有益ですもの!!


「……本当に変わった人ですよねえ」


 ニコラスさんは少しだけ押し黙ってから、またへらりと笑ってそれで用件は済んだと退出していきました。

 

 ……私は、心の内で『あなたほど変わってませんけど?』って思いましたね。

 口に出さなかったことを誰かに褒めてもらいたい気分です!!

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