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4巻、絶賛発売中です。よろしくお願いいたしまぁぁぁぁぁす!!
電子版はまだのようなので、またわかり次第お知らせしますね!
ナシャンダ侯爵さまからのお手紙は、なんと……なんと私の誕生日のお祝いでした!
知らなくて申し訳ないって書かれてましたけど私みたいな子爵家の、プリメラさま関連で顔を合わせている程度の人間の誕生日なんて知らなくて当然ですよ!?
それどころか遅くなったけれどお祝いの品を贈らせてもらうから、ぜひ使ってくれって……ナシャンダ侯爵さま……!!
(しかもそれを教えたのがジェンダ商会の会頭って辺りがまた)
手紙には詳細が書かれていたのでその辺のこともわかりましたよ!
なんでもバラジャムの売れ行きが好調なので生産数について相談していた際にその話になり、誕生日祝いを贈ろうと思うっていう会頭の言葉で知ったんだそうで……。
あ、ちなみにジェンダ商会からは日持ちのするお菓子の詰め合わせが届いておりました!
キャンディでしょ、グミでしょ、ドライフルーツにナッツ類!
どれもこれも買えない値段ではないですが、その種類の中では綺麗でお値段がやや高めの品です。私の夜のお供です……!!
セバスチャンさんたちが下がった後に届けられた荷物が思いのほか多くて正直ちょっと腰が引けております。
えっ、こんなに頂く謂れはないんですが……お返しどうしたらいいんでしょう……。
まだ手紙が途中でしたが、思わず荷物の方が気になって手紙を一旦横に置きました。
そして荷物の方に、恐る恐る手を伸ばして……。
(侯爵さま、もう少しこう……ああそうだ、あの方あまり世情に聡くないって前に会頭も言ってたなあ……高位貴族ってやつぁ……!!)
ビアンカさまの高級アクセサリーを果物を手にするかのようなあの気軽さは、ナシャンダ侯爵も同じだったのか……!!
実家のお父さまがあれこれと悩みながら買い物をしていた姿と比べてはならないとわかっちゃいますけども、開けるのが怖いなあ……と思いましたね。正直。
(とはいえ、こうしているだけではいけません……!)
覚悟を決めて! いざ!!
運び込まれた箱は大中小と三つ。
まず小さな箱、これにはバラ関係の化粧品が詰まっていました。
これは正直嬉しい! いやぁ、そろそろ買わないとなと思っていた時に手に入ると本当にありがたいですよね。
次に中ぐらいの箱。
これにはバラの花束が入っていました。
「ふわぁ……」
思わず変な声が出て周囲を見回してしまいました!
いやだって、こんな見事なバラの花束は滅多にお目にかかれません。
鮮やかな黄色い大輪のバラが箱を開けたらめいっぱいだなんて……後でちゃんと綺麗に花瓶に入れなくちゃ、すごくいい香り!
そして最後に大きな箱。
これはひときわ大きくて……ちょっとだけ嫌な予感っていうか、見覚えがあるっていうか。
(ああ……、やっぱり!)
開けてみたら私の予想通り、そこにはシックなドレスと手袋が入っているじゃありませんか。
夜会用のようなものではなく、ちょっとしたよそ行き……といったところでしょうか。
途中で放り出してしまった手紙を、もう一度読み直します。
『娘がいたなら、こうした贈り物ができたのかと張り切ってしまったよ。彼の娘にはそういったものは贈れなかったからね。是非それを着てバラ園でも見に来てくれたら嬉しい、勿論王女殿下もお誘いしよう』
ナシャンダ侯爵さま直筆のメッセージカードにはそんな心温まるお言葉がありました。
近々国王陛下の許しを得てから、招待状を送る……と結ばれたその手紙の文面を二度ほど読み直して私はなんだか少しドキドキしてしまいました。
だって娘扱いですよ……!? あんなナイスミドルに娘扱いされたとかドキドキしちゃってもおかしくないと思います。
いやいや、まあ年齢的にはおかしくないのか。
ご側室さまが妹みたいに私を見てくださったことを考えれば、その義父となっているナシャンダ侯爵さまから見たら……うん、そうなるか。
でもちょっと、いやいやほんと恐れ多いな!
プリメラさま関係でお知り合いにならなかったら縁もなかったのだと思うと不思議なものですが、そこまで良くしていただくとありがたいよりも申し訳なさが先に来るんですよね。
貴族としての上下関係感覚と、前世からの庶民感覚。
これらが合わさっての“申し訳ない”なんだからどうしようもないなコレ!!
「でも素敵」
派手過ぎず、地味過ぎず、エレガントで大人の女性用。
私はドレスを手に取って思わずため息を洩らしました。
「……アルダールに、一応、伝えた方がいいのよね」
前に釘を刺されたものね。
約束を守る女ですよ、私は。
でもこれは完全に善意のプレゼントなのだから、ありがたく受け取って……いつかナシャンダ侯爵領にプリメラさまとバラを見に行く時に着ていけたら最高だなあ……!!
(お礼状を用意しなくては。ナシャンダ侯爵さまのお誕生日にはお祝いの品を今後贈らせていただくべきだとして……)
今はこのドレスを着てみたいなあ、なんて。
勿論今勤務時間中ですから着ることはございませんが。
いやいや荷物をほどいてる段階でどうなのかって突っ込まれるのかな。
でもこれはお礼状を書くために必要なことなのです。言い訳ではございません。
荷物をもう一度綺麗にまとめて、私はバラの花束を花瓶に生けてからお礼状を書きました。
(……金額云々については考えないようにしましょうそうしましょう、これはご厚意なのですし、あまりそういった金額的なことを言うのも下品ですからね)
遅れた分申し訳ないからちょっと張り切った……とかきっとそんな感じなのでしょう!
だから今回は素直にこれらのプレゼントを喜ぶべきなのです。
実際素敵だったし。嬉しかったし。
その気持ちを込めて細心の注意を払い、お礼状を書き上げて一息ついて。
それから今度はアルダールに後で会いに行く算段をつけて、っと。
(確か今日は夕方から余裕があるって言ってたから、たまには会いに行ってもいいかしら)
騎士団の宿舎へ足を運ぶのはあまり良い顔されませんけどね。
侍女に絡むような人間はそういないと思いますが、たまにいるらしいので。
特に私のように地味な女はなかなかね、名前と階級が一致しないので……。
いや最近はアルダールの恋人ということで認知されている?
(ああ、でもアルダールにこのドレス見てもらいたいかも)
多分この招待状っていうの、私に対しても『ファンディッド子爵令嬢』へっていう意味で送ってくださるってことですよね。
じゃないとドレスを着て行くことができませんしね。
どうせだったらアルダールも一緒に行けたら……なんてちょろっと思いましたが、まあそんな話にはならないでしょう。
今度個人的にあの見事なバラを見に行きたいとアルダールにお願いしてみましょう!
しかしナシャンダ侯爵さまからの贈り物の数々で、あっという間にミュリエッタさんのことを忘れそうになりました。
いや、まあ……どうなっているかは後でちょっとセバスチャンさんに聞いてみようかなとは思っております。
別段、私が治癒魔法を使っていただきたいとかそういうのはないんですが、彼女の様子が気になるっていうかね?
勿論自ら近づこうとは思っておりませんし、関わって助けなきゃとか忠告しなきゃとかそんな正義感が働いたわけでもないです。
ちょっとだけ大人として罪悪感はありますけれど。
お互いのために、距離は大事だと思うんですよね。ええ。
そのためには知っておくことも必要っていう話なんです。
(……セバスチャンさんなら、きっと何かご存知でしょう。そんな気がする)
我が王女宮の知恵者ですからね!
でも、彼女が大変ですよ……なんて聞いたらまた心配しそうな自分がまだまだだなって思いました。
とはいえ、まずは情報収集です!




