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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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「転生しまして、現在は侍女でございます。」4巻発売開始です!

よろしくお願いいたしまぁぁぁぁぁす!!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°

 茶会も終えて、顔合わせまでの時間もあと半月となりました。

 と言ってもですね、この間のお茶会でオルタンス嬢とはずいぶん話をしましたのですっかり打ち解けられたと思っております!


(なんたって、お義姉(ねえ)さまって呼ばれてるのですしね!)


 いやまあちょっと気が早いんでないかな? って思わなくはありませんが、当人たちが乗り気ですし、むしろファンディッド家の方が家格としては下なのですから喜んで嫁いでくれるというのであればこちらこそ喜んで!! って感じですよ。


 しかし【ゲーム】ではキース・レッスさまに対してブラコンを拗らせ……いえいえ、尊敬してやまぬという風情であったオルタンス嬢ですが、現実はやっぱり違いました。

 ゲームに強制力はない、というよりこの世界はゲームに類似したもの、という私の考えは誤りではないのだという思いが強まりました!


 で、あれば。

 なにごともなければプリメラさまとディーン・デインさまはこのまま幸せにご結婚できるということです!

 

(ミュリエッタさんも、もうどうしようもないでしょうし)


 そういえば彼女だったのでしょうか?

 あの事故の帰りに見掛けたのは。


 薄紅色の髪の女性はそう多くありませんし、城下でとなればやはり彼女のような気もしますが……一人であそこを歩いていたのでしょうか。

 それともウィナー男爵と一緒だったのかしら。


「そういえばユリアさま、お聞きになりまして?」


「あら、なにかあったの?」


 私の執務室で一年分の書類をまとめて保管する作業をスカーレット、メイナと共にしているとスカーレットが作業に飽きたのか、手を止めて私に話を振ってきました。

 まあ飽きる作業だししょうがないなと休憩気分で少しだけ話に乗ると、彼女はものすごく真面目な顔をして言葉を続けました。


「いえ、先日城下で事故があったそうですがその際に英雄の娘が現れて癒しの力を使ったというのですわ」


「……え?」


「それがどこの治癒師の癒しよりも優れているという噂が流れて、今もちきりだそうですわ!」


「そ、そうなの!?」


 いやうん、別に治癒の魔法が使えることは秘密にしておく必要はないのよね。

 元々ゲーム上では学園生活を送っている間にイベントで能力が覚醒、その後はその能力を鍛える項目が出てくるだけで……。


 彼女自身がかなりフリーダムに行動をしているのだから、イベントがどうのっていうのはもう当てはまらないこともわかっているのだし。

 ただ、治癒魔法の使い手というのは非常に稀であることは周知の事実。


(ただでさえ、良くも悪くも注目を浴びている中で、なんで……?)


 巨大モンスター退治の際に使っていたとは思えない。

 ハンスさんを助けたという割に、彼は足を怪我したまま戻ったわけだし。

 でもまあ、王弟殿下とかキース・レッスさまの話を考えればウィナー父娘には昔から監視の目がついていたと思っていいわけだから、すでにそれは知っているだろうから改めてどうこうっていうのはないと思うけど。


(……市民の目のあるところで能力を示したとして、彼女になんのメリットがあるのかしら)


 今の状況を打破したい……というのはこの間のエーレンさんとのお茶会の際に感じてはいるけれど、それとこれがどう繋がるんだろうか?


「英雄の娘は類稀なる治癒魔法を惜しみなく市民に使ったということでまた称賛を集めたようですわ」


「……そう……」


「余計な恨みを買うとも知らず、良い気なものだと思いません?」


「そうね、ウィナー男爵を通じてきっとどなたかが忠告してくださることでしょう」


 治癒師は数が少ないから、高額でしか治癒の魔法を請け負わない。

 誰彼構わず使っては、治癒師の疲弊を招くから。


 そう言われているのを膨大な魔力を持つ彼女が気安くばらまくように使っては色々と不満も噴出してしまうのでは。

 ただでさえ彼らは、一般人から英雄となり国王から取り立てられて貴族にまでなった、ある意味民衆にとってシンデレラストーリーの体現者だもの。


(……厄介なことにならないといいのだけど)


 きっとこれを耳にした公爵家か、或いは家庭教師辺りから注意が入るだろうけどね。

 スカーレットの言葉に私も返答に困ったけど、一般的なことしか言えませんでしたよ!


「え? だめなの?」


「貴女も知ってるでしょメイナ。治癒師が治療しなくたって、薬師だって医師だっているんだから!」


「それはそうだけど、パパーッて治ったらやっぱり嬉しいじゃない」


「あのね、治癒魔法は普通の魔法に比べて魔力を食うものなのよ? 誰彼構わず求められるままに力を使え、なんて横暴すぎるでしょう? だから金額を高めに設定して、本当に必要な人にだけ受けられるようにってしているんじゃない!」


「ええー……だってそれ、富裕層以外はやっぱり不満になると思うんだけど」


「本当に危険で、治癒師を頼るべきだと医師や薬師が紹介状を書いたら補助金が出る制度になっているのを知らないの?」


「知ってるけど……」


 ピンとこないらしいメイナにスカーレットが説明して、納得してもらっていたけれど。

 みんながみんなそういう風に平和的に理解を示してくれるとは限らないのが世の中ってものよね。


 メイナが言うように、制度がいくら整っていたからって近くに治癒能力を使う人間がいたら頼りたくなるのが人間ってものだと思う。

 ミュリエッタさんはそこのところ、どうするのかしら。

 近所の人たちに内緒でお願いって言われたり、高位貴族たちに頼られたら……。


(……まさか貴族の知り合いを増やすためだけに、とか?)


 いやいや、流石にそんな安直な。

 でもなりふり構わずだったらあり得る……? あれほどまでにアルダールがアルダールがって言っていたなら、接点を作る方に進路を定めたとしたら。


 すでに噂になっている治癒能力の高さ、それが民衆に広まったなら貴族の間で広まっていないはずがない。

 国王の威信に傷をつけるわけにはいかないから表立ってどうこうできないんだろうなってのはもうわかっているので、今頃王弟殿下とかが嫌がってそうだなあ。


「でも、流石英雄のお嬢さんってところですよね!」


 朗らかに笑うメイナに、私も何とも言えず頷く。

 いやまあ、普通の人たちからしたらそれが感想だよなっていうのもわかるんですよ!


 私はゲームの知識があるから、彼女の行動が前世の記憶につながるものじゃないかって思うわけで……それでもって色々周囲の思惑とかをちらちらと目にしているわけですし。

 望まないままに巻き込まれてるこの感じ……嫌な感じ満載です!!


 とはいえ、じゃあがっつり巻き込まれたいかって言ったら絶対にノーサンキューですけどね。

 もともと私はプリメラさまが悪役令嬢になって悲しい結末を迎えることを阻止したかったんですから、現状で満足なんですよ。

 変な陰謀を解決するとか救国の英雄になりたいとかそういう願望は一切ございません。


(……ミュリエッタさんも、そういうのが望みじゃなかったんだろうなあ)


 なんで彼女は『英雄』になったんだろう。

 そういえばその辺、聞いたことなかったな。


 ゲームだとウィナー男爵が冒険者として活躍してその娘は恩恵に預かった形だけど、今は噂に聞くだけで彼女もまた冒険者として活躍していたことがわかっているわけで……どうしてゲーム通りにやろうとしなかったんだろう。

 お父さんが心配だったから?

 それとも、チート能力を使ってみたかった?


 思惑が見えない行動は、とても危うくて予想がつかない。


(でも、話せば話すほどあの子……普通の子っぽいんだけど)


 ちょっと痛い発言する子だな、くらいの。

 年相応っていうよりも、少し幼いくらい?

 うーん……関わりたいわけじゃないけど、やっぱりあの幼さを考えると知り合ってしまった以上気になるというか、なんというか……複雑な女心です!


 そんな風に私が悩んでいると、ノックの音がして今度はセバスチャンさんが顔を覗かせました。

 ただいまプリメラさまは神学の授業中ということでこうしてセバスチャンさんが動いてくれているのですが、その手には……封筒?


「先程使いの者が来ましてな。他にも大荷物だったものですから私が受け取っておきました」


「まあ、すみません」


「ナシャンダ侯爵さまよりのお手紙のようですからな、手が空くようでしたらば確認をなさるがよろしいかと思いますぞ」


「はい、ありがとうございます」


 綺麗な模様の入った封筒を受け取ると、メイナとスカーレットが周りを片付けてセバスチャンさんと一緒に一礼して出ていきました。

 いつの間にか、本当に彼女たちも成長しちゃってまあ!


 私は封筒を手に、思わず嬉しくなるのでした。

 でも、この手紙なんですかね?

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