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転生しまして、現在は侍女でございます。  作者: 玉響なつめ


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4巻発売前記念・番外編 働き者の手

7/12に発売される4巻を記念しての短い番外編になります!


時期的には生誕祭のちょっと前くらい、こんな光景があったんだよー……くらいでお考えいただけたら嬉しいです。

4巻と併せてお楽しみいただければ幸いです!(勿論WEB版と照らし合わせてもお楽しみいただけると思います!)

「プリメラとユリア、あの子たちを見ていると、ついついわたくしたちの昔を思い出してしまうわねえ」


 サンルームの中で優雅に茶を飲む貴婦人が、ぽつりと零すように言う。

 その声に、給仕についていた小柄な老婆が動きを止めて、ゆっくりと、ゆっくりと貴婦人の方を振り向いた。


「わたくしたちが出会ったのは、もうどのくらい前になるのかしら」


「さあ……王太后さまが、王太子妃であった頃……でしたから、もう、何十年も……前のこと……ですよ」


「お互い、歳をとったものねえ」


「このババァに比べれば……、貴女さまは、変わらず、輝いてますよ……ほら、ごらんなさい、この、しわくちゃの手!」


「まあ」


 侍女に見せつけられた手は、確かに皺だらけだった。

 だがそれは齢を重ねた人間としては当然のもので、王太后も己の手をそっと見る。


「……そういえば、貴女またユリアにドレスを用意してあげたんですって?」


「生誕祭で、観劇に行くのに、悩んでいたから……少し、話を、聞いてあげただけ、ですよ」


 にっこりと笑った侍女が、本来は腕利きの針子であることを知っているから別段おかしな話ではないと王太后は思うが、その分呆れたようにまた笑った。


「貴女、ちょっとあの子に甘すぎではないかしら?」


「王太后さま、に、言われたく、ないですねぇ……」


 それは主従の関係でありながら、どこか気安い友のように。

 他愛ないその言葉の裏に隠れている温かいやり取りは、二人の関係の長さを物語っていた。くすくすと笑いあう姿は、主従のそれというよりもまるで悪戯好きの少女たちが、互いの秘密を語りあうような、可愛らしい笑みだった。

 

「王女殿下に、甘いから……宝石を譲ったん、でしょう?」


「可愛い可愛い孫娘よ? わたくしが持つ宝石だって埋もれているより愛らしいあの子を飾った方が喜ぶでしょう」


「それ、なら……このババァが、孫みたいなあの子に甘いのだって、いいじゃ、ありませんか」


「まぁ。すっかり祖母気分なのね? ならわたくしと同じね」


 もしこの場を目撃した人物がいたならば、驚いて立ち尽くしたかもしれない。

 社交界の花。王族の中の王族。

 そんな風に数多の名前で呼ばれ、毅然としたその態度から多くの貴族からも民からも未だ衰えない人気を誇る王太后の無邪気な笑顔に。それが小柄で、名も知れぬ侍女に向けられていることに。


「本当に、わたくしたちは歳をとったものですねえ」


「……そう、です、ねえ……」


「でも、悪くないわねえ。貴女とずっと、こうしてお茶をする時におしゃべりをして、孫のことで笑いあえるんですからね」


「そう、です、ねえ……」


 くすくすと笑い返した侍女に、王太后も微笑みを返す。


「茶菓子をとってきてくれるかしら?」


 その言葉にお辞儀をして去っていく小さな背中に、王太后は手をかざして刻まれた皺を見つめ、そして笑って聞こえないようにそっと小さく呟いた。


「わたくしは、貴女の手の皺も、素敵だと思っているわよ」

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